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青春物語  作者: 鍋兼祐
4/9

愛縁奇縁

時刻 二十三時三十分

「……ふあ〜」

座敷わらしが風呂に入っている間に、横になり明日の弁当どうしようか考えている間に寝てしまったらしい。

——?

辺りを見回しても、座敷わらしの原因が見当たらない。

「おーい、座敷わらしー」

風呂場の電気がついていることに気づき、不思議に思う。

風呂に入れたのは約二時間程前、なのに未だ入っている。し◯かちゃんかとも思うが心配ゆえに声をかける。

「おい、大丈夫か?」

返事は——無い。

「おい!開けるぞ!」

何を隠そう僕の体に違和感を覚えたのだ。とても頭がクラクラする。そして体中が熱い。

この事から察するに———

少女は浴槽から顔を出したまま顔を真っ赤にし、のぼせ、気絶していた。

「…やっぱり」

頰をかなり弱く叩く。

「おい?」

「ん〜」

まぁそりゃあそうだよな。一心同体リンクしている僕だから分かるが、とてつもなく頭がクラクラだ。

——この際、仕方がないよな——

そう思いつつ、少女を浴槽からお姫様抱っこのかたちですくいだし、そのまま居間へと運んでいく。

当たり前だけど、タオルあるからね?

僕がロリコンでなくて本ッ当に良かった。

脇の下からをタオルで巻き、新たなタオルを冷水で冷やし、額と頸の下へ置く。

少しずつだが僕の体も楽になりつつあった。

その気持ち良さもあり、僕は再び夢の世界へ落ちていった。

——————

———

——くしゅん。

その可愛らしいくしゃみに起こされた。その本人はまごう事なき昨日から僕自身、いや僕が彼女自身に…いや、まぁいっか。

時計を見ると午前五時を指していた。朦朧とする視界に一番に最初に飛び込んだのは

「を主、儂の知らんかの…?」

僕の胴に騎乗する少女の姿があった。

こんなの僕は机上の空論としか思っていなかった。それはそうだろう。目で見たもの、体験した事しか信じない僕だぞ。こんな状況で気丈に振る舞って、平常を装えという方が無理だろう。

「あわわわわわわ!服を着ろ!服を‼︎な、なんで()…なんで()ァ!お前の?何だよそれ!知らねえよ!」

「裸裸裸ンド…」

「してやったりみたいな顔やめろ!そして怒られろ!そして隠すくらいはしろ‼︎」

何のことだ——?

——あ。

思い出した。こいつを昨日浴槽からすくい出す前に、洗濯機にかけるわけにもいかず、外に干しておいたのだ。

「ご、ごごごごごめんなさいい!」

ダッシュ→ベランダ→着物ゲット→ダッシュ

「どうぞ」

「冷た!」

四月、冬を越したとはいえ、春の朝はかなり冷え込む。盲点だった。

「す、すまん!ちょっと待ってろ」

クローゼットを開け自前の長袖のシャツを渡す。

外になかった分着物よりかはマシだろう。

「なんか、ダボダボして気色悪いの」

気色悪い、こいつ今気色悪いって言ったか?気色悪いって気持ち悪いより悪い印象与えるのを知らないのか、長く生きてるくせに!

「傷ついたよ、僕‼︎」

っていうかよく見ると幼女が青年の服を着ているのだから、とても良くないことをしてる気分だ。

男なので女の子らしいものも無く、どっちの性別でもいけるジャージの短パンを履かせてみると体の大きさの関係で長ズボンのようになり、なんとなくは様になった。

ノーパンなのは秘密。

しょうがないよ。だって僕は男の子な訳で女の子用のパンツなんて持ってないんだから。

そんなことをしているうちに日が昇り始める。

「お前のおかげで目は醒めたけど、やることないな…」

一体僕が何が言いたいのか分かるかな?

いつもは五時に起床し、朝ごはんを作るのが僕の一日の始まりだ。

まず、目を開けるが一日の始めだろ、という屁理屈は聞かない。

しかし、今日はどうだろう。

こいつが昨日、僕の買ってきた食べ物を全て食べ出しまった。

つまり、今すべきこと、そして、僕の今日の朝、昼食が無いのだ。

しかし、僕の隣では

「おい、を主、何をぼう、としている。早く朝食を作らぬか」

あ、そうか。こいつには言ってなかったな。

「残念だが、お前が昨日、『シュレーディンガーの猫』って言って胃袋に納めたのが僕が所有している食料だ!」

「な!なんじゃと‼︎では、を主、買ってこい」

は?

こいつ、そこらの不良よりも不良なんじゃないか…

なんていうか不良って単語、良くはないって書くのに、なんでそれで悪いってイメージがついたんだろうか。不思議だな。それなら普通も不良の部類に入るじゃん。

いやいや、そうじゃなくて…

「そうじゃなくて‼︎お前なんて言った!買ってこいって言ったか?ふざけんな!たった二食だろうが。我慢しろ!」

巫山戯(ふざけ)とらんわ。巫山戯とるのはを主じゃろうが。儂が死ねば——?」

もう、このリンクシステム誰か外してくれませんかね?



