仲間とソロ1
「ソロ……ソロ?」
自分を呼ぶ声に呼応するように意識が戻り、視界が闇からぼんやりと開けると、そこには青髪の見慣れた男の顔があった。
男は、自分より少し淡い同じ髪色の少女が、目を開けると、クスッと微笑んだ。
「やっと起きたか」
いつの間にか眠ってしまっていたのだろう。
少女はハッとすると、キョロキョロと周りを見渡した。
「ボク、いつの間に寝ちゃってたんだろう。ゴメン……」
少女がシュンとして言うと、水色と白を基調にした法衣に身を包んだ神官風の女性が言った。
「ソロさん、今日もよく働きましたもんね」
僧侶のシエナが穏やかな表情で言うと、炎のように紅い髪をした戦士のダイガも苦笑した。
「全くだ。恐れ知らずの戦いぶりだったぜ。この会議の後、今日はしっかり休んで置けよ。頼りにしてるんだからな」
うんうん、と知的な顔立ちの少女、賢者ミーニャも頷く。
「よし、じゃあソロも起きた事だし、もう1回おさらいを兼ねて作戦を話すぞ」
青髪の男、勇者アルスは、手を叩くと、指摘棒を持ち、黒板の図を指して、円形のテーブルを囲む仲間たちに作戦内容を話した。
アルス達と出会ってから1年が経つ。
アルス達と出会ったのは、ある王国で巨竜の討伐依頼を受けた時だった。
まだ名の広まっていなかった、小柄な少女一人に依頼を頼むのは不安だったのだろう。
その王は、ちょうど国を訪れていた勇者達にも、同じ頼みごとをしていたのだった。
アルス達は、少女が危険な目に遭っていないかと心配し、その日のうちに巨竜の巣のある峡谷に向かった。
峡谷の巣に辿りつくと、巨大な緑色の竜が、ギラギラと瞳を輝かせアルス達に襲い掛かった。
そこに少女の姿はなく、最悪の事態を思ったアルス達は武器を取り、巨竜と戦った。
しかし、巨竜の強さは圧倒的だった。
半日に及び戦闘は続いた。
アルス達のマジックポーションや超回復薬草ももうじき底が尽きる。
残り魔力の状況もヤバい。
最悪な事に、竜は体力が尽きるどころか、勇者の剣をどれほどくらっても、ピンピンとしていた。
「アルスさん、一旦退きましょう!」
ミーニャが声をかけ、悔しそうにアルスが撤退の合図をかけようとした時だった。
アルス達の背後から何かが飛び出たと思うと、それは竜の懐に飛び込んだ。
銀色の弧が描かれると、竜は悲鳴を上げる。
早すぎて、次々と描かれる複数の弧しか見えないが、小さな人影が見えると、アルス達は目を丸くした。
自分たちより幼い、一人の少女が、鮮やかに銀色の剣を振るっていた。
それだけではない。自分たちが歯も立たなかった巨竜を、少女一人は、圧倒していた。
巨竜は悲鳴をあげ、ブレスを吐くも、的が定まらず、乱れ発射状態だった。
少女は高く舞い上がると、とどめだ、というように、竜の喉元に剣を突き刺した。
竜は、大きな咆哮をすると、不自然に硬直し、崩れ落ちる様に地響きを上げ、地に倒れた。
「大丈夫でしたか?」
少女が、口をポカンと開け、唖然と見つめるアルス達に声をかけると、アルスは驚愕の表情のまま少女を指差し訊いた。
「き、君は……?」
アルスが訊くと、少女は無邪気に微笑み答えた。
「ボクは、ソロ」
アルス達はその少女と王国へ戻ると、王は安堵したように言った。
「いやぁ、安心しました。あの巨竜は数年前、突如としてあの谷に巣くい、この王国を脅かしてきました。どんな強者でも返り討ちにあってしまい、途方に暮れていたのです。あの巨竜を倒してしまうとは、流石は勇者様です」
王がそう言うと、アルス達は顔を合わせ、王に向き直った。
「いいえ、あの巨竜は俺達じゃなく、この子が討伐したのです」
アルスがそう言うと、王は目を丸くした。
巨大な戦斧を背負い、腕組をしてるダイガも、うんうんと頷く。
「俺達が助けるどころか、俺達が逆に助けられちまったぜ。ガッハッハッハ」
豪快に笑い声を上げるダイガに続き、シエナも頷き、ミーニャが言う。
「あの巨竜からは只者ではない禍々しき邪気を感じました。恐らく、魔界から飛来したものだと思われます。もしあのまま戦い続けていれば、私達も危なかったところでしょう。冒険者の方、私達を助けて頂き本当にありがとうございます」
ミーニャがソロに向かい頭を下げると、アルス達も頭を下げた。
「い、いや。ボク、そんなに大したことは……」
長く伸びた髭を弄んでいた王も、最初は信じがたいものであったが、アルス達の話から、それが本当であることを確信し、表情を和らげ頷いた。
「どうやら本当らしいですな。旅のお方、巨竜を見事打ち倒し、この国に再び平和を授けて下さったことに、国民を代表してこの場で礼を言おう」
王がそう言うと、ソロは丁寧にお辞儀をした。
「ありがとうございます」
ソロが、大臣から手渡された報酬を受け取ると、王とソロの手の甲にあった刻印が溶けるようにスーッと消えて行った。
ソロは、もう一度王に頭を下げ、玉座の間を出て行こうとした時だった。
「待ってくれ!」
後ろから聞こえて来た声に振り返ると、青髪の勇者がにこやかに微笑み、そしてソロに言った。
「君、良かったら俺達と一緒に来ないか?」




