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終息

ロッソ・ストレイダーは今から5年ほど前に王宮騎士団へと入団した。

貧しい生まれで、人一倍反骨心と出世欲が強い彼がその道を選んだことは、当然といえば当然だった。

入団してすぐ、ある男に取引を持ちかけられた。

簡単に言えばスパイ活動、そして男の指示があればその通りに動くというものだ。

なぜ自分が声を掛けられたのだろうとロッソは思ったが、取引金額の大きさに目がくらみ、そんなことはすぐにどうでも良くなった。

なにより、ロッソはこの国を憎んでいた。

学歴がなければまともな職にも就けず、学歴を積むためには多額の金が必要になる。

結局、貧乏人はこのアークランドでは肩身を狭くして生きるしかない。

そしてこの国はそれを黙認するばかりで解決する気もない。

だから、国を裏切ることに彼の気は咎めない。

彼は騎士団でのキャリアをスタートしたと同時に、スパイという顔も持つようになった。



実際のところ、スパイとして彼がすることはさほどなかった。

定期的な仕事といえば、第一師団に配属された彼が知りうる全ての情報を流すことくらいだった。

しばらくの間は、彼は自分がスパイ活動を行っているのも忘れていたくらいだ。

しかし、努力を重ねて昨年隊長に昇進した時、状況が少し変わった。

騎士団内の会議にも召集されるようになり、少しずつ機密事項に触れるようになった。

そしてある日、とうとう決定的なスパイ活動の指示を受けたのだが、彼は聞いて愕然とした。

到底彼に何とかできるような類の要求ではなかったからだ。

しかし、既に数年に渡って報酬を受け取ってしまっている以上、できないは通用しない。

断った瞬間に彼は密告を受け、国家反逆罪で投獄されるだろう。

自分の浅はかさに初めて後悔をした。

唯一の救いは指示された作戦の実行期限が長いことだった。

さすがに大がかりな内容だったため、彼一人の意思で実行できるものでないことは男も分かっていたようだ。

しかし、ここで彼に幸運が訪れる。

予想より早かったが、絶好のチャンスに恵まれたのだ。

ユリウスの秘書官、ライラ・フィッツジェラルドの誘拐。

順調に事は運んだ。

あとは彼女を追ってくるであろう騎士団を待ち受けるだけだった。

結局最終的に自分はツイているーーそう思っていたのに。



なぜ、こうなった?

ロッソは止めどなく自身の口から流れる赤い液体をぼんやりと見つめながらうつ伏せに倒れこんでいた。

痛みは感じない。

ただ息ができない。呼吸をしようとすると喉元を灼熱の炎のような熱さが襲い、一層勢いよく血が吐き出される。

自分が誰に何をされたのか、分からなかったしもう考えることもできない。

しかし、あの時聞こえた声はーー。


そう心の中で呟き、やがて彼の世界は永遠に光を失った。




「ユリウス・・団長・・?」


ルークは、ロッソが崩れ落ちたその向こうから近づくユリウスの姿を確認した。


「遅くなったな。ケガはないか?」


「大丈夫です。・・どうして団長がここに?フィン師団長も一緒なのですか?」


「いや、私だけだ。話はあとにしよう。あとのことは巡回中の第二師団に任せるんだ。」


そう言うと、ユリウスはチラと背後を仰ぎ見る。

ライラが捕らえられていた空き家は、今や家全体が炎で包まれ、周囲を飲み込みそうな勢いだ。

ここ一帯が空き家群なのが幸いだった。


「ライラ、君は私が連れていこう。ルーク、ケガがないならお前は歩けるな?」


ユリウスは手にしていた弓を背負うと、いまだ力なく壁にもたれかかっているライラを軽い動作で抱き上げた。

この弓でロッソを射殺したーー。

その凶器を間近で目にし、ライラはにわかに身を震わせた。

そんな彼女の様子に気付いたかは、ユリウスの表情からは伺えない。

ただ、ユリウスは壊れ物を丁寧に扱うようにライラに触れた。

それが分かった途端、ライラは強烈な眠気に襲われていく自分を感じていた。


「ルーク・・」


意識を手放す前にルークが確かに無事であることを確かめたかった。


「大丈夫だ、ライラ。俺は何ともないよ。大丈夫だから・・少し眠れ。」


ルークの優しい声と握られた右手の温かさに、今度こそ心から安堵し、ライラは意識を手放した。


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