表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
171/303

狂瀾6

「ハァッ!!」


 両手にした剣より繰り出される、しなやかで俊敏なフォレシアの連撃。レオーネも、それを斧で防ぎ避けながら、フォレシアの攻撃後に生じる僅かな隙を見逃さず、そこに豪快な攻撃を繰り出す。

 空気を斬り裂くように描かれる金色(こんじき)の幅の広い弧をフォレシアは、2,3度と身をかわし、最後の一撃を両手の剣を×(バツ)の字にし防いだ。


「くっ……!」


 衝撃の波が武器を交わした2人から円状に走ると、力のかかったフォレシアの足元に多数の亀裂が駆けた。

 相変わらずの馬鹿力だ。

 勇者の力を少しでも惜しんでいれば、今頃はこの身はその力で肉片となっていたことだろう。

 カタカタと震えるフォレシアの剣に、レオーネはニヤリとし、


「流石だな、緑の。

 勇者といえど、所詮は女。そう以前は侮っていた。

 だが、今日はもう容赦はしないぜ!」


 フンッ! とレオーネは、片腕に力を込めると、その力はそのまま斧にまで伝わり、そして、


 ズンッ――!!


 隕石の落ちたような衝撃と轟音が、粉塵と共に大地を物凄い勢いで駆ける。

 雪のはがれた土から舞い上がった煙の中、斧の先は見えない。

 もしこの戦いを周囲から見ていた者がいれば、この時レオーネの勝利を確信したことであろう。


 今にも真っ二つになったエルフの凄惨な姿が見えて来る、と。

 

 しかし、レオーネは表情を(けわ)しくしていた。

 斧に伝わる、何かを砕いた感覚。

 だがこの感覚は、人のものでもなければ、剣を砕いたものでもない。


 その瞬間、真横から土煙が一気に晴れ、その中から殺気立った声と共にエルフの少女が飛び出すと、レオーネは、「甘いッ!!」と斧をブンと一振るい。

 ギンッ、と金属同士の力強く擦れる音が響くと、少女はレオーネから後退するように宙を回転し、綺麗に着地した。

 

 そして、2人の瞳がカッと見開くと、戦慄の雄叫びが上がり、再び無数の刃の弧が描かれる。

 フォレシアも僅かながらレオーネを侮っていた。

 これほどの巨体であれば、動きは鈍く、接近戦であらば、隙は普通の体躯の者よりも遥かに生まれやすい。

 しかし、その予測は見事に外れた。

 分厚い鎧を皮膚下に埋めているような体から想像ができない程の身のこなし。エルフ達の中でも、森の狩人と謳われる程の戦闘力を誇る、イルフェール・アルフと対等に渡り合える身軽さに、フォレシアは若干押されていた。

 まるで斧を長剣のように振り熟す、その攻撃に、エルフの少女の瞳は隙を捉える事ができずにいた。

 レオーネの攻撃を再び剣をクロスさせ、防ぐと、フォレシアはそれを軸に、宙を大きく回り、レオーネの背後に着地する。


「ハァッ!」


 レオーネの首を狙った一撃を、レオーネは空いていた片腕で防いだ。

 フォレシアの剣からは、オリハルコン(:地上で最も硬いとされる幻の鉱物)でも斬ったかのような感覚が走った。

 レオーネの腕からは血の一滴すら垂れていない。


「……化物め」


 フォレシアが言うと、


「化物とは失礼な野郎だな。人間様から言わせてもらえば、お前のほうが化物だ・ぜ!」


 フォレシアの剣を、腕ごと振り払うと、フォレシアは身を投げ出され、地面に何度か叩きつけられる。

 倒れたフォレシア目がけて、レオーネが一気に地を蹴り、斧を振り下ろすと、フォレシアはその分厚い刃を一瞬の差で転がり避けた。

 そして咄嗟に掴んだ細かな土を、レオーネの顔に目がけて投げつけた。


「ぐあっ?!」


 レオーネは両目に走った痛みに、空いた片腕で反射的に顔を抑えた。

 まさか、この局面でこのような攻撃を仕掛けてくるなど予想もしなかったのだろう。

 フォレシアはこの隙を逃さなかった。

 両手の剣をギュッと握り、そしてレオーネの巨体目がけて、地を蹴り飛ばした。


 行ける。


 曲を描いた剣を、その分厚い首にかけようとした――


「なっ」


 フォレシアは目を見開いた。

 レオーネの顔を覆う手。全ての指にはめられた、煌びやかな指輪のうち、中指にある(すい)の宝石のついた物。

 この時、それがフォレシアの瞳に映らなければ、フォレシアはレオーネを仕留める事がかなったであろう。あるいは、それがただの指輪であれば。

 

 電光のように、幼き日の一つの光景が断片として無意識に浮かび上がる。

 エルフの母親が、その娘に、自身のつけている物と同じ指輪を渡す、その光景が。


「それは――」


 紛れもない母の物。

 翠の宝石に浮かび上がっているエルフ文字の1語が、それを示していた。

 その動揺でフォレシアの攻撃は遅れてしまった。


 気が付いた時には、顔を覆った指の間からギロリとした眼がこちらを捉えており、そして、


 ザンッ。


 金色の弧が1つ大きく描かれると、ガバッと血の飛沫が上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