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ソロと時の渓流4

 ケルラ文字で記されたその本を読み終えた時には、窓辺から白い光の柱が差し込んでいた。

 時空における閉鎖集中的凍結点。時間と空間の流れを1つに紡ぎあげ、完成したその時空を凍結させることで築かれた異空間を指すその内容は、ソロが先生と見たあの世界に似たものであった。

 この本を著した人物も、その空間がなぜ作られたのか、誰が築いたのかは分からなかったようだった。世界の終末を回避するために築かれた、あるいは時空を操ろうとした高位魔術師の試作品といった話を伝聞したこと以外、その本に記述はなかった。

 だが、その空間の時間は停止していることやそこに辿り着いた人達が「町の様なものを見た」ということから、ソロは時空における閉鎖集中的凍結点が"結晶の町"であることを確信した。


「で、問題ってのは?」


 朝、机を囲む中、ソロとミーニャから話を聞いていたアルスが訊くと、ミーニャはアルスに説明した。


「1つは、閉鎖集中的凍結点、ソロさんの(おっしゃ)っていた"結晶の町"へ行く為には、強靭な肉体と精神が必要なことです。

 別世界を移動するには、時空を越える程に強い身体と心が必要なのです」


 ミーニャに続くように、ソロがアルスに話す。


「2つ目は、今ここにいるメンバーで向こうに行くことができるのは、多分勇者の力を持つボクとアルスだけ。こっちから向こうへの扉はミーニャが開くことができるんだけど、向こうからこっちへの扉はボクとアルスじゃ開くことはできないんだ。だから、ミーニャの魔力が尽きて扉が閉まる前に、ボク達はこっちに戻って来ないといけない」


「なるほどな……」


 アルスが腕を組み、声を漏らすと、ミーニャはアルスに掌程の透明な水晶を差し出した。

 その中は小粒の泡が浮かんでおり、聖水のように透き通った水で満たされていた。


「あの本で扉を開く為に使用する魔力量では、私の魔力で扉を保つことができるのは、せいぜい半日。

 この水晶の中の水が完全になくなる前に、何としても戻って来て下さい」


 アルスはそれを受け取ると「おう」と威勢の良い返事を返した。



 "結晶の町"への扉を開くことができる時間帯――陽が西の果てに消え、月が空を支配する夜になると、ソロ達は小屋の前にある湖の前に立った。

 空気は、先生とあの世界に赴いた時のように、一切の澱みなく澄み渡り、冷たい夜風が静かにソロ達の頬を撫ぜた。

 

「ではお二人とも、準備は良いですか?」


 神妙な面持ちでミーニャが訊くと、アルスとソロは互いに顔を合わせ、ミーニャに向き直り、強く頷いた。

 ミーニャから銀色に光る短刀を渡されると、ソロとアルスはそれぞれ湖に歩み寄り、それぞれの腕から1滴の血を湖に捧げた。

 アルスとソロが退くと、ミーニャは深く息を吸い込み、静かに詠唱を始めた。

 すると、あの時のように、魔法文字(マジック・スペル)が浮かびあがり、結合し、そして離れ、詠唱の言葉が紡がれていく。

 2重の魔法陣の入口が現われると、ダイガ達は息を呑んだ。


「こいつが、"結晶の町"とかいう所に繋がる入口か……!?」


 ミーニャはゆっくりと口を閉じ詠唱を終えると、アルスとソロに踵を返した。


「時間は半日。それまでにどんなことがあっても必ずこちらに戻って来て下さい。良いですね」


 ミーニャに念を押されると、アルスとソロは大きく首を縦に振り、


「ああ、分かったよ」

「じゃあ、行ってきます」


 と、2人は"結晶の町"へ繋がる扉の中へ勢いよく飛び込んで行った。

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