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ミーニャ篇 ミーニャの手料理

*この物語は「アルスとダイガ」を御読みになった後にお読み頂けると、よりお楽しみいただけます。

 出発を先延ばしにする事が決まった夜の事。

 ミーニャは、やはりアルスの事が気になり、城内をウロウロと落ち着きなく歩いていた。

 怪我はシエナのお蔭で大事には至らなかったものの、自分を(かば)って負わせてしまった怪我であるにも関わらず、その自分が治療に携われずにいた事に、ミーニャは不甲斐なさを感じていた。

 何か自身にできることはないか。

 そう考え上げた結果、ミーニャが至ったのは元気の出る手料理を作ることであった。

 城の調理場を、ダイガとコック長にその旨を伝え、借りると、ミーニャは慣れないエプロンに身を包み、恐る恐る台所の前に立った。

 それもそのはず。

 賢知陣になる前もなってからも、料理といったものを作る経験が乏しく、包丁すらも手に持つことがあまりなかった。

 そんなミーニャが、手を震わせながら包丁に手を伸ばし、両手で握った時だった。


「ミ・ィ・ニャ・さ・ん」


「うわぁあ!?!?」


 背後から、ぬぅっと現われた女性に、ミーニャがお化けにでも遭ったような悲鳴を上げる。


「し、し、シエナさん!?」


 ミーニャは心臓バクバクの状態で、その女性の名前を呼ぶと、シエナは悪戯に微笑んで言った。


「ごめんなさい。驚かせるつもりはなかったのですが。ダイガさんから伺って、様子を見に来ましたの」


「そ、そうだったんですか……」


 ミーニャが苦笑を返すと、シエナは後ろからミーニャの手を借り、


「ミーニャさん、その持ち方は護身用の短剣を持つ方法ですよ。包丁は両手で持つのではなく、こうして持つのですわ」


「すいません。実は私、料理というものを作ったことがあまりなくて……」


 ミーニャが苦笑を浮かべ恥ずかしそうに少し頬を赤くしながらそう言うと、シエナはこれといった動揺は見せず、


「あら、そうでしたの? 私で良ければお手伝いさせてください」


「え、良いんですか!?」


勿論(もちろん)ですとも。町で出会った時、私を助けて下さったミーニャさん達ですわ。断る理由がありません」


 シエナがそう言うと、ミーニャは「ありがとうございます!」と嬉しそうに顔を明るくした。


「ところで、一体何を御作りに?」


 シエナが、ミーニャの机の上に開いていた料理本を見ると、ミーニャは恥ずかしそうに言った。


「実は、アルスさんに少しでも早く元気になってもらおうと料理を作ろうと思って。これであれば私にも作れそうかなって……」


「きっと、アルスさんも喜んでくださいますわ。頑張って、ミーニャさんの愛の手料理をプレゼントしましょう」


 シエナが手を合わせそう言うと、ミーニャは湯立つように、ボッと顔を赤くし、慌てた様子でシエナに言った。


「あ、愛の手料理!? ち、ち、違いますっ! 私は賢知陣で導き手なので○×☆#@……!」


 支離滅裂な言葉になるミーニャに、シエナは「ふふふ」と微笑ましそうに笑うと、「さぁ、では作りましょう」とミーニャに声をかけ、2人のクッキングタイムが始まった。



 スタミナ定食が完成すると、ミーニャはそれを盆に乗せ、ひたひたとアルスのいる部屋へ向かった。

 一緒に作った分、シエナにも来てほしかったのだが、1人で行くように勧められ、尚且つシエナが手伝ったことはくれぐれも内緒にするように、と釘を打たれてしまった。

 親指を立てた、シエナの奇妙な笑顔には何か引っかかるものがあったが、約束は約束。

 ミーニャは言われた通り、シエナの事については黙する事に決めた。

 アルスのいる部屋の前につくと、ミーニャは一呼吸を置いて、扉をノックした。


「あーい」


 アルスの間延びした返事が中から聞こえてくると、ミーニャは扉から顔を覗かせた。


「アルスさん?」


 部屋を覗くと、シエナは凍り付くような目になった。

 アルスは寝具に着替えているものの、聖剣の納まった鞘を上下に素振りしていたのだ。

 アルスも、部屋に入って来たのが、ミーニャだと気が付くと、ミーニャと同じような表情になった。


「み、ミーニャ!?!? えーとこれはだな……」


 アルスが慌てて弁明しようとするも、夜の城には大きな怒声が一つ雷のようにアルスに落ちた。



「全く。怪我が治るまでは安静にしてるよう、あれほど言ったではありませんか」


 頬を膨らませ言うミーニャに、アルスはベッドの中で苦く微笑んだ。


「ん、ミーニャ。それは?」


 机の上に置かれた料理にアルスが気が付くと、ミーニャの少し逆立っていた眉が緩み、


「これは、その……、アルスさんに持ってきたんです……って」


 ミーニャが目を逸らし戻すと、ベッドにあったアルスの姿は、机の前の椅子に座し、手を合わせ「頂きます」と既に料理に手を付け始めていた。


「もう! 食べるのが早過ぎますよ」


「美味っ」


「え?」


 アルスの料理をパクパク食べる口から聞こえた言葉に、ミーニャの思考が一瞬止まる。


「これ美味(うめ)ェよ、ミーニャ。これ、お前が作ったのか?」


 アルスに訊ねられると、ミーニャは一瞬戸惑った。

 しかし、シエナと約束した事だと自分に言い聞かせ、抵抗はあったが、「えぇ、まぁ」と答えた。


「いやぁ、マジで美味いはこれ! ありがとな、ミーニャ!」


 美味しそうに頬張りながらアルスがそう言うと、ミーニャも嬉しさを隠しきれず、目を細めた。

 

 

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