ソロと時の渓流5
…… ……
…… ……
……ん
ボーっとした頭に意識が戻ると、ソロはハッとして体を起こした。
その隣でも、ちょうどアルスが頭を片手で抑え、気が付き、顔を上げた。
「アルス、大丈夫?」
「ああ、平気だ。ソロは?」
「ボクも平気」
「そっか」とアルスは、良かったと微笑んで見せると、辺りをゆっくりと見渡した。
「ここは……。着いたのか? 俺達」
ソロも辺りを見渡すと、コクリと頷いた。
先生と来た時の変わりの無い、凍てつく世界の中で時間を止めたような町が一面に広がっていた。
淡く青と白に柔らかに光る町の中、空には夜のような闇が広がり、そこから蛍のような雪が地に向かって舞い降りていた。
「あっ、おいソロ!」
いきなり何かを探すように駆けだしたソロの後を追い、アルスは走って行くと、丘の下にどこまでも広がる同じ景色の町に息を呑んだ。
その中で1番最初に目についたのは、一筋高く天に伸びる時計塔だった。
「あの時計塔がこの世界の目印なんだ。ボク達がいる場所は、ちょうど時計版のある面の丘だから、どんなに町を歩き回っても、還る時の入口に戻って来れる」
ソロが自分の奥にある何かを見ていることに気が付くと、アルスは振り返り、ソロの視線を辿った。
町並みの通りの中心に浮かぶ、空間を歪ませ渦巻いている魔法の扉。
ミーニャ達のいる世界とこっちの世界を繋ぐ帰り道だとアルスは理解すると、
「ここに来たは良いが、問題は"時の渓流に在りし神殿"、だな。前に来た時はそれらしいものはあったのか?」
「ボクもその時は神殿なんて意識してなかったから、ごめん……」
ソロがしょんぼりと頭を垂れると、アルスはその小さな頭をわしわしとした。
「わああ?!」とソロが声をあげると、
「なあに、こんだけ手の込んだ場所にある世界さ。きっと何かしらの手がかりはあるはずだ。
取り敢えず、町の中を探索してみようぜ」
アルスが言うと、ソロも、うん、と頷き、2人は町の中を歩き始めた。
町を歩く中、ソロ達が歩く町の区画は、以前来た時とは別の場所であることに気が付いた。
酒場や宿、そういった施設は至る所に見られたが、外装も内装も前に見た事のないものばかりであった。
この世界の建物は1つ1つ似ているようで、全くとして同じものはない。
誰も住まう者の姿はないが、人がつい昨日まで生活していたように、何もかもが整った町だった。
そして、町を探索する中、ソロはこの町では疲労は一切なく、怪我をする心配もないことを思い出した。
しかし、時間が止まった世界といえど、この世界のものではない水晶の示す時間は、刻一刻とその時間を刻んでいた。
水晶に満ちていた水は、少しばかり消失していた。
「まだ時間はあるらしいが……」
アルスはそう言うと、大きく鼻から息を深くつき、
「この町、バカらしい程にただっ広いな」
町を歩いてからその4分の1は回っただろうか。
時計塔の1面が見える分はこれで周り終えたものの、神殿らしきものは、屋根の上によじ登ってみても見当たらなかった。
その成果にいよいよアルスから文句の一つが零れそうな気配がよぎったが、アルスは、
「なあ、あの家中々、洒落てるよな。将来住むんだったら絶対ああいう家が良いな」
アルスは無邪気に振る舞ったが、ソロにはそれが、ソロが気を落とさないように気を遣っているようにも思えた。
このままでは、この広い町を全て見て周る頃には、水晶の水も底を尽きてしまうだろう。
ソロが思考を電気のように巡らせ、険しい顔で考えていた時だった。
「あ」
ある閃きに、ソロから間抜けな声が洩れる。
あの時――。先生とこの世界に来た時、ボクは絶対に出会うことない人物とここで出会った。
遥か遠い過去とその未来。別々の時間に生きる者同士が、この町で出会えることができたのは、ボクの考えが正しければ、全ての時間が、この世界と同じ時間を共有している為だろう。
だとすれば、どんな時間からこの世界に来ようが、この世界という1点の時間に訪れる、ということになる。
「アルス、来て!!」
ソロがアルスの手を強引に引き、駆けだすと、
「お、おい!? ソロ!?」
と、アルスは訳の分からないという顔で叫んだ。
きっといるはずだ。
あの場所に、あの人が――!
ソロはアルスの手を引っ張り、建物の山の奥に立つ、高い時計塔に向かって一直線に向かって行った。




