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夜襲3

 多数の足音が里に入って来るのが聞こえてくると、ミーニャは慌てて外を見た。


「どうじゃ?」

「何があったんでしょう……?」


 エルダとシエナが曇らせた顔で訊く中、ミーニャは目を細めた。

 大きな木の幹が遮るも、奥に見える松明の灯りで、長老たちの姿ははっきりと見えた。

 里に残っていた、武装をした魔物達が数体、急いで長老たちに駆け寄ると、長老は何かを説明している様子だった。


「襲撃ですと!?」


 里の魔物の声だろう。胸を突かれたように驚いた姿と同時に、その声だけは鮮明に聞えた。

 

(襲撃……?)


 ミーニャの胸に不穏の波が勢いを増した時だった。

 部屋に誰か入って来る音が聞こえると、ミーニャは思い切りに、しかし無駄なく俊敏に振り返った。


「……ソロさん?」


 夜闇の中、その人物に最初に気が付いたのはシエナだった。

 その名前を聞くと共に、華奢な容貌が浮かび上がり、ミーニャは思わず安堵した息を溢した。


「お帰りなさい。一体、何があったんですか?」


 ソロはミーニャ達に速足で駆け寄ると、小声で森の入口であったことを淡々と話した。


「ガイル? まさか、話に聞いていた黒い馬の――!?」


 ソロの口から出た、その魔物の名にミーニャは記憶の糸を弾かれたような声をあげた。

 ソロは頷くと、


「竜達の魔物の影で、しっかり見えた訳じゃないんだけど、間違いないと思う。

 初めてリダイアと戦った時と同じような、触れてはいけない毒針みたいな嫌な雰囲気……、ただの魔物じゃないが混じっていたことはすぐに分かったよ」


 すると、エルダは何か心当たりがあるように眉間に皺を寄せた。


「ガイル……、"破壊の獣"については、"オルゴンゾラ"という名で記された文献がいくつかあったのを覚えているが、ガイルという名は見たことがない。


「レドヘイルで生き残ったラスピスの人達は、その魔物が"魔王の右腕"って呼ばれているのを聞いたことがあるって言っていたんだ。けど、本当に、そんな感じの奴だった」


 ソロが唾を飲みこんで言うと、「魔王の右腕……」とエルダは言葉を繰り返し、ますます顔を嶮しくした。


「まさかとは思うが……」


 エルダが今までにない重苦しい声で言うと、ソロ達は顔をあげた。


「いくつかの歴史書の中で、"破壊の獣"と共に記されていた魔物がおるんじゃ。

 しかしその魔物の姿や名は、どうもお主らから聞く"ガイル"なるものと異なってな」


「その魔物は、どんな魔物なんですか……?」


 ミーニャが訊くと、エルダは頷き答えた。


「その魔物は、"覇王"、あるいは"シェヴァリア"、そう記されておった。


 "破壊の獣"が大地を裂き、地上を制する時、闇世(あんよ)の"覇王"、天を駆けん。


 わしが賢者の里で、この名を初めて目にした時は、これこそが冥闇の勇者なる魔界の王を示すものじゃと思った。しかし、後の文献に度々出てきた、この魔物の記録を見てみると、どうも魔界の王のことではないことが分かったのじゃ。そやつは魔界の王ではなく、その傍に仕える者、そう名乗っていたらしい。

 魔王の右腕といえば、確かに一致はする。しかし、問題はその魔物の姿じゃ。

 その魔物は、いずれの書でも、漆黒の竜、またはその類のもの、そう記されておったのじゃ」


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