魔物の里4
光から視界が開けると、そこは、魔物達の里だった。
巨大樹に囲まれた中、苔のような緑に覆われた絨毯が一面に広がり、天からは木々の葉の色を含んだ穏やかな光が木漏れ日となって照らしている。
巨木の上や下には、ちょこんと色々な形をした住処が並び、所々に千差万別の容貌をした魔物たちの生活風景が一望できた。
巨人のような上位種やヘルドッグ(:非常に凶暴な犬の姿をした魔物)といった攻撃性の強い魔物の姿は見当たらず、比較的温厚な性格といわれる魔物たちが里のあちこちで、のんびりと過ごしているようだ。
「あとは任せて」とスターチスの声に、ソロ達はスライムに別れとお礼を告げると、スターチスは「さあ、さあ、これを塗ってちょうだい」と忙しく、小さな壺をすすめた。
「ハイドドラゴンの体液よ。人間が来たなんて広まったら、里中が大パニックになるからね。
それで気配を消すと良いわあ。
あっ、ただ長老さま達の前では、しっかりしてね。ハイドドラゴンの体液なんて無いも同然なんだからあ」
スターチスに言われるがままに、ソロ達は肌にその液を塗りたぐった。
ドロリとした粘液を帯びた液の、生臭い臭いにミーニャ達は「うっ」と、最悪そうに顔を青くした。
液を塗り終えると、スターチスはソロ達を里の奥へと案内した。
「フォレシアさんのいた里に、どことなく似ていますね」
ミーニャが見回しながら呟くように言うと、エルダは頷き、「妖精やエルフたちの集落様式は、このような森の中ではある程度パターン化するが、まさか魔物たちのものも、このようなものになっておるとはのぉ」と、興味深そうにあごひげを撫でた。
里を進んでいくと、丸みを帯びた岩の上に、朱色屋根をした円形の建物が見えてきた。木造りの階段が幕の垂れ下がった入口まで伸び、周囲の建物とは一線を画した、その雰囲気からそれが一目で長老たちの家であることが分かった。
そして、その間近に来た時、その家を支えている岩と思っていたものが、亀の魔物だと気が付くと、ソロ達は改めて驚かされた。
スターチスが「客人よお。長老さま達にご挨拶に」と警護の2体に言うと、ソロ達はその階段を昇った。
垂れ幕をあげると、最初に目に入ったのは、囲炉裏を囲む3体の姿だった。そのうち2体は白と黒の弾棋を打っており、1体は囲炉裏越しに、その2体の間から姿を見せていた。
1体は、全身白みがかった銀色の毛を生やした、狼の獣人だった。瞼には太い眉のような毛があり、顎からは筆のように体色と同じそれが垂れている。老眼鏡のような小さな丸い枠の眼鏡をし、立派な金装飾の入った紺色の着物を着ていた、その魔物は、ソロ達が入って来ると、険しい眼差しを向けた。
それと同時に、対局で腕組をしていたゴブリンも、ソロ達に「およ」と振り向いた。狼の魔物とは異なり、ふくよかな体躯をし、丈の短い紅蓮の上着に絹素材の分厚いズボンを身に着けている。
そして、最後に首をゆっくりと上げたのは、一見最も高齢に見える雌の魔物だった。肉厚のまだ残っている皺に、潰れたような、滑らかな線目からは誰よりも優し気な眼差しを感じる。木でできた艶やかな耳飾りや首飾りをし、曲がった体を支えるように大きな樫の杖を抱きながら、由緒ある古家のように静かにそこに座していた。




