夜襲10
その踏み出した一歩でガイルの足が止まった時だった。
夜風が一度大きく吹くと、その様子に「どうしたんだ?」と恐れを知らぬといった魔物達の強面に、一瞬戸惑いが浮かんだ。
ガイルは風の中に何かを探るようにピクリと黒い耳を立て、緋眼をゆっくりと動かす。
「ガイル様?」
「どうされましたにゃ?」
キャッセとリズニャーが訊いた時だった。
ガイルは大きく首を振り返すと、その眼光は闇に覆われた草原の一点に絞られた。
ガイルは瞬く間に音無く剣を引きぬき、銀の三日月が消えるとともに、闇の草原から何かが弾かれたように火花が跳ねた。
「うわっ!?」
閃光弾のように飛んできた衝撃を間一髪で銀剣で弾くも、そこに潜んでいた少女は驚いたように声を上げた。
ガイルの眼は、夜の中でも彼女の姿をはっきりととらえた。
限りなく消していた気配が鮮明に映ると、ガイルは振り上げた剣を動きの流れに乗せ構えると、疾風の如く地面を蹴飛ばした。
ギンッ。
鈍い刃の勢いよく衝突した音に、ガイルと少女の鍔迫り合いする姿が現われると、魔物達は驚いた様子でガイルの名を叫んだ。
「勇者の力をここまで抑え気配を無に近く消すとは見事。だが、私の目を欺くには程遠いぞ、青の勇者」
少しでも気を抜けば真っ二つにされそうな中、ソロは苦渋の表情の中に微笑み、
「本当はもう少し様子を見たかったんだけど、君を出し抜くには力及ばずだったみたいだねッ……!」
剣ごと黒馬の剣士を跳ね除けると、ソロは2、3歩と大きく跳んで後退した。
「ガイル様ぁ!」
後方から声が飛んでくると、ガイルは剣をブンと地に大きく振るい、
「この者は勇者の力を継ぐ者。お前達では力不足だ。お前達は里へ向かい、魔界への道を繋げ!」
そう吐き捨てるように言うと、背を向け駆け出した標的を追うように、ガイルも大きく跳んだ。
「あにゃあ……うにゃっ!?」
ガイルの姿に呆気を取られた矢先、火の玉が足元で弾け飛ぶと、キャッセは間抜けな声を上げてバネに弾かれたように大きく跳び上がった。
「あっ、危ないにゃ! 一体何事にゃ!?」
姉妹が同時に火の玉が飛んできた方向を見ると、そこには白いローブを纏った少女がこちらに長い杖を向け構えていた。
「ニャッ! お前は!」
「貴方達は――!」
お互いの顔がようやく認識できたと同時に、同じ声調の声が上がると、キャッセ達は眉を逆立て、
「お前はアルスと一緒にいた女賢者!」
すると、ミーニャも同じ顔を浮かべ、
「そういう貴方達は、あの時の詐欺商人!」
「あの時はよくも邪魔してくれたにゃ!」
「あとちょっとのところで、お前たちのせいで努力がみんな水の泡にゃ!」
「あれに懲りず、どこへ逃げたものかと思ったら、今度は魔軍についたのね!」
すると、キャッセは、ムキーッ! と地団太を踏み鳴らした。
「失礼にゃ! 私らは初めから魔軍の一員にゃ!」
「あの時の恨み、ここで1000倍返しにしてやるにゃ! お前達、あいつを懲らしめてやるにゃ!」
その言葉を合図に、魔物達から殺気を帯びた威勢が上がると、ミーニャは「ちょっ! 嘘でしょ!」とローブの裾をまくり、一目散に駆け出した。
「逃がすにゃ! 追うにゃ!」
「もう、ソロ! 事が終わった時には、埋め合わせしてもらいますからね!」




