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剣士のソロ2

ブックマークありがとうございます!

これからも見守って頂けると有難いです。

 翌朝、依頼書を町の案内所で受注し、地図に示された依頼主のもとへ向かった。

 案内所でクエストライセンスを見せると、案内所の人は必ず目を疑う様にソロのライセンスを見る。

 もうどこの町でも同じリアクションをされるため、正直ソロは飽きていた。

 地図を見るなり、ソロは首を傾げた。

 地図に示された場所は、町の中ではなく、町から離れた場所にあったからだ。

 取り敢えず行ってみるか、とソロは呟くと、怪しさを感じながらもその場所へ向かった。

 木々の並ぶ林の中に入ると、ソロの肩に止まっていた小鳥が辺りをキョロキョロと見渡しながら言った。


「何にもないのぉ。こんな所に本当に人なんておるのか?」


「うーん……この辺のはずなんだけど」


 ソロは地図を見ながら辺りを見渡すと、何かを見つけた様に声を上げた。

 崩れた白い煉瓦の壁に、地面には瓦礫が転がっている。

 何か建物が昔建っていたのだろう。土肌の見えるその地面には、錆びれた四角い鉄扉があった。


「まさかダンジョンかなぁ……」


 ソロは不安そうに声を漏らすと、鉄扉の取手を手に取り、ゆっくりと開いた。

 扉を開くと、地下へ通じる階段が現われ、奥にはまた扉が見える。

 その扉の両壁には灯りがともっており、人がいそうな気配がする。

 ソロはその扉までの土階段を降りると、扉を2,3回軽くたたいた。


「失礼しまーす……」


 ギィーっと、鈍い音を響かせながら、ソロが扉を開くと、ソロは一瞬肩を竦めた。

 地下室の机に上げられたランタンの明かりに、凶悪そうな3人の男の顔が一斉に扉を開いた少女の方を向いた。


 盗賊だ。

 

「誰だ、てめェは?」


 ボコボコとした筋肉で覆われている上半身に獣皮のこしだれを身に付けた男が最初に訊くと、ソロは苦笑を浮かべながら答えた。


「すいません。クエストを受けて、依頼主を探していたら、ここに来ちゃいました。すぐに帰ります」


「おう、その依頼主ってのは俺達だ」


「え」


 盗賊の言葉にソロは思わず小さく声をあげた。

 大男は受注者と同じ紋様の入った手の甲を見せると、ソロと大男の刻印が淡く光り出した。

 これは受注者と依頼主の相互確認する方法だ。

 色は赤に近いオレンジだった。それもそのはず。噂通りの金剛竜であれば、このくらいの難易度を示してもらわないと困る。

 すると、男たちは立ち上がり、歓迎するようにソロを中へ勧めた。


「ささ、入った入った」


「旅人なら金銀納めさせて帰すところだが、俺達の依頼をこなしてくれる、大切な受注者様だ。お前ら、手厚く扱えよ」


 先程の大男がリーダーなのだろう。

 男がそう言うと、残りの二人の男は返事をした。

 勧められるがままに、ソロは席につく。


「依頼内容は分かるな?」


 大男が訊くと、ソロはいつもの平静に戻り、コクリと頷いた。


「廃坑の金剛竜の討伐、ですよね?」


「あぁ、その通りだ。あの奥にはまだ多くの原石が眠っていてよ。全部掘り出せば、たんまりと稼げるって訳だ。だが、どうにもあの魔物が住み着いて足止めをくらっちまっててな。国王軍の奴らが本格的にあの廃坑の処分に取り組む前に、上手く入り込みたいって訳だ」


