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マナの地1

 ソロとリダイアは、すぐにダイガ達の船に救助された。

 皆に支えられる中、ふと甲板から振り返ると、あの怪物のいた部分だけが、海の中赤く染まっていた。

 折れた腕に悲痛の声が漏れると、すぐにソロの応急手当が始められた。


「リダイア」


 呼び止められた声にリダイアは振り返ると、ソロはなんとか微笑()みを作り、


「ありがとう」


「お互い様だ」


 リダイアも微笑み返すと、すぐに踵を返した。


「状況は?」


 近くにいた兵士に訊くと、兵士はリダイアにきびきびと答えた。


「残党を討っておりますが、ほとんどの敵勢はすぐに撤退しました。しかし何隻かの船が静められ、海に投げ出された者達の救助にあたっております」


 リダイアは頷くと、ふと空を見上げた。

 


 敵大将(ゾラ)が最後に放った光線。

 退けられた暗雲は逃げるように周囲に開かれ、徐々に青空が広がりつつある。

 しかし、その青空の真中――光線の消えた彼方にリダイアは眉を顰めた。

 夜闇よりも黒い、墨を溢したような闇が青の中に不気味に漂っている。

 黒雲の残りかと思われたが、明らかにその色彩は周囲の雲とは異なったものだった。

 リダイアの視線に、自然と甲板にあった視線が、追うようにその闇にゆっくりと向けられた。そして、その顔は、気味の悪い、未知の何かを見ている不安と恐怖の色を浮かべた。


「あれは一体……?」


 ソロの手当てに当たっていたミーニャもその手を止め、ソロもそれを見上げていた。


「まさか、魔界の門か?」


 ダイガが声を上げると、エルダは首を横に振った。


「いや、魔界の門ではない。なぜじゃ、あそこからは闇の魔力だけでなく何ものの気配も感じられぬ」


 不穏の空気の中、船の上に沈黙が落ちる。

 


 ――人の子らよ、私の声が聞こえますか?


 聞えてきた、柔らかい女性の声に、硬直していた面々がピクリと動いた。

 そして、キョロキョロと皆がその声の主を探し始めると、ソロはふと思い出したように、「この声は」とハッとした声をあげた。


 ――この声は、今この場にいる全ての者達に向けて伝えています。私は、かつてアルフォリアの地にてその守護をし、女神ルミナに仕える者。そして、蒼穹の勇者が剣に宿っていた聖霊の1柱です。


「聖霊だと?」


 リダイアが驚いたように言うと、ざわめきが広がった。

 しかし、陽だまりのような声が再び聞えると、そのざわめきは一蹴されたようにピタリと止んだ。


――私はその力を宝珠に宿し、全ての力を使い果たしたものだと思われていました。しかし、まだ少し力が残っていたようです。ソロ、そして緋炎の勇者リダイア、良く聞きなさい。

 私達聖霊は、残された僅かな力で言の葉のかわせるうちに、この事態を伝えなければなりません。


「聖霊さん、一体何が起こっているの……?」


 ソロの声に、さっきの女性の声に代わるように、今度は凛としたような男の声が響いた。

 それは、アルスの剣に宿っていた聖霊の声だった。


――かつてない程に、恐ろしく、悍ましいものだ。

 ひと言に言おう。この世界の崩壊が始まったのだ。



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