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動き出した計画(2)

ノーランを呼びにライラが遣いに出てから既に30分が経過した。

確かにライラの足では戦略部隊まで行くのに多少時間がかかる。

しかしーー。

ユリウス・ウィンザーの頭の中で、激しい警鐘が鳴らされている。

ほとんど勘のようでもあったし、一方で確信に近いものも感じている。

何かがあったのだーー。



迷いのない動作でイスから立ち上がり執務室を出ると、手近にいた騎士を捕まえ、告げる。


「フィンを呼んで来い。今すぐだ。」




ライラが目覚めて最初に目にしたのは、全身を覆うようにかけられた薄汚い布だった。

声を出そうとして自分が猿轡を噛まされていることに気付く。

体も動かない。しっかり縛られているようだ。

ガタガタという振動が全身に響いていることから、荷台のようなもので運ばれていることが推測される。


(どうして。どうして。だって私はノーラン様を呼びに王宮の中を歩いてて・・)


そこまで振り返って顔をしかめる。


(ロッソ隊長・・!あの人・・)


一体彼は何者で、何の目的でライラを狙ったのか。

そんなことよりも、自分はこの後どうなるのだろうか。

今日は晴れだったはずだが、日の光の気配を感じない。ライラが拉致されてからずいぶん時間が経っているようだ。

生かされるのか、殺されるのか。

戦闘訓練など受けたこともないライラには、この後の自分の人生をライラを襲った敵に委ねるしか選択肢しかない。

それがたまらなく恐ろしかった。


(嫌だ・・・助けて・・!!)


恐ろしさに肩で大きく息をしながら耐えていると、振動が止まった。

どこかに着いたようだ。

ライラは緊張のあまり大きく見開いた目を閉じることができない。

すぐに乱暴に荷台に飛び乗る足音が聞こえ、躊躇いなく布が引き剥がされた。

ライラはその人物を目に入れようとしたが、その前に景色が反転した。


「んんっーーー!!」



腹部に衝撃と圧迫が生じる。

どうやら誰かの肩に担がれているようだ。触れている筋肉の固さからしてそれは男のようだった。

抵抗しようとは思わなかった。

縛られ声も出せずにいる今、そんなことをしても無駄だったし、それを邪魔だと見咎められて危害を加えられたくない。初めて直面する恐怖の中でライラが必死に考えた結論だった。

肩で大きく息をしながら、ライラは全神経を男の一挙手一投足に集中した。


男が民家と思われるドアを何躊躇いもなく開けたのが視界の端に見えた。

ライラは頭を下にして担がれているので全容は分からないが、ここはどうやら街の一角のようだった。

薄暗い部屋の中に入った男は慣れた様子で部屋の中を進み、階段を下って地下室に入ったところで乱暴にライラを放った。


「ゔっ!!!」


両手両足を縛られているので受け身も取れず、ライラは顔から地面に落下した。

衝撃に浸る間もなく、噛まされていた猿轡が緩められる。


「手荒な真似をしてすまない、ライラ殿。こちらも急いでいたものでな。」


「ロッソ隊長・・」


ランプを持ち、昼間会ったそのままの姿でライラを冷たく見下ろすロッソの姿を認めた。

特に理由はないが、ライラをここへ連れてきたのはロッソではないのではないかと思っていた。

ライラはどことなくがっかりした面持ちで彼を見つめる。


「ロッソ隊長・・これは一体どういうことなんですか?何が目的なんです?」


恐怖で震える声を必死に押し殺して睨みつける。


「君には聞きたいことが色々あったんだ。予定外だったが、今日は絶好のチャンスだったんでね。計画を実行させてもらったよ。」


「計画・・?」


「君はユリウスの秘書官だ。我々では知りえない機密情報を持っている可能性がある。」


「!!・・・あなたは・・何者なんです?」


「もう分かってるんだろう?騎士団の俺は仮初の姿だ。」


政治に疎いライラにも一つ心当たりがあった。

ーー彼はカストラからのスパイだ。


「さて、じっくり話をしようぜ。ライラ殿?」






ルークはわけもわからぬまま必死にフィンについて歩く。

前を歩く彼はいつも通り落ち着いているが、ルークにはその緊張感が手に取るように分かる。

背中から発する気配、歩くスピード、そんな些細なところで異常事態が起こっていることを察する。

前を歩くフィンがユリウス団長の執務室の前で止まったところで、その予感が確信に変わった。


「フィン第二師団長、入ります。」


腹から響く張りのある声でそう告げ、入室する。

中ではユリウスが腕を組み険しい顔で腰掛けていた。


「ユリウス、第二師団のルーク・ロスを連れてきた。」


「ルーク・ロスです。この度、フィン師団長の命を受け、特別任務に当たらせていただきます。」


ルークは左手の拳を胸に当てる仕草でユリウスに向かう。

対するユリウスは秀麗な眉をわずかに潜めた。


「ルーク・ロス。この若い騎士で十分だとお前は思うのか?」


ユリウスの瞳はルークに向けられたまま、フィンに問いかけた。


「彼は役職もない一般騎士だが腕は立つ。勘どころもいい。全体の人員も勘案した上での最適配置だと考えているよ」


「そうか。ならいい。」


存外あっさりとユリウスは引き下がる。

職位は当然ユリウスの方が上だが、ユリウスとフィンは同期だ。周囲の人間には分からない信頼関係があるのだろう。


「ルーク、君に特別任務を与える。」


ユリウスは立ち上がってルークの正面に対峙した。


「私の秘書官であるライラ・フィッツジェラルドの救出作業だ。」


「!? ライ・・秘書官の救出!?」


予想だにしていなかったライラの名前に驚きを隠せないルーク。

そんな彼の様子には触れず、ユリウスは続ける。


「ライラは本日午後2時頃、戦略部隊の執務室へ向かっている途中で消息を絶った。何者かに拉致されてたと見ている。聞き込みから、容疑者として第一師団のロッソ・ストレイダー第一隊長が上がっている。」


「ロッソ隊長が!?」


「事態を把握してからすぐに王都は封鎖している。ロッソ含む賊はまだ街のどこかに潜んでいるはずだ。

すぐその捜索に当たってくれ」


事も無げにユリウスは言う。


「団長!待ってください!王都全域なんて広範囲、俺一人では無理です!そうしている間にもライラの命が危険だ!第一師団を出してください!」


「ダメだ、第一師団は出せない。」


ユリウスは表情一つ変えないまま冷酷にもルークに告げる。


「ルーク・ロス。第一師団はここから動かせないし、第二師団の待機部隊も街に出すわけにはいかない。

 お前がやるんだ。」


有無を言わせぬユリウスの静かな圧力にルークは反論の余地もない。

ただ一つ分かったのは、どうやらこちらにも選択肢がないようだ。

先ほどから変わらず冷静なユリウスの目の奥にわずかな切迫感を認め、そう悟った。


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