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【PV10,000突破記念 特別話2】

 良夜の中、ステラ・トランウォランスのVIPルームは、ソロの予想した通り、賑わいを越えたものになりつつあった。

 バーカウンターの酒が次々と開けられ、ソロ以外は頬を赤らめ、幼女に限っては酷い有様だった。

 もちろん、ソロ自身も飲めない年齢ではない。

 しかしここで溺れてしまえば、この事態を収拾する人が誰一人といない、真のカオスワールドと化してしまうと思い、オレンジジュースを啜っていた。

 酒の勢いがピークに達しそうになった頃、オルディウスが渋い声で口を開いた。


「あのですね、実はこんなものを持って来まして……」


 オルディウスの太い手が掴んでいたものは、トランプケースだった。


「おっ、良いねー!!」

(いか)つい顔にしては中々気が利くではないか!」


 アルスと幼女が喜んだ声を上げると、オルディウスは、「何のゲームにしましょう?」


「ババ抜きは?」


 アルスが言うと、ソロは「じゃあ、先生は抜きですね。痛ッ!!」

 幼女が思い切りにソロの頭を叩くと、ポカンと良い音が響いた。


「待て待て、ババ抜きはなしだ!」


 カウンターで夕陽のような色の果実酒の入ったグラスを楽しんでいたリダイアが声を上げると、「何でです?」とミーニャが首を傾げる。

 あっ、と気が付いたような声をオルディウスは上げると、


「リダイア様は、すぐ感情が顔に出ますからね。そういった類のゲームはとことん弱いんでした」


「なっ、オルディウス、貴様!」


「それなら、こっちのミーニャも同じだな。すぐに顔に出る」


 ガハハ、とアルスが笑いながら言うと、ミーニャは「で、出ません!」と頬を膨らませる。


「あれが良い。大富豪。あの手の戦略染みたゲームであれば、右に出る者はいない」


「よし、ババ抜きだな」

「ババ抜きですね」

「私もババ抜きが宜しいかと」

「うんうん」


「貴様ら……」



 バーカウンターに置かれた丸テーブルに集まると、オルディウスはカードを切り始めた。

 電灯も、天井から吊るされた、それ以外は全て消灯し、ムーディな雰囲気を醸成している。

 カードが配分されると、それぞれは、ペアとなったカードを捨て始めた。

 大体一人5、6枚にカードが手元に残ると、アルスは、


「よし、じゃあ俺から始めて時計回りな」


 アルス、ソロ、リダイア、オルディウス、ミーニャ、先生の順で引くことが決まると、アルスは早速、ソロのカードを無作為に引く。


「お、ラッキー。揃った」


 ソロはアルスに微笑むと、扇状に差し出されたリダイアの手持ちカードに向く。

「えいっ」とソロはカードを引くと、ソロも揃ったカードを見つめ、嬉しそうに声を漏らした。

 リダイアは、同じように巨漢が差し出すカードの束を慎重に選ぶ。

 ペラッと、引いたカードを見ると、安堵の息をついた。

 穏やかな雰囲気で次々とカードが引かれて行く中、ソロは少し不安を巡らせていた。

 リダイアとミーニャの表情に出ていないところを見ると、2人には一度もまだジョーカーは巡ってきていないのだろう。

 となると、アルス、オルディウス、先生のいずれかが持っていることになる。

 手持ち札は残り3枚ほど、このまま上がりたいところだけど……


「うし、上がり!」


 アルスが声を上げると、一瞬動揺が走る。


「青の勇者! 貴様、上がるのが早過ぎるではないか!」


 リダイアが文句を言うと、アルスは無邪気に勝利を喜び、「ま、後はせいぜい頑張ってくれ。あっ、負けた奴罰ゲームな」


「えぇ!?」と声が重なり上がると、アルスは「その方が盛り上がるだろ」


 もう、アルスの奴。自分が先に上がったからって、罰ゲーム追加しちゃって。

 けど、そうとなれば意地でも上がらないとだ……。

 

「お、わしも上がりじゃ」


 ぺラリとめくったカードを見て幼女がそう言うと、ソロとミーニャは声を上げた。


「先生、何でもう上がっちゃうんですか!?」

「大人気ありませんよ!」


「うっしっし、まぁ後は頑張ることじゃな」


 幼女の台詞の後、一巡した時だった。

 ミーニャがオルディウスのカードを引いた時、その表情が一瞬崩れる。


 あのカードだな……。


 ミーニャも表情に出ていた事に気づいたのだろう。

 ミーニャは背中にカードを隠し、カードを切った。


「さ、さぁ、どうぞ」


 ミーニャが手を伸ばし、カードを差し出す。

 3枚。

 1枚1枚にカードを引くフェイントをかけ、表情からジョーカーを当てようという戦法でいくか。

 ソロは、1枚1枚にカードを当てようとするも、その戦法はすぐに崩れた。

 ミーニャは目を思い切りに瞑り、カードを見ていない。


「さ、流石賢知陣。見事な対策……」


 ソロが苦笑して言うと、ミーニャは「は、はやく引いて下さい!」と、まるで注射を前に覚悟を決めた子どものように言った。

 ミーニャからカードを、これだ! と叫び、思いっきりに引く。

 JOKER。

 その文字を見ると、ソロはすぐ様にカードを切った。


「な、ソロ、貴様! ジョーカーを引いたのか!?」


「へへへ……」


 ソロも苦笑し、カードをリダイアに差し出す。

 持ち手のカードが2枚になると、ミーニャとオルディウスは連続で上がりをおさめた。

 ソロの表情にも流石に焦りが出ていた。

 リダイアのカードは残り1枚。

 リダイアがジョーカーを引けばワンチャンある。

 

「…………」


 リダイアは顎元に手を当て、目を細め、唸った。

 こっちか、いや、それともこっちか……。

 そんな風に手を左右に動かすも、再び顎元に手を戻す。


「私を相手にここまで戦えたのは貴様が初めてだ。流石は世界に名を(とどろ)かせるだけはあるな」

「今ここで、その台詞言うの!?」


「あの時は仕留めそびれたが、ここでは勝負を決めさせてもらうぞ」


 勝負を挑まれれば、負けるわけにはいかない。

 リダイアのその一言は、ソロの負けず嫌いという一面に火をつけた。


「よし、じゃあ来い!」


 ソロがカードを、さぁ、どうぞ、と差し出す光景を、アルス達は遠目で見つめ、


「台詞と場面が一致してないよな……」



 その後、誰も予想しなかった長期に渡る攻防が繰り広げられ、勝負が着く頃には、ソロとリダイア以外寝息を立て眠っていた。

 勝負の結果は、まさかの主人公の敗北に終わり、リダイアが飛び跳ねて歓喜したことは、ソロ曰く、先生には内緒とのことである。

 

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