プロローグ 敬愛なるお前へ
俺は最強になりたいんだ。
夜の森の中で、胸を叩いたような勇ましい声は言った。
焚火に向かい合う様に、大きな人影と小さな人影が座っている。
小さな人影のほうは、まだ幼さの残る少年のような少女だった。
お前みたいに、どんな悪党も簡単に倒せて、どんな困難も乗り越えられる。そうなれば、俺はこの手でもっと色んな人を助けられる様になれる。そんな力があるお前を、俺は心から尊敬するよ。
大きな人影がそう言うと、少女は苦笑まじりの声で何か言った。
そうか? 最強なりの悩みってのもあるんかもなぁ。……けどやっぱり"最強の冒険者"なんて言われるお前は凄ェよ!
精悍な顔立ちの、くっきりとした輪郭がそう言うと、少女は、空を見上げた。
どこか寂し気な表情で、話をする少女の顔を、大きな人影は真剣な眼差しで聞いていた。
話の終わりに少女が微笑んで言うと、大きな人影は照れ臭い様な微笑を浮かべた。
俺だってそんな大そうなもんじゃない。青の勇者なんて肩書だけさ。勇敢に戦場を切って走り、クエストを受けては困っている人を数え切れないほど助けて来たお前には、敵わないもんがいくつもある。俺はお前を本当に敬愛してるよ。
大きな人影がそう言うと、少女は顔を少し赤く染め、苦笑して返した。
少女が男に向けた言葉の最後に、就寝の挨拶を付け加えると、男も少女にその挨拶を返し、床に就いた。




