アルスとダイガ6
「アルスさん……?」
ノックした扉からミーニャとシエナはひょこっと顔を覗かせると、扉をゆっくりと開いた。
ベッドに眠っていたアルスは、それに気づくと元気そうな表情を見せた。
「怪我の具合は如何ですか?」
シエナが訊くと、アルスは負傷した腕を回して見せた。
「おう! シエナさんの治癒魔法のお蔭で、ほら、この通り――ッ痛」
アルスが片腕でその腕を抑えると、ミーニャは少し慌てた様子で、
「無理をなさらないで下さい。まだ完治した訳ではないのですから」
アルスは苦笑を浮かべた。
ミーニャもそれに微笑みを向けるも、すぐに顔をシュンとさせ、アルスに言った。
「昨夜は申し訳ありませんでした。本来勇者であるアルスさんを護るべきであるはずの私が、護られるだけではなく、アルスさんに負傷を負わせてしまうなんて……痛っ」
ポカっと叩かれた頭をミーニャは抑えると、アルスは笑いながら「バカ! お前は真面目すぎるんだよ。お前も怪我してんだから養生しろよ」
「任せて下さい。お二人とも私が手厚く看病して差し上げますわ」
手を合わせ言うシエナに、アルスが「シエナさんも頑張り過ぎるんだから少しは休めよ」と言うと、シエナは「あら」と言い、3人は可笑しそうに笑い声を上げた。
アルスの怪我が完治近くまで回復したのは、シュヴァルツの交戦から3日が経った時だった。
空を覆っていた硝煙の雲も晴れ渡り、海のように青い空がどこまでも広がっていた。
度々ダイガとハルトもアルスのいる部屋に見舞いに訪れたものの、アルスの出発が決まるとすぐに、ダイガはアルス達を玉座の間に呼び出した。
アルス達が玉座の間に現われると、最初にハルトが感謝の言葉を述べた。
「アルスさん、ミーニャさん、そしてシエナさん。皆さんのお蔭でアスピス王国を長らく襲って来た魔の手を払うことが叶いました。何とお礼を申し上げれば良いものか、言葉を見つけようともそれに見合う言葉は見つからない程です。本当に、本当にありがとうございました」
ハルトが深々と頭を下げると、ダイガは、玉座の段を降り、アルス達の前に立った。
「アルス、ミーニャ殿、シエナ殿。ハルトの言う通り、このアスピス王国に平和がもたらされたのは皆の者のお蔭だ。しかし1つ訊ねたい事がある。シュヴァルツはアルスの事を勇者と呼んでいたが、その事についてお聞かせ願えないだろうか」
その言葉にシエナも驚いた表情を見せる。
「まぁ、アルスさん、勇者様だったのですか!?」
アルスは困った顔でミーニャを見ると、ミーニャは首を縦に振った。
「ダイガ、シエナさん。黙ってて悪かった。あのシュヴァルツって魔物の言う通り、俺は勇者の1人。今ここにいるミーニャに導かれるまで、俺自身も自分がまさか勇者なんて知らなかったんだ」
アルスから話のバトンを受け取ると、ミーニャは事情を説明した。
ある程度の情報をミーニャが話すと、ダイガとシエナは驚きつつも納得したように頷いた。
「成程。では、魔界に住まう魔王を倒す事も伝承通りであるのか」
うむうむ、とダイガは頷きながらそう言うと、よし、と決心したような声を上げ、ハルトに向き直った。
「ハルト、俺はこれよりアルス達と共に旅に出る事にする!」
突然の決心に、ハルトは目を丸くした。
ダイガはアルスに向き直り、
「この国を護ってくれたことは俺の命を、そして国民全員の命を救ってくれたという事だ。俺はこの何にも変えられぬ感謝を、何としてもアルス達の力になりたい。アルス、どうか俺を旅の仲間に迎い入れてはもらえないだろうか」
ダイガがそう言うと、ミーニャは戸惑った表情で、
「し、しかしダイガさんはこの国の王様。この国の長である方を旅に連れ回すなど……」
「ガッハッハ。心配は必要ない。国政については、自慢の弟がいる。それに、魔王を倒さん限りはまたこの国を狙ってくる輩もいるという事だ。アルス達の力となり、魔王を倒す事となれば、この国にも真の平和がもたらされる」
ダイガがそう言うと、アルスは「俺は構わないが……」と後ろにいるハルトに視線を向けた。
すると、ハルトは苦笑の息をつき、
「兄は1度決心したことは曲げないお人です。しかし、その決心を果たさなかったことは一度たりともありません。ダイガ戦士長、国の事は僕にお任せください」
ハルトがそう言うと、ダイガは嬉しそうに笑みを浮かべ「ハルト、ありがとう」と穏やかな声で言った。
「よっしゃ、じゃあ早速次の町へ向かうか。……痛ッ」
アルスは勢いよく上げた腕に痛みが走ると、ミーニャは苦笑し、「完治するまで出発は控えましょう」と返した。
これがアルス達とダイガの出会いだった。




