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スライムとソロ1

 綿の様な大小の雲が漂う空の海の下、緑色の草のカーペットが遠くの山まで広がっていた。

 そこに伸びる一筋の土の道を、一人の少女が歩いてた。

 太陽が一番高い所にある、淡い昼の空と同じ色をした短髪に、腰には銀色の剣を携え歩いている。

 しかし、その表情は不機嫌さがあふれ出していた。


「のう、良いのか?」


 少女の肩に乗った小鳥が、後ろを振り返り、再び少女に向き訊くと、少女は一瞥もせず答えた。


「良いんです」


「本当に、良いのか?」


 小鳥が念を押すようにもう一度聞くと、少女はさっきより少しきつめの声で返した。


「良いんです」


「じゃが、ついてくるぞ」


 小鳥は、少女の後ろから飛び跳ねるようについてくる、その小さな生物を見ると、ひょいっと飛び降り、その生物に駆け寄った。


「お前さんも物好きじゃなあ。こやつについて行っても、良い事は一つもないぞい?」


 緑色のつやつやとした姿をした生物は、ぷるるんと体を震わせると、そのつぶらな瞳を小鳥に向け、「きゅっきゅっ」と可愛らしい鳴き声のようなものを発した。


「恩返しと言ってものぉ。どうにもあやつは、お主のような生物が苦手でな……」


 まるでその生物に会話を返すように小鳥が言うと、その生物は「きゅう、きゅっ!」と何か決心を示すように鳴いた。


「まぁ、お主がそこまで義理堅いというのであれば、止めはせぬがな……」


「先生、置いて行きますよ?」


「あっ、待たぬか! ソロ」



 前の町での出来事であった。

 この旅人の少女、ソロは、町の住人から森林に出る巨人型モンスターの討伐を依頼されていた。

 その魔物が出るという、大木の立ち並ぶ森に入るも、魔物は臆病者なのか中々現れず、2日間森の中で野宿した。

 そして、ちょうど今と同じ昼近く。棍棒を持った大型の魔物が姿を現した。

 現われた瞬間にいきなり大木の幹と同じ太さの棍棒を振り上げるものだから、ソロは驚いてしまい、気付けば銀剣で一撃必死してしまっていた。

 その巨人が消滅する時だった。

 後ろにいた気配に気が付くと、ソロは振り向き、悲鳴に近い叫び声を上げた。

 そこにいたのは、プルプルと怯えていた一匹のスライムだった。

 このスライム、巨人に襲われ逃げていたところ、たまたまソロと遭遇し、命拾いしていたのだ。

 スライムは、通りすがりの愛らしい少女に酷く恩を感じ、己が行くスライム道に従い、何としてでもこの恩を返したいと決心したのだった。

 しかし、これまた不運な事に、ソロはスライムが大の苦手だった。


「全く、お主のスライム嫌いは変わらんの」


 小鳥が呆れた声で言うと、ソロはフンッと鼻を鳴らし言った。


「だって嫌いなんですもん。ぬめぬめしてて気持ち悪いし、あのひんやりした触感……思い出すだけで身がゾッとするぅ!」


 少女が身を震わせた訳は、世界を冒険し始めて間もない頃に(さかのぼ)る。

 慣れない長旅に疲れて、草原の丘の上にあった一本の木の木陰で、一休みをしていた時のことだった。

 昼下がりの爽風が心地よく頬を撫ぜる中、歩き疲れた少女は、木に寄りかかりながら、ぐっすりと深い眠りについていた。

 ちょうどその時、1匹のスライムが木の上で同じようにうたた寝をしていた。

 スヤスヤとスライムは、小さな寝息を立てていたのだが、そこにビューっと少し強めの風が吹き荒れた。

 スライムは風に吹かれるとバランスを崩し、木の枝から滑り落ちた。

 そして、そのスライムが着地したのは、あろうことか、下で気持ち良さげに眠っているソロの無防備な首後ろだった。

 ソロは氷を急につけられたような感覚に驚き声を上げ跳ね起きた。

 しかし、その反動で弓を弾いた後のようにソロの背筋が立つと、スライムはそのまま服裏の背中に落ちていってしまった。

 その時の何とも言えない最悪の触感と、冷たさがトラウマになり、ソロは最強と謳われるようになってからも、最弱モンスターであるスライムだけは倒す事ができなかった。


「あの時の光景は傑作じゃったの。ぎゃーぎゃー暴れまわって、まるで怪獣じゃったわい」


 小鳥が笑いながら言うと、ソロは益々不機嫌な顔になり、ムキになったように言った。


「気持ち悪いものは気持ち悪いんです! ま、お酒の事ばっか頭にしかない先生には分からないでしょうけど!」


 小鳥は羽ばたくと、再び後ろから健気についてくるスライムに、羽をはばたかせながら言った。


「お主も分かったじゃろ。あやつはそういう奴じゃ」


 小鳥がそう言うと、スライムは「キュッ! キュッ!」と力強い声を上げた。

 小鳥はそれが、いいえ、この恩何といわれましても必ずお返しさせて頂きます! という意味だと理解すると、流石にその気に負け、


「分かった。其方(そなた)がそこまで言うなら、わしも応援しよう」



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