あなたに会いたくて
ルークはここのところ不調だった。
ミーティングは上の空で部隊長に思い切り怒鳴られ、得意としていた剣技訓練でも隙を取られて負け続ける始末。
そんな自分に焦りを感じれば感じるほど勤務中のミスが増える。
負のループに陥ってしまったようだ。
「はぁ・・・」
昼の休憩に入り、中庭の芝生に思い切り倒れこむ。
原因は明確だ。
あれからライラに会えていない。
彼女があの日急に帰ってしまってから、一カ月の間一度もだ。
あの時体調が悪いと言っていたのも心配だったし、どうも理由はそれだけではない気がした。
その後、たまたま同僚がライラの話をしているのを立ち聞きし、どうやら元気でいることだけは分かった。
ルークは簡単にはライラに会いにいけない。
一介の騎士が直属の長を飛び越えて団長に会うことが許されないのと同じように、その秘書官にも正当な理由がない限り軽々しく接触はできない。
ルークには、ライラが自分の元へ来てくれるを待つ他なかった。
しかし、一向に彼女がルークの元を訪れる気配はなかった。
いつ来るかと悶々としていたら、段々仕事に支障が出てきてしまった。
「やばいな、このままじゃ俺クビだ・・」
雲の切れ間から差す午後の日の光に眠気を覚えながら、ルークはどうすべきか考えた。
そのうちライラから連絡があるものと信じて待つのか。
それとも、互いに立場が変わって縁がなかったと諦めて距離を置くのか。
ルークは行動に出た。
「部隊長、来週の第二師団全体会議ですが、飛翔の間を抑えました。」
「飛翔の間?お前よくあんないい部屋取れたな。まぁ人数も多いし助かる。段取りは頼んだぞ」
「はっ!」
飛翔の間はユリウスの執務室近くにある会議用の大広間だ。
本来は団長を含む大きな会議や国賓が来訪する際に使用される部屋で、師団会議程度では滅多に使うことはない。ルークは管理部隊で親しくている同僚に頼み込んで使用許可をもらった。
ライラの普段の執務スペースはユリウスの部屋を出て数メートルの同じ廊下沿いにある。
ライラがユリウスの執務室にいようと自分の執務スペースにいようと、”偶然遭遇できる”確率が格段に上がるという算段だ。当然、そのどちらにもいない可能性もあるので、そうなれば全くの無意味なのだが。
そんな一縷の望みを賭けてルークは第二師団全体会議の当日、会議準備と称して早い時間から飛翔の間付近をウロウロしていたのだが、結局ライラとは会えずじまいだった。
ルークは落胆したが、まだ諦めてはいない。
翌日から昼の休憩時に王宮職員の食堂へ通いだした(ルークは食堂の混雑が嫌でいつも城門付近に居る弁当屋から昼食を調達する。)
「いない・・。何だよ、全然会えねー・・」
忌み嫌う混雑を我慢して食堂に通い始めて半月、しかし一向にライラを見かけることがない。
もしや彼女も食堂は使わないのだろうか?
そうなれば最終手段は勤務終了時間だ。
突発事項を除き、秘書官に残業がほぼないことは分かっている。
退勤時間を狙って無理やり城門付近で待ち伏せする。
一番確実な方法かと思われた。
しかし、この方法はルークにとってかなり困難なものだった。
そもそもその時間に城門にいる理由がないのだ。
一度目は門番兵の一人を捕まえてどうでもいい伝達事項を申し送りした。ついでに時間稼ぎに世間話などしてみる。どう見ても馬が合わなそうな人間なのに、だ。
二度目は・・なかった。
城門付近の警備は第一師団の管轄ということもあり、ルークが小細工をするにはあまりに不都合だったのだ。また、ちょうど彼自身も夜勤が続き物理的に張り付くのが不可能だったところだ。
「何だよ・・こんな近くにいるのにこんなに会えないもんなのかよ。さすがに参ったな」
ルークは日も暮れかけようとしている頃、いつもの中庭で寝転びながらひとりごちた。
ひぐらしの声が妙に物悲しい。
彼の力ではいよいよ限界だ。
「ルーク。」
ありったけのため息をつこうと思っていたところへ、凛とした声が響いた。
その言葉に反射的に状態を起こす。
立っていたのはポーラだった。
「ポーラ。どうしたんだ?」
「うん・・退勤しようと思ったらルークがいるの見えたから・・。ルークこそ何しているの?」
「いや・・別に。帰ろうかなと思ったんだけど、色々考え事しててさ。」
ポーラはほんの少し俯き、尋ねた。
「ライラさんのこと?」
「え?」
ルークは聞き取れず尋ねた。
「・・ううん。ねぇ、暇ならご飯でも食べに行こうよ」
ポーラはそのままルークの隣に腰を下ろす。
「んー? うん・・今日はやめとくわ。今日は色々と疲れたから。また今度行こうな。」
「・・うん、分かった。」
ポーラは薄く微笑んだ。 が、そこから動かない。
「ポーラ?」
「・・ルーク。 私とルークはさ、入団当時からずっと一緒に支え合って頑張ってきたじゃない?」
「・・ああ。」
ポーラの発言の意図が分からず、ルークは訝し気に返事をした。
「騎士団は特殊な世界だから、外部の人と日々の出来事を共有したりはなかなかできないよね。でも。
私ならそれができるよ。」
ポーラは情熱的な紅い瞳を揺らめかせてルークを見つめる。
「私のこと、同僚じゃなくて一人の女性として見てほしいの。」
気恥ずかしくなったか、そう言い残すとポーラはすぐに立ち上がり去っていった。
鈍いルークにもその言葉の意味は分かる。
まさか、あのポーラが自分をそういう風に見ているとは思わなかった。
同じ第二師団に入団し、共に苦しい訓練を受け、投げ出したくなる時も互いに叱咤激励し合った。
誰よりも信頼できて、笑顔も殺気を放つ顔も美しいポーラ。
大ぶりな花が開くかのように艶やかな彼女の笑顔を思い出しながら、ルークは急速にポーラを意識しだした。
だんだんこじれてきました・・!?




