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ソロへの手紙

 こことは異なる世界、時間の紡がれる世界。

 そこは、まるで寒凪(かんなぎ)の夜に包まれた町のような場所だった。とても穏やかで、どこか懐かしい所。

 先生曰く、あの世界は"結晶の町"と云われる場所らしい。

 不思議な体験もした。

 なんと、前代の青の勇者、リュカさんに出会った。とても優しそうな顔立ちで、かっこいい人だった。

 誰かに似ていると思ったけど、昔いた道具屋のお兄さんに雰囲気が似ていた。本当に、太陽のような人だった。

 なんでそんな不思議なことが起こったのか、その理由は先生から聞いたんだけど、難しい話でここで説明するのはちょっと難しい。取り敢えず、神様のお導き、ってことになるのかな。

 リュカさんは、ボクが求めていた西星珠(せいせいじゅ)を持っていた。リュカさんから、それをもらったボクは、先生の魔法で勇者の力を呼び覚ますことに成功した。

 勇者の力が目覚めれば、体中から力がみなぎる……と思ってたんだけど、特にこれといって異変はない。先生は、力の増大量は明らかに増えたって言ってたけど、やっぱり力は賢知陣の人でしか分からないみたいだ。

 

 ソロは走らせていたペンを止めると、一通りそれを眺めた。


「もう少し、字が上手くなると良いんだけどなぁ」


 この日記は、先生と出会って半年程経った頃から書き続けているものだった。といっても、何十冊もあるものではなく、心に残った出来事や出会いがあった日、先生から教えてもらったことのみを記していた為、合計で数冊程になる。

 ソロが苦笑して呟くと、浴室から湯気を立て、白いタオルで髪をわしわしとさせながら出て来た幼女は、ソロの横から覗き込み、


「まー、昔よりは上手()くなったの」


 ソロはバッと、日記をすぐさまに閉じ、覆いかぶさるように隠すと、


「勝手に見ないでくださいっ! ……褒めてくれるのは嬉しいですけど」


 幼女は机に上げられていた褐色の酒瓶を手に取ると、ベッドの上に座り、ポンと音を立て蓋を開けた。


「出会った時はろくに識字もできんくらいじゃったからな。いやぁ、わしの教育の賜物じゃのぉ。ぷはぁ」


「ボクの頑張りも褒めて下さいよ。……ん」


 ふと視界に映った窓の外の景色に、ソロは振り向いた。

 金銀に光る星月夜(ほしづくよ)の中、一層黒い影が見えると、ソロは窓を開けた。

 羽音を立て、夜の冷たい空気をビューっと切り、それは大きく旋回すると、なだらかに地上の小屋に向かって舞い降りる。

 内からの光で、その黒い姿が鮮やかな黄色いインコのような輪郭になると、差し出された少女の指の上に止まった。

 久々にその姿を見せた自身のコンタクトバードの顎元を指で優しく撫ぜると、ソロはその脚に括りつけられていた手紙を解いた。


「なんじゃ? コンタクトバードか?」


 窓を閉め、指先に止まったコンタクトバードが何か食べられるものはないかと、貯蔵棚に歩み寄るソロに幼女が訊いた。


「はい。けど、ボクに手紙なんて、誰からだろう」


 ちぎった乾パンを鳥に食べさせながら、席に着くと、ソロはコンタクトバードの運んできた手紙を開いた。

 最初に目に入った差出人の名前に、口元が和らいだ。


「誰からじゃ?」


 嬉しそうに微笑むソロに、幼女が訊くと、ソロはその名前を言う。


「アルスからです」


 ソロは早速手紙の内容を黙して読み始めた。

 アルスとコンタクトバードで連絡を取ったのは、リダイアと剣を交えてから数日後に互いの安否を確認した時以来だった。

 コンタクトバード(:使用されている鳥と同じ名称の伝通サービス名)には万が一の事を考え、偽名で登録していた為、イルヴェンタールの騎士達に鳥を追われて居場所を嗅ぎつかれる心配はない。

 久々のアルスからの手紙に、ソロは少しワクワクとしながら、その文を読んだ。

 しかし、その表情は読み進めるに連れて無表情に変わり、次第に真剣な面になった。

 そこに書かれていた内容は、魔界の門についてだった。

 魔界の門の不安定さについては、以前から町や国々で騒がれていた事であり、魔物たちが活発化している事から既知の事であったが、文面に記された状況は思っていた以上に深刻なものだった。

 ソロの様子に気になった幼女も、横からその内容を覗き込む。

 魔界の門の完全開放。それに伴う魔界軍の総攻撃。

 その言葉に、幼女の顔もソロと同じものになる。

 最後には、アルスからの相談が添えられていた。

 それは、"会って直接話がしたいから、居場所を教えてくれないか"、というものだった。

 

「先生」


 ソロが幼女の顔を見ると、幼女は頷いた。


「じゃが、あの(わっぱ)がイルヴェンタールの騎士達に尾行されている、(ある)いは利用されているという可能性も少なからずある。この場所で待ち合わせるよりは、別の場所を選択した方が良かろう」


「手紙によれば、アルス達は……あっ」


 ソロが声を上げると、「どうした?」と幼女が手紙を覗き込む。

 聞き覚えのある町の名前を示す文字に、ソロはそれを指差し、


「アルス達が今いる、この町って、確かこの大陸にありませんでした? ほら、先生が、エルフ達の住まう森だとか言って恐がって近づかなかった」


「恐がってとは失敬な。エルフは何かと堅物が多いから苦手なだけじゃ!」


 プンスカと幼女が癇癪を起こすも、ソロは、


「この大陸にいるなら、待ち合わせ場所も簡単に選べそうですね」


「話す内容にしても恐らく聖戦の事じゃ。なるべく人目につかん方が良いのぉ。それにどっかの誰かさんは追われ身じゃから自動的に町とかは選択肢から外れるのぉ」


 嫌味混じりの言葉にソロは一瞬眉をピクっとさせる。


「そうじゃ、良い場所がある。ソロ、地図を持って来い」

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