結局、時刻六時を示す腕時計を見ながら歩道を歩く僕がいた。

『何でも良いから買つてくるのじゃ。あ、じゃが、あの緑のものは止めといてくれ』

それが、僕が注文を受けた言葉だった。

緑で嫌われ者といつたらピーマンの事だろうな。

そんなことを内心呟きつつ、最寄りのコンビニへと足を運んだ。

「いらっしゃいませー。おはようございます」

レジの会計をしながらも僕が入るとそんな声が帰ってきた。

朝なのに大変なこって。

そう思いつつ、弁当コーナーへと進んだ。

「いってらっしゃい」

と、店員の声が一人の中年男性へと送った。それに続いて、他の定員も同じ言葉を口にするのを目の当たりにして、多少驚いた。そもそも多少って、多いに少ないってどっちなんだよ!って思わない?どっちにも使えるらしいけど、それならそんな単語、要らないじゃん。

こんな事を思う癖いい加減やめよ…

加減って単語、加えるに———

だからやめようって!

そんな葛藤を抱いているうちに、店員の声が再び聞こえてきた。誰かが入ってきたらしい。

まあ、そんな事は僕には関係ないが

「ん?あれ?コーシ?」

「…………」

まあ、聞き違いだろう。うん。そうだよ。聞き違い、聞き違い。

「おーい、コーシ。おーい」

「……………」

聞き違いでは無かったようだ。

「聞いてる?」

「…はい、効いてます」

メンタルに。

彼女は、鈴谷・エアリエ・愛衣。又の名を傾国の美女。フランス人の父親と日本人の母とのハーフである。整った目鼻立ち。肩まで垂らされた透き通るまでの金髪。パッチリと開かれた二重の目。適度な太さと白の脚。学校の誰もが目をつける楼宮高校二年生。

この美女には、まことしやかに囁かれる噂があった。それはこの娘の二つ名がはっきりと表している。

「何してんの?コーシ?」

このコーシという馬鹿げたあだ名は、目の前の女子高校生が去年の今頃、僕につけた名前だ。僕の苗字と名前の頭文字をとってコーシという事らしい。ここで勘違いしないでほしいのが、この女子は校内ずば抜けて頭が良い。全国模試では、デタラメなことに満点で帰ってくる。偏差値、百の大学があったとしても難なく入学してしまうであろうほど頭が良い。


こんな表現をしている僕は彼女とは天と地の差がある。雲泥の差だ。

まあ彼女と比べれば大抵の人とは月とすっぽんだ。まあなんだ…僕の成績は下位の方だ。

「いや、えーっと…朝食と昼の買い出し」

「へぇー、いつもなの?」

「あ、いやー。今日はちょっと特別で。いや、とある事情があって…」

「とある事情?家出の女の子を家に泊めてるとか?」

はああああああああああ!コイツどんな頭してんだよ!工藤◯一もとい江戸川乱歩とコナンドイルから名前の一部をとった小学生でも分かりっこねえぞ!何でわかったんだよ!まあ、あいつは家出では無いのだが…ってか行きてすら無いのだが。

「ち、ち違うよッ!」

裏返ってしまった。

「……」

ドックン、ドックン。ここまで心臓の音が聞こえるのは初めてだ!

「まあ、良いや。コーシにそんな事は出来ないだろうし!」

満面の笑みを浮かべそう発する彼女。人畜無害と思ってくれるのは有難いが、男としてそれはどうなんだ?何とも言えぬ心境である。キスは座敷わらしからしてきたんだしノーカンだ…よな?

「鈴谷さんは、どうしたんですか?」

「うん、まあ…ちょっとね……」

「?」

はぐらかされた気がするが、まあ僕には関係ないか。

早くこの場から去ろうと咄嗟に電子レンジで温めれば出来上がりの白米を四パック、そしてサラダを三つ、そして、その他諸々をカゴに入れ彼女に一礼し、レジに向かおうとすると背後から声が聞こえた。

「あ、もう行くの?じゃあねー」

何で話しかけてきたのかと思わずにはいられなかった。

「ありがとうございましたー」

会計を済ませ、出口へと向かう頃には六時半を指し示していた。


源笑荘もとい減笑荘の文字のかすれた看板を一瞥し、昨日の話を思い出し、一つため息をつく。

「ただいまー。おーい帰ったぞー」

「戻ってきたか」

座敷わらしは僕の服を脱ぎ、自前の着物に着替えていた。

「ん?」

スンスン、スンスン。

「ちょっ!な、何だっ?」

犬のように僕の体を嗅いでくる少女。

「を主、少し匂うぞ」

グサリ!

眉をひそめそう発する少女。

コイツには、デリカシーというものがないのか…?

スンスン。

一応自分でも匂ってみる。

「…?そうか?匂うか?僕」

「うむ、良くない匂いがな…そんな事よりを主!早くせぇ」

「匂うかな…」

そんな事をぼやきつつ、ビニール袋からサラダを出し、電子レンジにパックの白米を入れる。

その他にも、鯖の缶詰。バナナ。生卵。

三十秒後、電子レンジの温め終わりの独特の音を聞き、そわそわしている少女の前に置く。

「うむ!では実食!」

聞き覚えのある台詞をこの際っていっても、どの際かは分からないが聞き流すことにした。

そして僕も座敷わらしにつづき口にする。

「いただきます」


五分と経たずテーブルの上の料理はなくなった。

「—————」

僕、殆ど口つけてないんだけど…

「ふう…」

食べてお腹いっぱいになったのか目の前の座敷わらし(しょうじょ)は大きなあくびを一つした。

ちょっと待てよ——こいつが眠いってことは……

まずい…眠気がきた

「おい!待て!寝るなッ!僕これから学校だぞ!」

「知らん」

——一蹴されてしまった


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