アルスとダイガ1
「ん」
雨上がりの暗い雲が覆う、緑の平原を歩く中、アルスは眼前に広がった、その光景に足を止めた。
「どうしました?」
ミーニャとシエナも足を止め、アルスの視線の向く方向を見る。
急な斜面と平地を境に、緑の絨毯は焼け焦げたような土色の荒れ地へと変わっている。
水溜まりのような毒沼が点々とし、少なからず残った木々は、まるで炭でできているように枯れている。
ゴロゴロと所々に転がっている岩のような影が、人と魔物の死体だと分かると、アルス達はその地平線の先を見た。
城塞だ。
炎と赤みを帯びた硝煙が天に立ち上り、大砲を撃っている音が花火の破裂音のように聞こえる。
カラスのように見えるのが、鳥型の魔物であると分かると、アルス達は顔を合わせ頷き、急いでその城に向かって駆け出した。
間違いない。魔物に襲われているのだ。
坂を降り、荒れ地に足を踏み入れると、腐敗臭と火薬の臭いが鼻をつく。
思わずミーニャとシエナは片手で鼻を覆うも、一瞬足を止める事もなく、アルスに続き城へと走る。
城が近づくに連れ、転がる死体が増えると、それを避け進む。
巨大な城壁が見えてくると、その前には剣や斧を持った魔物の軍勢が群がっていた。
人間の声も城側の方から聞こえる。
交戦しているのだ。
アルスは聖剣を抜き、ミーニャとシエナも杖とスティックを構えると、魔物たちに攻撃をかけた。
不意をつかれたように振り向いた竜顔の魔物に、アルスが一太刀を入れると、その魔物の悲鳴に気が付いた魔物の戦士たちが後方に振り返る。
ミーニャは両手杖を構え、「大いなる業火の壁よ!」と、呪文を詠唱すると、巨大な炎の壁が魔物たちに向かって現われる。
壁が前進し直撃すると、爆炎となり、魔物たちを焼き払う。
アルスも剣を持ち、次々に魔物を斬り前進していくと、交戦している城の兵士たちの姿が見えて来る。
竜人の魔物が一人の兵士に飛びかかると、アルスは電光の如くその間に入り、魔物を斬り裂く。
「あ、アンタは……?」
兵士が訊くと、アルスは振り返ることもせずに言った。
「ここは任せてアンタは奥へ逃げろ!」
斬りかかって来た竜兵の胸を斜めに斬ると、アルスは、舞い踊るように次々に魔物の兵達を倒していく。
ミーニャの強力な魔法も、次々と魔物の軍勢力を削っていく。
その隙にシエナは、負傷した兵士たちの元により、治癒魔法で看護を行った。
この前線の隊長だろうか。巨大な戦斧で魔物たちを薙ぎ払う、鎧を身に付けた男は、どこぞと現われた新勢力が味方だと気づくと、周りの兵士たちを力強い声で鼓舞した。
「皆の者! 敵の陣勢の崩れた今、この機を逃すなぁ!」
その声に兵士たちは、力強く返事を返すと、魔物たちに一気に斬りかかった。
アルスとミーニャも攻撃の手を止めず、襲い掛かって来る魔物たちを仕留めて行く。
「グッ、皆ノ者! 撤退ダ!!」
漆黒の鎧を身に付けた、赤い竜兵が声を上げると、魔物たちは逃げるように背を向け、城塞から逃げ去って行った。
魔物たちが遠くに点になるまでに消えて行くと、戦場には勝利の歓声が上がる。
アルスとミーニャが武器を納めると、先程の戦斧を振るっていた男が近づき言った。
「どこの誰だか分からねェが、お蔭で撃退する事ができた。本当に忝い」
男がそう言うと、アルスとミーニャも微笑み返した。
「申し遅れた。俺は、ここのアスピス王国に仕える戦士団団長のダイガだ」
「俺はアルス」
「私はミーニャです。そして今あちらで看護されている方がシエナさんです」
ミーニャが奥で負傷兵の治療にあたっているシエナを紹介すると、ダイガは頷き言った。
「此度の勝利は、俺達だけではありえなかった。是非とも国王陛下にご紹介したい。俺と一緒に城内に来て頂けないだろうか?」
ダイガがそう言うと、アルスとミーニャはお互いに顔を合わせると、ダイガに向き直り、首を縦に振った。




