マナの地9
ソロはしばらくの間、遺跡の彼方此方を歩いてまわった。
この場所に来ることは、きっと、もう無いことだろう。
そう思うと、名残惜しいような気持ちに駆り立てられた。目に少しでも焼き付ける様に、歩く足にその地を記憶させるように、そして、心のどこかにいつまでも残り続けるように。
そう思う一方で、胸の内に浮かぶのは、師のあの幼い顔だった。
ここが先生の育った地。先生の故郷――。
そう思うと、心が少しばかり躍った。彼女と旅をする中、この地を訪れたのは一度だけ。
思えば、故郷について知ることは、ほとんどなかった。
もう隣にいないことに改めて気づかされると、何ともいえない寂しさが瞼に込み上がってきた。
その気持ちを慰めるように、ソロは隅から隅まで遺跡を探索した。
ここで先生はどんな生活をしていたんだろう。この壁画も見ていたのかな。この階段なんて、きっと「疲れたー」と弱音をはいていたんだろう。
あの幼女の姿を重ね思い浮かべながら映る景色は、いつの間にか寂しい気持ちから、どこか懐かしい穏やかなものに変わっていった。
しかし、気がかりなことが一つだけあった。
この山でキャンプをした夜、ソロがこの地について、あの幼女に訊ねた時のことだ。
あの時、幼女はあまりこの地について語りたくない、行きたくない、というような様子だったことを、ソロは鮮明に覚えていた。
その理由が、どうしても気になった。
外にある遺跡群を探索し終えると、ソロは再び神域の世へ通じる湖のある洞窟へと足を踏み入れた。
螺旋階段を降りると、ソロは地底湖の入口の前で足を止めた。
やはりこれ以上は、行き止まりか。
ソロがそう思って振り返った時だった。
視界が横に走る瞬間、何かが目に留まった。
ソロはもう一度振り向き、金色に照らされる目の前の壁をじっと見つめた。
目には見えないが、何かがそこにあるように感じた。曖昧な、モヤモヤとした感じに、ソロは小さなその手を壁に翳した。
ソロは思わず目を見開いた。壁に触れた手のひらから、腕を伝わり、何かが語りかけてきた。
まるで書物を読む時のような不思議な感覚に、ソロは声に漏らすように読んだ。
「ムーカ……ム……、イータ……ザ?」
何を言っているのか、訳の分からない言葉が音になると、ソロは首を傾げた。
「わっ!?」
その時だった。壁に直線の光が走り、重く鈍い音を上げながらゆっくりと左右に開けると、行き止まりであった壁に入口ができた。
現われた入口の中は、また同じような螺旋階段が下まで続いていた。
ソロは不審に思いながらも、「よし」と意気込むと、足音を立て、暗い階段を降りて行った。