「なるほど」


「そういや、金剛竜ってのはムチャクチャ強いって聞いたんだが、お前みたいな小さいので大丈夫なのかよ?」


 男が疑う様に訊くと、ソロは微笑んで返した。


「大丈夫ですよ。心配はいりません。ただ、報酬の方は守って下さいね」


「当たり前だ。約束を破れば、この刻印の刻まれた腕がなくなっちまうからな。ガッハッハ」


 男たちと共に、例の廃坑へ向かうと、それは町からかなり離れた崖にあった。

 城壁のように高い壁に開かれている廃坑の入口には、黄色いロープが張られており、吊るされた看板には『立ち入り禁止』と赤字で書かれている。

 そんなものお構いなしに、ロープをくぐり、廃坑に入っていく。

 廃坑の中、手下の男の持った松明の明かりのみが、ゆらゆらと闇を照らしていた。

 どこからか水のポタポタと寂し気に落ちる音がする。

 土臭い坑道には、もう何年も使われていないトロッコの残骸や、錆びれたつるはしがあった。

 

「この坑道は有毒ガスが漏れてな、それで頓挫しちまった所だ。数年前の話で、ガスは全て出尽してよ。今じゃ、こうしてガスマスクなしでも入ることができる」


 大男が博物館の案内者のように説明した。

 すると、突然、先頭に立っていた男が足を止める。

 

「どうしました?」


 ソロが訊ねると、大男はそれを遮るように「シッ」と息を口から飛ばした。

 大男とソロが手下の男の側まで行くと、その先の大きな()に、一匹の巨大な竜が寝息を立て眠っていた。

 

「あれが金剛竜だ」


 翼はなく、代わりに首元から背まで大小結晶のようなダイヤモンドが竜の体を覆い尽くしていた。

 大きなものでは、大人の背丈を越えるものまである。

 キラキラと輝くその体は美しいが、白銀のドラゴンの口元からはギラギラと鋭い牙が光を放っていた。

 ビッグアームとは比にならない、明らかに強いと分かる竜だ。


「眠っているな。よし、あいつが起きたら、まず俺の手下が囮をするから、俺とお前であいつの弱点を……」


 大男が作戦を説明しようとすると、大男は目を丸くした。

 ソロはすでにドラゴンに向かって歩き始め、男たちを離れていた。


「おい! 待て!」


 男ができるかぎり大きな小声で言うと、ソロは振り返り、笑みを浮かべた。


「あー、大丈夫です。ボク一人でやるので、隠れていてください。あと、絶対に近づかないで下さいね」


 最後の注意は、男たちの身を案じるが半分であったが、もう半分は金剛竜との戦いを誰にも邪魔されたくない、という思いからだった。

 ソロに気が付き、金剛竜が宝石のような瞳をギョロリと開く。

 

「頼むから、しっかりしてくれよ。すぐに倒れてもらっちゃ萎えるからね」


 ソロが腰に携えた剣を抜くと、剣はドラゴンの結晶が放つ光を反射し、白い輝きを放った。

 ドラゴンは、獣のような声を上げると、その巨体を起こし、小さなソロを見下ろした。

 緊迫感も十分。

 立ち上がったドラゴンの姿からはボスたる風格が放たれている。

 何かを合図にしたように、ドラゴンとソロは一斉に動き出した。

 ドラゴンはソロに腕を振るも、ソロはそれを余裕を持って回避した。

 ソロは、岩階段を飛び上るように、ドラゴンの背を駆け上がり、金剛で覆われた一番厚そうな場所で高くジャンプした。

 守備力低そうな(うなじ)ではすぐに決着がついてしまいそうな気がしたからだ。

 ソロは声を上げる事もなく、銀の剣をドラゴンに向けて振り下ろした――


「…………」


 キラキラと結晶の破片が空気を舞い、持った剣先が地面についているのが見える。

 後ろでは悲鳴のような声があがり、それが空気に溶けていくように消えると、ズシンと何か大きなものが倒れる音がした。

 ソロはしばらくその態勢のまま沈黙していた。

 男たちは拳一つ入るくらいに口をポカンと開けたまま、その光景を見ている。

 ソロは立ち上がると、しばらく後ろを振り返ることができなかった。

 振り返りたくなかった。

 男たちが歓喜の声をあげ、ソロに駆け寄ると、ソロはショックのあまりその場にふさぎ込んだ。

 男たちは、ソロがうれし泣きをしていると思い込み、廃坑内には男たちの喜ぶ声だけが響いていた。

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