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魔界1

「痛てて……」


 体中に走る鈍痛に目を覚ますと、暗い視界がぼんやりと開けた。

 頭がまだくらくらと揺れる中、ボーっとした思考がはっきりとしてくると、ソロはハッとして立ち上がった。

 

 ボクは確か――


 里で開かれた魔界への扉。そこから先は、瞬速の世界だった。

 自身の体が細かく分解されたような重力の無くなる感覚に襲われると、まるで音か光にでもなったかのような速さで景色が走ったことを覚えている。

 時空を越えるとは、きっとこの事のなのだろう。

 その途中で意識を失ったみたいだが、不安定な到着をしたことは、身体の痛みが物語っていた。

 すぐ様に辺りを見渡すと、ミーニャ達も同じような掠れた声を漏らしながら、ゆらゆらと体を起こし始めた。


「皆、大丈夫!?」


 ソロが慌ててミーニャ達に駆け寄ると、「何とかな」とダイガの声が先に返って来た。

 ミーニャ、シエナも同じように返事をするのを見ると、ソロは安堵の息を溢した。


「どうやら、魔界への道は少しばかり不安定だったようじゃの」


 エルダが腰をポンポンと叩きながら言うと、リダイアは辺りをゆっくりと見渡した。

 天上は星の無い夜のように、どこまでも果ての知らない漆黒が広がっていた。

 光の無い世界というに相応しい世界だ。しかし、不思議なことに、ソロやミーニャ達の輪郭、色彩は元いた世界と同じように、はっきりとしていた。それだけではない。地面も、岩も、その色は明瞭に映っている。

 灰色のゴツゴツとした岩の地面に、無造作に置かれたように周囲の景色を遮る巨大な岩々。

 きっと岩場に落ちたのだろう。

 

「ッ!」


 嗅覚は眠りから覚めるとすぐに、その異臭を捉えた。


「何、この臭い……」


 ミーニャとシエナはすぐに鼻をふさいだ。


 何かが腐っている、いや、よく分からないが、しかし確かにどこかで嗅いだ覚えのある嫌な臭いが全て合わさった様な臭い。

 ソロはすぐに臭いの元を確認しようと、その岩を登った。

 しかし、ソロは視界に映った景色に、言葉を失った。

 ミーニャやリダイア達も、ソロの様子に異変を感じると岩を登った。


「これは……」


 リダイアも、眼前に広がった世界に、思わず目を丸くした。

 岩の先は崖になっており、その下には、遠くの鋭い先端を持った山々の輪郭が牢獄の城壁のように水平線を沿って囲っていた。山の黒い影に至るまでは、いつぞや見た肉塊の世界のような、赤黒い地平が広がっている。

 よく見れば、所々に巨大な黒い亀裂が地を走り、赤黒い地面が盛り上がった様に起伏している場所もある。

 しかし、その赤黒い地面の正体が視覚から脳に伝わると、恐怖でミーニャは口を塞いだ。


 崖下をよく見ると、赤黒い地面は小さな岩々が積み重なっているように形成されていることに気付く。だが、その形が竜や獣、人型のものだと分かると、ソロも驚愕と恐怖に口を覆った。


 魔物の死骸だ。

 しかもそのほとんどは、人型をした魔界の戦士達のものだった。皮を剥がれ、目玉の抜け落ちたものが、夥しい程に積み重なり、それが生き物の死骸だと分かるまで原型を留めているものは、表面に見えるものだけだった。

 その下はもはや肉と肉とが接着したような、肉の大地そのものであった。



「誰だ!」



 稲妻のような声が轟くと、ソロ達は慌てて振り返った。

 声の主はリダイアだった。

 後方から近づいてきた気配に、リダイアは既に片方の手を鞘に添えていた。

 しかし、それが誰なのか分かると、最初に声を上げたのはシエナだった。


「ヒマリさん!!」


 シエナの声に、岩陰に咄嗟に隠れた少女も、酷く驚いた表情でその顔を出すと、


「シエナさん……? 皆さん……!!」


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