僕対少女
——四月十日——
時刻 十六時三十分
暖かな春の日差しを浴びながら下校している僕の両手には、約三日分の食材の入ったエコ袋を下げていた。
楼宮高校の二年生になり去年には慣れなかった事も今では楽々できるようになり、一人暮らしも悪くはないと思っていた。
中学卒業後、地元の広島の高校には進学せず東京の高校に進学した。しかし親バカな両親は僕の上京を意地でも止めようとした。しかし現状維持が嫌で大人の圧力に反発したかった年頃だった僕は一つの条件を出した。
『じゃあ、仕送りの類はしなくていい。お金は自分で何とかして払うから』
こんな条件じゃ『ダメ』と言われると思っていた。しかし
『分かった』
一瞬だった——
つまり両親が懸念していたのは僕の心身の心配ではなくお金の事だった。
それからはずっと貯めていたお小遣い(おとしだま)で東京へ行き、住むところを見つけたりした。
そして見つけたのだ。家賃は四万を切り、日差しも指し、しかもその部屋だけ新しく改装してあり、ここしかないと即決した。
それが僕の視界に入ってきた建物。笑いの源の荘。【源笑荘】だ。
自室は二階の為、階段を登り、右ポケットから鍵を取り出し二〇五号室に鍵を差し込みドアを開け中に入る。
「っと、ふぅ」
両手のエコバッグを置き、ふと前を見据えると、そこには見ず知らずの十歳前後の少女の姿がそこにはあった。
「あ、すいません。間違えました」
慌てて部屋飛び出し深呼吸を一つ。
「すぅー…はぁー。ビックリした。一年経つのに部屋間違えるって…ダサいな…僕」
反省しつつ確認する。
「えーっと、ここが僕の部屋。二〇五号室だな。うん」
そこは紛う事なき二◯五号室。
確認を終えは僕はドアノブをひねりドアを開ける。そこにはやはり少女の姿がある。
「ん?あ、あれ?」
二度目の確認。
「二…〇…五…うん」
三度目のドアの開。こう見るとなんか“ドアの会”って見えて面白いな。いやそうじゃない!
「君、誰だ…?」
すっと見据える少女は今気づいたがお茶を飲んでいる。
「を主、何じゃ」
何かの影響を受けたのか昔の人のような言葉遣いに少し疑問を持ちつつも平然を装う。
「え、あっ、いや、僕はその…小早川秀だ…戦国武将の小早川秀明の明るいを取って、小早川秀」
正しい名前の教え方をしたものの、この年代の子に理解できるものか不安であった。
しかし——
「そんなことはどうでも良いわ。何故この部屋に入ってきたのかと問うてをるんじゃ」
警戒してるらしい。まあそれもそのはず。いきなり知らな人が入って来たのだから。
警戒してるのは、僕も同じだが——
「何でってそりゃあ、ここが僕の部屋だから…」
子供相手に嘘を言っても意味がないと思い正直に話す。これで少しでも警戒心を解いてくれるといいが…
「左様じゃったか…まあ別にを主が何者じゃろうと、どうでも良いわ」
さっきも言ったよな…
「いや、質問に答えてよ…君、お名前は…?」
兎にも角にも、今僕がする事は一つ。
この子の身元を聞き出し、その場所に送り届けるか警察へ行くかだ。
「子供扱いするんじゃない!儂を誰と思っとるんじゃ」
子供だろう……その容姿は
「誰と思っとるって…それを僕が聞いてるんだ。小学生だろ?名前は?」
流石の僕も少しずつ苛立ってきたが、ここで怒っては大人気がなさすぎるだろう。
「小学生じゃと?ふざけるな。あんな小童と同じにするんじゃない!儂は既に百歳超えておるわい!」
「はいはい、別にお兄ちゃん怒らないから正直に言ってね?この近くだと峰西小学生の生徒かな?」
「じゃーかーらー!儂は小学生じゃないと言っておろうが‼︎儂はな」
少女は両腰に手をやり誇らしげに僕の想像の範疇を超えた答えが返ってきた。
「儂はの、人間で言う…座敷わらしじゃ!名は忘却の彼方へ消えおった!」
「………」