剣士のソロ1
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荒野を越えると、再び一面に緑の平原が広がる。
ちぎれた綿菓子のような雲が浮かぶ空は、大きな町につく頃には、オレンジジュースをいっぱいに溢したような色に変わっていた。
軽トラックでここまで送ってくれた町長の御雇人にお礼を言い、車が、今来た道の先で小さい影になるまで見送ると、ソロは町の門をくぐった。
入口の側に掲示されていた町の地図を見ると、ソロはすぐに宿に向かった。
外観は縦長の四角い建物で、周りの色と同じく白亜色だ。
料金は、前の宿より少し高い。
今回は案内の人はいなかった。
受付で部屋のキーだけが手渡されると、そのキーに記された番号の部屋を探す。
「207。2階か」
疲労はそんなになかったものの、荒野でベットリとかいた汗を一刻も早く流したい思いでいっぱいだった。
階段を上がり、部屋の鍵を開け、中に入ると、内容通り1人用の広さだった。
ソロは、服と下着を脱ぎバスルームに入ると、シャワーを豪快に使い、頭から浴びた。
タオルで身体を拭き、洗濯機に服を放り込み、用意されていた宿のローブに着替え、バスルームを出ると、ソロは声を上げた。
「先生!」
その声に気が付いた幼女がソロに振り向くと、ヒックとしゃっくりをした。
明らかにサイズの合っていない、ぶかぶかの白い法衣のようなものを身に付け、だらしなく胡坐をかいている。
部屋の冷蔵庫を開けたのか、その幼女が片手に握っている一本の酒瓶を見ると、ソロは呆れたような声で言った。
「もう、お酒は本当にほどほどにしてください」
先生と呼ばれた8歳ほどの姿の幼女は、ムッと頬を膨らませると、空いている片手をブンブンと回し癇癪した。
「なぬぅ!? ソロ、わしの生き甲斐を奪うつもりか!?」
「昨夜だって、大量に飲んでいたじゃないですか。お蔭で大金貨も残り2枚となってしまいましたし……」
「酒に使わんで何に使う! 酒こそ天下の宝物。飲めばこの世のパラダイスじゃ! アッヒャッヒャ」
陽気に馬鹿笑いする幼女を見ると、ソロは額に手をあてた。
(ダメだ、完全にいってしまっている……)
ソロはふと目に入った、さっきまでは机の上になかったものに気が付くと、それを手に取った。
「夕刊?」
ソロが言うと、幼女は思い出したような口調で言った。
「あー、さっき宿の姉ちゃんが入ってきて置いて行ったぞ。サービスじゃそうじゃ。ヒック」
「ふーん」
ソロはふんわりとしたソファに腰を下ろし、新聞を開くと、その見出しに大きな声を上げた。
「どうした?」
幼女がソロの横から新聞を覗き込む。
"勇者ご一行、ダーイヤ火山の脅威アレキサンドラゴンを討伐す!"
大きな文字で書かれたその見出しを見ると、幼女は他人事のように言った。
「あー残念じゃったの」
ソロは怒りを露わにすると、新聞に叫んだ。
「あれはボクの獲物だったのにぃ!! あいつらぁ!!!」
「だから、あの時倒しておけば良かったんじゃ」
数か月前のこと。稀少宝石をドロップする邪悪な竜が住まうという噂を聞きつけ、ソロはダーイヤ火山に向かった。
竜の住まう火山の頂上付近まで行くと、そこには想像以上に強そうな赤黒いドラゴンが威風堂々に立っていた。
陰でソロはそのドラゴンを見ると、何かを思い立ったように、その場を離れた。
「あんなに禍々しく強そうなドラゴンは中々お目にかかれないよ。放っておけばもっと強くなるんじゃないかな」
ソロはあの時に自分の言ったその言葉を酷く後悔した。
ソロは、両手で顔を覆うと、幼女は責める様に追い打ちをかける。
「本当に阿呆じゃのぉ。なーにが、"放っておけばもっと強くなるんじゃないかな"じゃ」
すると、ソロは、消えそうなかすれ声で言った。
「だって、強くなると思ったんだもん……。デザートは最後に食べる派なんだもん……。それにあいつらが、あのドラゴンを倒せるなんて思わなかったんだもん……」
言い訳がましい後悔の言葉をソロが言うと、幼女は酒瓶をゴクゴクと飲み、ぷはぁーっと口を拭った。
「あのまま、あやつらの仲間になっていれば、今頃あのドラゴンも討伐していたぞ」
それを聞くと、ソロは新聞をバンと閉じ、キッと幼女に向き直る。
「イヤだ! あいつら頭が堅いんだもん。この世界は光と闇があるからこそ美しいのに、闇を徹底的にぶちのめそうとする人達なんて、ボクには考えられないよ」
「変わりもんじゃのー」
「ボクは今の生活が好きなんだ。自由に世界を見て回って、誰かに気兼ねすることなく自由に行動する事ができる。協調性を重んじる勇者となんて組んでいたら、ボクにとっては地獄だよ」
「変わりもんじゃのー」
「それに、先生だって言っていたじゃないか。ボクは色々な経験をしたほうが良い、って!」
「確かに言ったのぉ、ヒック」
ソロは閉じた新聞の別ページを開いた。
がっつく様に他のページを見るソロに、幼女は中身が空になったのを確認するように、瓶先を逆さに振りながら言った。
「まぁ、何をするかはお主の好きじゃがの」
ムッとしていたソロは、新聞のとある欄を見つけると、表情を和らげた。
「この町、クエストの情報は新聞に載せてるんだ。どれどれ」
品定めするように、クエスト情報を眺める。
「うーん、あっ、これなんか良さそう。金剛竜討伐依頼。廃坑に住み着いた竜の退治か」
詳細は記されていなかったが、中々面白そうなクエストだ。
金剛竜は、どこかの町で噂に聞いたことがあった。
高度な守備力を誇る竜で、上級の王軍戦士でも数人がかりでようやく討伐できるクラスと聞いている。
「報酬も中々良い。これにしよう。剣、折れないと良いな。今夜のうちに手入れしておこうっと」
ソロがご機嫌そうに言うと、幼女はもう1本の酒瓶の蓋を空けながらボソッと小さな声で言った。
「お主の剣が折れぬわけなかろう。どうせ今回も期待外れに終わるんじゃ。クスクス」




