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血戦の大地10

 ゴオオオ、という嵐のような狂った一声を叫びながら、ゾラの体が海に落ちると大きな白波が壁のように伸びる。

 波のうねりがソロとリダイアを大きく飲みこむと、そのまま遠くにいるダイガ達の船を揺さぶった。

 地震のように大きく上下に揺れると、悲鳴が上がった。

 床にへばりつき、泣き声のような声をあげていたミーニャ達は何とかそれを凌ぐも、何人の人影が海へ投げ出されるのが見えた。

 海底の土が崩れ海溝の底へと消えて行く中、ゾラは何とか、もがくようにジタバタと暴れ、顔を出した。

 口に入る海水に遮られ途切れ途切れの獣声が響き渡る。

 ブンブンと白い爪のぎらついた黒い腕を掻き回すように振るい回し抵抗するが、上半身はどんどん飲みこまれ、ついにはその暴れる両腕と突き出た顔だけが飛沫の中に残るのみとなる。


 その姿がいよいよ海に消えようとした、その時だった。


「なんだ、あれは!?」


 誰かの叫び声に、ダイガは木の柱にしがみつきながら、ゾラの方を見た。

 ゾラは最後の力を振り絞るように大きく鯨のように上半身を海面から跳ねあげさせると、口元に紫光の球が集まる。

 そして、それが一つの大きな光線となり天に放たれると、その眩しさに一瞬景色は光の中にいるように白くなった。

 その光線が黒い雲に穴をあけ、空の果てへ消えると、ゾラはついに海の中へ落ちた。


 リダイアは青い闇の中、ソロの姿を探した。

 渦潮の流れに呑まれぬよう、しきりに足を大きく蹴る。

 

 そして、周囲を見回すリダイアの目がその影を捉えると、リダイアはぐいっとその方向に振り返った。

 下方に見える小さなもがく影。

 ソロも足と片腕で何とか飲まれないように(あらが)っていた。

 リダイアは水の流れを斬り裂くように一直線にソロの方へ向かう。

 ソロもリダイアに気が付くと、ぐい、ぐいと動いた。


 しかし――


 2人の体が結びつきそうになった時、ソロは思い切りにリダイアの腹を蹴り飛ばした。

 リダイアは何事かと大きく後方へ飛ばされる。


 次の瞬間、ソロの方を再び見ると、巨大な黒い腕がソロを頬張るように丸掴みした。


 突然のことにリダイアが気を取られた隙に、その黒い腕は暗い闇の中へと消えていく。



 ソロは掴まれた腕の指の間から何とか腕と上半身を出した。

 海底に吸い込まれていく勢いに髪が逆立つ中、何とか目を開け、その姿を確認する。


 ゾラの腕だ。


 ゾラは沈む寸前まで、勇者達の気配を逃さずにいた。

 2人まとめてと思ったが、1人は逃した。

 こうなればこいつだけでも、道連れだ――!


 ソロは何とか抜け出そうと片腕に力を入れるも、巨大な指はビクともしない。

 ミシミシと腰元の骨の軋む感覚が伝わると焦燥が走った。


 潰される――


 ソロの瞼が霞む視界に閉じようとした時だ。

 小さな光が奥に見える。

 本当に細かい光だが、陽の光ように穏やかな感覚が肌に触れるように分かった。


 こっちに向かっている。

 それだけははっきりと分かった。

 


 来い――!



 ソロが胸の中で思い切りに叫ぶと、その光は強く輝き、閃光となりソロのもとに走った。

 主人(ソロ)を縛っているその手首を斬り裂くと、ソロもそれをしっかりと腕に掴んだ。

 強く締め付けていた力がなくなり、指が体から解けると、ソロの体はふわりと浮かび出した。

 ソロのもとに帰った銀剣は、居場所を伝えるようにキラキラと輝くと、上方からリダイアが魚のように懸命にソロに向かって泳いできた。

 リダイアはソロをしっかりと抱えると、ふと海底へ続く闇の方を見た。

 赤い液体が漂い上がる視界の中、黒い巨大な何かが下の方へ沈んでいく。

 しかし、そんな不明瞭な視界にも関わらず、リダイアには、その魔物が悔しい声を上げながら、闇の中へ落ちて行くように見えた。

 リダイアはそれを見届けるように見つめると、グイッと見上げ、キラキラと光の漂う上の方へ急いで浮上した。

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