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ソロと時の渓流10

 ノウ帝国――。

 それは、2000年も昔、ありとあらゆる知を愛し、栄華を極め、大災厄の時代(インフェルヌス)の中に滅んでいった国の名だった。

 以前、先生とこの場所を訪れた時、確かここにあった遺跡は、そのノウ帝国の遺跡であったはず。

 だとしたら――


「過去に戻っちゃったってこと……?」


 ソロは立ち上がると、 せかせかと足を走らせた。


 兎に角、早くアルスを見つけないと!


 黄金でできた建物の並ぶ道をあちこちと歩き、道行く人に、アルスらしき人を見てないか訊ねてみるも、誰も彼もが首を横に振った。

 再び階段を上り、大寺院のような建物に繋がる道まで戻って来ると、ソロは息を切らしていた。

 膝に手を当て、ポタポタと落ちる汗を見ると、ソロはハッとした。

 "結晶の町"では、息を切らすどころか、汗をかくことすらなかった。額と頬に手を当てて見ると、その小さな掌は、確かに生温かい水分を帯び、陽の光を反射して輝いていた。

 それは、今自身のいる世界が、"結晶の町"とは異なる世界であることを意味していた。


 あり得ない話ではない。


 時間を紡いで作られた、あの空間から、時の神殿へ向かう道の途中、時の濁流に流され、別の時間軸へ飛ばされることは、ソロにも容易く考えられた。


 乱れる呼吸に、上昇した体温で沸騰したように熱くなった頭で、思考はそこで止まった。

 ぼんやりとした意識の中、ふと顔を上げると、ソロは目を大きく見開いた。


 行き交う人の中、その髪の色はよく目立った。

 その色にソロは反射的に「アルス」と名前を叫びそうになった。

 しかし、その声は「ア」から次の音は空気に溶けるように薄れ、最後の音は喉に詰まるように止まった。

 その髪の下の精悍な顔は、ソロの探している人物の顔ではなかったが、ソロを驚愕させるには十分な衝撃だった。

 青という色ばかりに気を取られてしまっていたが、その髪の色はアルスのものよりも薄く、月光の白みを帯びたような青であった。


「リュカさん!」


 ソロがその男の名前を呼ぶも、リュカと呼ばれた男はソロの声に気付くことなく、大寺院の建物の方へと向かって行った。

 ソロは急いで、リュカの後を追うと、リュカに続き、そのまま大寺院の建物の中へと消えて行った。

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