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紅に染まる6

 自身のどの言葉に彼女が心を揺らがせたのか、シエルが突然のリダイアの動揺に戸惑うと、リダイアは詳しく言い換え、同じ問いをした。


「貴様、今"私には賢知陣がいない"と言ったな? それはどういう意味だ?」


 リダイアが訊くと、シエルはようやく腑に落ちたような顔を浮かべ答えた。


「言葉通りの意味です。知らないことは無理もありません。恐らく、賢知陣が何たるものかについても、分からぬままだったのでしょう」


「バカな事を言うな。私には、賢知陣であり、私を幼き時にこの命を御救いになられた、父たるに等しい我等がイルヴェンタールの王、クロスネピア陛下がいる。

 賢知陣が私にいないだと? 愚弄するにも大概にしろ」


 少し荒れた少女の声に、今度はシエルが目を丸くした。

 何事か理解できないような、そんな表情を浮かべたまま、その硬直した顔が再び和らぐと、シエルは落ち着かせた声でリダイアに言った。


「な、何をバカな事を! そんなはずがありません!

 貴方が賢知陣の役目を果たすはずであった方は、貴方に出会う事もなく、旅の途中で失踪されたのです。

 他の賢知陣が亡くなられた賢知陣の代わりを務めることもあります。ですがそれは、悪魔で賢知陣の中から選抜されることです。聖戦に関係の無い者、西の大国の王が賢知陣に選ばれるはずはないのです」


 シエルの言葉に、リダイアが言い返そうとするも、それよりも前に居てもたってもいられなくなったように、会話に口を挟まずしていた大賢者の老人が言葉を挟んだ。


「シエル様の仰る通りです。私はこの聖戦において最初に神託を受け、勇者が力を継ぐ者へ遣わせて以来、全ての賢知陣を見送っております。我々賢知陣の役目は、この世界の導き手となる子らを支え、正しい道へと導くこと。

 緋炎の勇者リダイア様、我ら賢知陣の中には、クロスネピアなる者はございません。ましてや、緋炎の勇者を加護なされる神も、聖戦に無知なる者を勇者の導き手には選ぶことなど、あり得ませぬ」



「ふざけるなッ!!!!!」


 落雷のような声が、広間を一蹴すると、聞こえてくる声は壁を反響するその言葉だけになった。

 空気を振動する声が小さくなり、消えると、少女の荒くなった息の音が代わりに残った。

 

「リダイア……」


 シエルが声をかけるも、紅い髪をした少女はその言葉を振り離すように、腕を一振りした。


「………………。」


 無言になったリダイアが次の言葉を紡ぐのを、シエルと大賢者が見守るようにただ見つめていると、リダイアはゆっくりと顔を上げた。


「……教えろ」


 「え」とシエルが音にならない空気のような声を出すと、リダイアはもう一度、


「私に教えろ……、お前の知っている全てを」


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