狂瀾13
ガイルがウィル目がけて勢いよく宙を駆けると、それを合図にガイルの率いていた竜兵達も声を上げ、地上の魔物達に加勢する。
ウィルは素早く杖を構え、呪文を唱えた。
一瞬視界が真っ白になる程の眩い光と共に音を立て、杖から轟雷が走る。枝分かれした多数の雷に、黒こげになった竜兵達が力無くポロポロと炭のように落ちる。
多くの竜兵が突如として消える中、ガイルは尚勢いを緩めることなく、剣を構えた。
ウィルも怯むことなく、既に次の詠唱を終えていた。
杖の先端の宝石が、強く紫に光ると、巨大な光の柱がガイル目がけて宙に伸びる。
その光と熱気は、ウィルとは少し離れて猛威を振るっていたダイガにも届いた。
ガイルが光線の当たる寸前、剣を縦に構え振り一刀両断すると、ウィルは「なっ」と思わず声を上げた。
この光線はただの光で紡がれたものではない。闇をかき消し、邪悪を砕く、聖唱術(:古来より伝えられてきた究極の退魔術のひとつ)を込めている。
これまでにも、魔王に仕える者と称された、魔界でも名の上がるであろう魔物を何体か葬ってきたが、この術を無傷で砕いたものはいなかった。
左右に分かれた光線が後方を飛んでいた竜の騎士達を溶かし、天の果てへと消えると、ウィルはようやく呆気から我に返り、次の術を唱え始める――
しかし、もう既に目の前には黒馬の騎士の紅い瞳がギロリとその小柄な少年の首を捉えていた。
しまっ――!
ギィーン。
金属同士が強くぶつかりあった音。肌にまでその振動が伝わると、ウィルは、閉じた瞳をゆっくりと開いた。
「ヒマリ!!」
黒馬の騎士の振り下ろした剣を、剣を両手で横に支え抑えている少女の名前を叫ぶと、ヒマリは腰をついている後ろの少年に言った。
「怪我はありませんか、ウィル」
小刻みに震える2つの剣。
驚くほどの瞬発力を見せ、攻撃を防いだ少女にガイルの紅い瞳は一瞬見開くも、すぐに戻り、
「フン、人間の小娘に庇われる程とは。紫電の勇者も墜ちたものだな」
ガイルの台詞に言葉を返すように、ヒマリは少し笑みを浮かべ、
「勇者といえど、この子はまだまだ子ども。けど、すっごい力を持っているんですよ。この先どうなるのか心配になるくらいに」
ガイルの後ろで、ギャア、ギャアと竜の声が多数聞こえると、先程からのウィルの攻撃で怯んでいた竜兵達が息を吹き返し、今にも地上に攻撃を仕掛けてきそうな様子だった。
「ウィル!」
ヒマリの声に、ウィルはヒマリに視線を戻すと、ヒマリは、
「この者は私が引き止めます! それに、ここであんな多勢を抑える事ができるのは、貴方の魔法だけです!」
ヒマリが言うと、ウィルは頷き立ち上がると、「ありがとう、ヒマリ」と、すぐにその場を離れた。
ヒマリはウィルの駆けて行く様子を見ると、すぐに厳しい視線を目の前の騎士に向けた。
「その白装束の姿。賢知陣の娘だな。貴様如きでは、数分も相手にならぬ」
「これでも剣術には少々自身があるんですよ。貴方の実力がどれほど強力なものか分かりませんが、その穢れきった剣、決してあの子には届かせません!」




