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厳しい現実

枢密院会議が終わったのはそれから2時間後。

会議室から最後に出てきたライラは明らかにやつれていた。

初めての速記、長時間の会議、しかも議題が隣国カストラ王国からの脅威に備えた軍事体制についてという大変難しいものだったのだ。

速記文字など知らないライラは、とにかく必要な発言や情報を書き殴る戦法に出た。

当然粗さの目立つ議事録になるが、押さえるべきポイントは網羅したと思っている。

だがそれもユリウスのおかげだ。

彼は会議中、不自然にならない程度にゆっくりと発言をしていたのがライラにはすぐに分かった。

また、矢継ぎ早に繰り広げられる論戦の要所要所で、彼は司会さながらうまく間に入り、彼らの発言をまとめてくれたのだ。正直なところ、これには本当に助かった。

目の前にさらりと揺れる金色の髪を見上げる。

厳しい人だが、同時に温かい人でもある。



宮内府の執務区域まで差し掛かった時、ユリウスがおもむろに振り向いた。


「この後は私は自室で事務作業だ。君も議事録を清書して今日は退勤していい。」


「はい。・・あのっ・・。ユリウス閣下。先ほどの会議では、ありがとうございました。」


ユリウスは何も言わず少し首を傾けた。


「私が議事を取れるように会議の場をうまく調節して頂いたことです。閣下のご配慮がなければ、私は何もできませんでした。」



ユリウスは少し黙ってから口を開いた。


「君が秘書の仕事に気後れしているのは分かっていたよ。どうせ宮内府を志望したのだって、一番簡単そうな仕事だと高を括っていたんだろ?それなのに蓋を開けてみれば、騎士団トップの私にこき使われる羽目になっている。かわいそうにな。」


「っ・・!いえ・・そんな・・!」


「王宮を目指した理由はどうでもいい。そこに崇高な理由など求めてないよ。だけどなライラ。王宮の仕事に楽な仕事など一つもないよ。身分の保障と安定を得る代わりに、皆自分の最大限の力をもって義務を果たそうとするんだ。今の君はどうだ?与えられた仕事を懸命にこなしていても、仕事にプライドを賭けていると言えるのか?」


「私・・は・・」


そこから先は何も言えなかった。

見透かされている。

ルークを追うためだけに目指した王宮。そこから先のことなど、何も考えていなかったことを。

胸の前で握ったこぶしが小刻みに震える。


「今日はご苦労だった。明日は予定通り朝の9時に私の執務室に来てくれ」


そう言うとユリウスはさっさとその場から立ち去っていった。

残されたライラは、一番痛いところを突かれたショックと恥ずかしさで動けない。

結局、その場を通りかかった見回りの兵士に声をかけられるまで、顔をこわばらせたまま立ち尽くしていたのだった。



その夜、多少の残業を終えて屋敷に帰ったライラは、両親にろくに帰宅の挨拶もせぬまま自室に籠った。

ドレッサーの前に立ち、自分の姿を見る。

カーリーなマロンブラウンの髪はルークといた頃と変わらず、ずっと肩下の長さで切り揃えおろしている。

高等学園時代は化粧は禁止だったが、今は違う。

いつルークと遭遇してもいいように、毎日ナチュラルに見せてメイクは念入りに施していた。

パールの入った明るいアイシャドウがライラの愛らしい顔立ちを彩る。

しかし。

ライラは乱暴に化粧落としのローションを顔に伸ばした。

こんな浅ましい気持ちも、ユリウスに見透かされているような気がした。

彼にルークのことを話したことはない。

でも、あの人ならライラの脳みそで考えていることレベルなら全てお見通しでもおかしくない。

ライラはまた自分を恥ずかしく思った。

外見ばかりを飾って、宮内府に入府できた後のことをまるで考えていなかった自分。

目の前の仕事をただこなすばかりでそこに何の意義も感じてこなかった自分。


(せっかく王宮で働けることになったのに、これじゃ勉強漬けだったあの頃と何一つ変わってない・・)


ルークが騎士団へ行ってからというもの1年半、ライラは矜持を傷つけられてばかりだ。

ルークと肩を並べるために王宮登用試験に身をすり減らし、その願いが叶ってからも彼との距離は一向に縮まらない。さらに、ユリウスにあれほど打ちのめされてしまえば会いに行く気すら削がれる。


ルークの居場所なら既に分かっている。

彼が学園を退学してまで騎士団に入ったきっかけであるフィン師団長の居る第二師団にいるのだ。

最初から見当はついていたし、そうでなくとも彼の活躍は嫌でも耳に入る。

仕事中にすれ違うことはいまだにないが、会いに行こうと思えばいつでも行ける。

それでもこの3カ月そうしなかったのは、やはり見つけてほしかったからだ。

ユリウスの元で立派に働く自分を、学生時代と違って輝いているであろう自分を彼の手で見つけてほしかった。


「こんなダメな私じゃ、見つけてもらえるわけないよね・・」



これ以上は考える気力もなく、ライラはベッドに倒れこんできつく目を瞑った。


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