ゴミ出し編
人知れず世の中の人々を救う、そんな組織があった。
活動は幅広く、ボランティアもすれば悪人と戦いもするし、人間に害をなす化け物と戦ったりもする。
その組織の中で高い地位にある人物、通称 長官は自分のデスクである分野のスペシャリストを待っていた。困っている人々を救うためである。
部屋の扉がノックされる。
「入ってくれたまえ。」
長官に声をかけられて入ってきた男はパッと見、メッチャ普通の男だった。オシャレは意識してないようだが、しかし清潔感のある服装、容貌も際立ったところが無く、ザ・普通である。名前も山中 星天球という、ごく普通のキラキラネームである。
「山中、入ります」
「よく来てくれたね、山中くん。さっそくだが君の知識を貸して欲しい。」
山中にイスを進めながら長官は話し出す。
「端的に言うと、この袋を軽くする方法を知りたい。」
「拝見してもよろしいですか?」
意外とズッシリした重さを感じる袋を受け取り、中を見る山中。一見ゴミ袋のようであるが?袋を開けて見る山中。あふれでる生ゴミ臭。うん、見た目通りのゴミ袋でした。
「軽くする方法なら、新聞紙を1枚ずつクシャクシャっと軽めに丸めて、いくつかゴミ袋の中に入れるといいですよ。正確には軽く感じる、と言うべきかもしれませんが」
「待ちたまえ山中くん、普通は何故そんな事を聞くのかを聞き返すのではないかね!?それにだね、」
などと言いつつ山中からゴミ袋を受け取る長官。デスクの引き出しから読み終わった新聞紙を取り出してクシャッと丸めていく。
「こんな事で本当に軽くなるわけが、って軽くなってる!?」
驚愕する長官、にっこり笑う山中。
「実感していただけたようですね、長官。」
「たったこれだけのことで軽くなるとは。いや、軽く感じるのだったか。ありがとう山中くん。しかし一体どういう原理なのか。」
「いえ、原理の解明などはしていませんので私にはわかりません。それが私の謎物理学です。」
かなりふわっとしたスペシャリスト、山中。
「そうか・・・いや、しかしこれで近所の山田さんも救われる。山田さんは路地の奥に住んでいる比較的に大家族で、ゴミ出しは旦那さんの役目なんだ。山田さんは細身のかたでね、ゴミ袋が三つを超える時は二往復さ。」
後日、いつもより若干膨らんだゴミ袋を四つまとめて出す山田さんの姿があった。救済完了。