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おしゃれなソロ1

「依頼?」


 クエストの案内人が言った言葉をソロが繰り返すと、案内人の女性は、はいと頷いた。


「えーと、ソロさん、ですよね?」


 ソロから受け取ったクエストライセンスの名前を見ながら女性が言うと、ソロは返事をした。

 以前ほどではないが、案内人の女性は、やはり有名人にでもあったかのような顔で、ライセンスとソロの顔を交互に見る。


「グランダさんって方からご指名がありますよ」


「グランダ?」


 ソロは聞き覚えのあるその名前に、思考を巡らすと、「あぁ!」と声を上げた。

 

「預かっている依頼書の方はこちらになります」


 女性から依頼書を受け取ると、ソロは案内所を後にした。

 


 快晴の空の下に広がる大きな港町。以前訪れたことのあるこの町の建物は、変わらず、お洒落な外観をしていた。

 建物だけでなく、住人の髪、衣装、持ち物、ペット、町に立つ外灯や橋、店で売られている商品や料理、様々なものが美を意識され、洗練されている。

 初めてこの町を訪れた者であれば、その美しさに息を呑むことだろう。

 住みたいとさえ思うかもしれない。

 あまりお洒落を意識していない身なりのソロは、この町でかなり目立っていた。

 すれ違う町の人々から何とも言えない目で見られる、この感じが、ソロは苦手だった。

 しかし次の大陸に渡るのに最寄りの港町がここであった為、寄らざるを得ない。

 寄った町ではそれが一度訪れた町でも1回はクエストをこなしていくという、独自の約束事がソロにはあった。

 昼に町についた為、さっさと午後のうちにクエストを済ませて明日朝一の船で出発しようと考えていたソロは、思わぬご指名に不安そうな声を漏らした。


「面倒なクエストじゃなければ良いんだけど……」


 案内所のあるドーム屋根の役場から、町の中を走る川沿いの道を歩いて行くと、道具屋の看板が見えて来る。

 その道具屋こそ、グランダの家だった。

 店に入ると、薬草瓶や魔法聖水といった道具が並べられた棚に囲まれたカウンターにいる男が、声を上げる。


「おお!? ソロ、ソロか!!」


 店に入って来た少女に気が付くと、男は懐かしみ、再会を喜ぶように駆け寄った。


「おお、本当にソロだ! また会えるなんて、これ程幸運な日はないぜ!」


 抱きしめられるソロは、呆れた表情で漏らすように言った。


「大袈裟だなぁ……」


「しっかし、お前をお気に入り登録しておいて良かったぜ」


 案内所がある町では、大抵の場合、依頼主は、気に入った受注者を、『お気に入り』に登録する事ができる。

 依頼主が受注者を登録すれば、同じ受注者に依頼を指名する事ができ、受注者が案内所に寄れば、優先して依頼が伝えられるが、その依頼を受けるかどうかは、受注者次第であり、必ずしも優先されるという訳ではなかった。


「お気に入りになんて登録しなくても良かったのに」


 ソロがボソッと言うと、グランダは豪快に笑い言った。


「お前みたいな凄腕の冒険者は滅多にいないどころか、世界に1人いるかいないかだからな。お前みたいな逸材を放っておくなんて勿体無いだろう」


「…………」


 ソロはしばらく沈黙した後、話題を変えるかのように訊ねた。


「ところで、依頼って何だろう」


 ソロが依頼書の封を開けると、手の甲に白色の刻印が現われる。

 その刻印の色に、思わずソロは瞬きをした。

 今までモンスター討伐が主流だったソロにとって、危険性の全くないことを表す白に近い色は珍しかった。

 ソロは急いで依頼の内容を読む。


「ヴィーナスコンテストに代役として出場する……えぇッ!?」


 ソロは読み上げると、その表情のままグランダを見た。


「実はな、この町で例年開催されるお洒落を競い合うコンテストに妹が出るはずだったんだが、風邪をひいちまってよ。エントリーをキャンセルするにも金がかかるから、どうしようかって悩んでたんだ。そんな時、パッとお前の顔が閃いたんだ! お前、中々美形だし」


 グランダが笑顔で言うと、ソロは怒声のような声を上げた。


「そういう問題じゃない! ボクは基本的にモンスター討伐や探索ものが好きなんだ。それに、お洒落センスなんてこれっぽっちもない。今すぐ契約を解除して!」


 ソロが手の甲を差し出し迫ると、グランダはなだめる様に返す。


「まぁ、まぁ。そう怒らないでくれよ。コンテストは明日だし、ドレスアップ料も全額俺が出す。当日は突っ立ってるだけで良い。報酬も奮発する。だから、この通りだ、頼む!!」


 ソロは何か言い返そうとしたが、諦めた様に息をつき言った。


「……分かった。明日だけだからね」


 ソロがそう言うと、ぱぁっと顔を明るくし、グランダはソロの手を取り喜んだ。


「いやぁ、本当に助かる! 恩にきるぜ、ありがとう!」


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