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闇の苦杯2

 クレヴァが一通りの報告を終えると、臣下団から騒めきの声が上がった。


「では、奴らは聖霊の宝珠を使い、我等の進軍を前に扉を封じようというのか!!」


 漆黒の毛をした巨熊の戦士オルゴンゾラが獣の如き怒声を上げると、それに続き、臣下団達は、同じように、


塵界(じんかい)に住まう者たちのくせに、どこまで(おご)り高ぶるか!」


「強欲な者共め、神話の時代より何一つ変わっておらぬ」


 臣下団が次々と声を垂れる中、クレヴァは冷静に報告に付け加えた。


「聞けば、赤の大地へ遣わせたカルネージも、勇者の前に敗れたとの報が入っております。セア様、こうとなれば一刻の猶予もございません。光導の勇者達が事を成す前に、どうかご決断を」


 クレヴァが深々と頭を下げ言うと、セアはグラスを飲み干し、不敵に微笑んだ。


「クレヴァ。あなたは私の持つ力じゃ不満なのかしら?」


「い、いえ、滅相も!」


 慌てた様にクレヴァが首と手を横に振ると、セアは足を組み換え、


「シエル達のやろうとしている行動くらい、貴方達にいちいち言われなくても、とうに神託を受けているわ。

 安心しなさい。聖霊の宝珠で門を封印されたとしても、すぐに破壊する。それと、もう向こうの世界の偵察もしなくていいわ」


 セアの言葉に、一団が驚いたように目を丸くすると、黒馬の騎士ガイルは聞き返すように、「セア様……!?」


「今更、人間たちが何しようと、微々たるものよ。厄介なのは、前回の聖戦同様、勇者たちだけ。

 それに、神域の世に一度身を同化させたシエルは、以前私達があの世界に赴いた時に、予定よりもかなり早くに受肉するせざるを得なかった。急速な受肉化で、かなりの体力を消耗しているはずよ。

 彼女も私の力を知らないわけじゃない。聖霊の宝珠で門を封じたとしても、私に破られる事くらい容易に予測ができるでしょう。

 大方、聖霊の宝珠で門を封じて、力の回復の時間稼ぎをするつもりよ。フン、けどその封印が壊れるのに数時間ともたないんだけどね」


 セアはゲスな笑みを浮かべ、一粒葡萄をつまむと、ぱくりと口に頬張った。


「進軍は宣告通りの(とき)に開始する。早める気も遅める気もない。

 皆、決戦の準備を整えなさい。

 この戦いで、私達はあの世界を()()()、私達をこの世界に幽閉した光の勇者の末裔の首を、魔界樹の頂に捧げる。そして、失われた我等が種族の輝かしい歴史を取り戻すの!!」


 セアが高らかに意気揚々と声を響かせると、玉座の間からは歓声が上がった。

 


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