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狂瀾10

「ええい! 煩わしい結界め!」


 竜人の騎士達は、翼をバサバサとはばたかせ、鉄をも溶かす火炎や自慢の剣で、結界を何とか破ろうとしていた。

 しかし、結界は破れるどころか全くといって良いほど損傷(ダメージ)がない。透明なその壁の奥からは、人間の魔法使い達が涼しい顔をしながら、誇ったようにこちらを見つめている。


「ぐぎゃっ!」「あぎゃっ!」


 結界の中から次々と魔法の火球が弾丸の如く飛んでくると、竜兵達はクルクルと地へ降下していく。


(おのれ)、愚者共め……ぎょえっ!」


 成す術もなく悔しそうに目を血走らせ、結界の向こう側にいる竜兵達が、鋭い牙を噛みしめている様子を魔法使い達は嘲笑うように眺めていた。


「魔術会の中でも名立たる俺達の張った結界だ。竜如きに破られるものか!」

「私達をなめないでよね!」


 結界から少し離れた場所。

 その結界の前で、まるで壁に体当たりをしては落ちていく羽虫のような情けない竜兵達の姿を見ると、その魔物は黒い毛皮に覆われた片手で顔を覆った。


「何と憐れな姿よ。大声を叩いていたかと思えば、この(ざま)だ。

 人間達とて、少なからず成長はしている。

 全く竜というものは。かつての栄光に(すが)り、侮るからこのような事になるのだ」


 オルゴンゾラは、巨大なナタの武器をすぐ傍にいた部下の熊の戦士に預けると、ズン、ズンと地面を踏みしめながら前に進んだ。




「おい……、なんだ、あれは?」


 結界の中で、一人の魔法使いが()()に気が付き声を上げると、ミーニャとシエナもその方向を見た。

 魔法で撃ち落とされた竜兵達が転がる中、黒い影の集団が2つの目を赤く光らせながら、煙の中を蠢いていた。

 その姿が鮮明になると、そこには熊や獅子、狼といった顔を持つ、ならず者のような人型の魔物達が視界に現われた。

 その真中、一回り大きい漆黒の毛で覆われた熊の戦士。

 その目が合うと、ミーニャは思わず肩を竦めた。


「あれは確か――」


 声は震えていた。

 そう。以前この地でアルスと戦った魔界の戦士。

 

 オルゴンゾラは、フン、と全身に力を込めると、その溢れんばかりの魔力は結界を突き抜け、ミーニャに鳥肌を立たせた。

 以前(まえ)に感じたものとは全く異なる力。

 闇夜のような毛が、針山のように一気に逆立つと、その膨らみ上がった胸から、限界までに膨らんだ風船玉がはち切れたように、凄まじい雄叫びが響き渡る。

 あまりの威勢に、魔法使い達の肩は一斉に竦め上がり、中には腰を抜かす者もいた。

 すると、その熊の戦士は突進するように前かがみの姿勢になると、黒い身体はそれを覆っていた鎧を砕き、見る見る内に膨れ上がる。

 腕や胸の厚手の筋肉の形が鮮明になり、その体が完成する頃には、魔法使い達はその巨体の落とした影の中、口を間抜けに開きながらそれを見上げていた。

 山のような巨大な熊の化物が、結界の目の前に立ちはだかると、目元に走った白い毛の上から、ギロリと冷たく鋭い瞳がミーニャ達を見下ろしていた。

 その姿は隣の山で魔物達と交戦していたウィル達の目にも映った。

 巨大な黒い熊の化物。

 

「あれは……まさか!」


 ヒマリが何かを思い出したように叫ぶと、ウィルも額から一滴の汗を溢しながら頷いた。


「"破壊の獣"。2000年、いや4000年以上も前から存在を伝えられてきた伝説の魔物。

 山を砕き、大地を裂き、いくつもの国を滅ぼした獣――」


 巨大化したオルゴンゾラは、また一つ雄叫びを上げると、その筋肉で覆われた黒い腕を後ろに思い切りに引いた。

 その構えが攻撃の構えだと気づくも、魔法使い達は魂を抜かれたように、ただそれを呆然と見つめていた。

 そして、巨大な腕が勢いよく結界にぶち当たると、結界の壁はガラスのようにパラパラと砕け散り、その破片の雨が、キラキラと降り注いだ。



 

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