ソロと死の霊峰2
……
……い
暗い景色の中、蛍の放つような小さな光が淡く漏れ出す。
山彦のように遠くからくぐもった声が、徐々に鮮明になっていくと、黒雲の切れ間から差し込む光のように、その白い光が瞬く間に広がり、そして――
「おい、こら起きろ!!」
落雷がすぐそばに落ちたような怒声を浴びせられると、ソロは寝顔に水をかけられたように、上半身をバッと跳ね上がらせた。
慌てふためきキョロキョロとする少女に、その人物は大きくため息をつくと、片手で地面を、バン! と大きく叩いた。
「うわぁっ!?」
ソロがその人物にようやく気が付き、向き直ると、その人物は胡坐をかき、腕を組む。
「全く、なんつー顔しやがる」
無造作に乱れある長い髪はポニーテールに纏められ、色はソロに似た淡い青。その瞳は、髪と同じ淡い色と、夜闇のような紫色の左右非対称に染められ、どちらも宝石のように澄んだ綺麗な瞳だったが、目つきは反抗期の子どものように悪い。
黒いジャケットの下に白いシャツ、デニムのショートパンツという、この極寒地ではとても考えられない姿であったが、その少女は、ヘともしない様子だった。
腰を見ると、そこには2丁の見た事もない拳銃が見え隠れしている。
呆れ顔でいうその少女に、ソロはようやく状況を大まかに掴むと、表情を崩しお礼を言った。
「君が、助けてくれたんだね。ありがとう」
感謝されることに余り慣れていないのか、その少女は「ケッ」と鼻を鳴らすと、
「助けたんじゃねェ。たまたま落ちて来たから、キャッチしてやったんだ」
ソロは、クスッとすると、胸元のポケットに手を当てた。
そこにいるはずのものがいない事に気が付くと、「あれ、あれれ」と再び焦燥した様子になる。
「今度は何だ?」
少女に訊ねられると、ソロは、
「あ、あの、小鳥がいませんでしたか!? ボクと一緒にいたはずなんですが!?!?」
顔面蒼白。
奈落に落ちる瞬間、ソロは反射的にその胸元を護る様に抱いて落ちたのを覚えていた。
まさか、その途中で――
最悪の事態を考え、泣きそうな目でソロが言うと、少女は、ある方向を指差した。
その方向を見ると、モコモコとした毛布の中に、すやすやと寝息を立て、気持ちよさそうに眠る小鳥の姿があった。
その姿に、ソロは「良かったぁ……」と胸を大きく撫でおろす。
その洞窟は、見た事もない防御魔法がかけられていた。
薄い魔法防壁は、吹雪く暗夜が見える洞窟の入口に張られていることは、感じ取れたが、これほど魔力消費が少ないにも関わらず、強力な力を発揮している魔法は今までに見たことがなかった。
余程の魔法の使い手なのだろうか。
そう思いながら、ソロが少女を眺めていると、少女は小鳥を見つめ、
「そいつは、当分起きねェよ」
「え?」
「俺が強力な催眠魔法をかけたからな」
「な、なんでそんな事を!?」
平然とした様子で言う少女に、ソロが驚き、いきり立つように訊ねると、少女は、
「なんでそんな事を? か。そりゃあ、オレがお前と2人だけで話がしたかったからだ」
「ボクと2人で……?」
ソロが訊くと、少女は短く頷いた。
「安心しな。別にそいつは死んでるわけじゃねェ。それに、オレもお前たちを殺して金品奪おうなんていうつもりはねーからよ」




