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戦場のソロ2

 部屋は今まで訪れたどの宿やホテルよりも豪華だった。

 机や椅子の足は金でできており、天上からはダイヤモンドを重ねたようなシャンデリアが吊るされている。

 食事が部屋に用意されると、どれも見たことのない様な食材で作られた料理が目の前に広がった。

 味は(すこぶ)る美味しい。

 もうこんな料理を御目にかかることはないだろう。そう思えるほどだった。

 しかし、王のやり方にイライラしたソロの腹の虫は、料理をやけ食いするだけはおさまらなかった。

 大好きなシャワーで気持ちごと洗い流してしまおうと、部屋にあったバスルームで服を脱ぐと、滝のような勢いでシャワーを頭からかけた。

 体はさっぱりしたものの、気持ちのイガイガしたものは取れない。

 仕方ないから部屋の明かりを消し、お姫様の眠るの様なベッドに飛び込んだ。

 

「ふがっ!」


 ベッドにダイブすると、ふかふかの毛布の下に寝具とは別の柔らかいような感触がした。

 そこから聞こえて来た声にソロが驚き退くと、毛布の中から憤慨した顔の幼女がバッと現われる。


「このばっかもーん!! 眠っているワシの上に飛び込むとは何事じゃあ!」


 あどけない声で幼女が顔を真っ赤に怒ると、ソロは呆れたように息をつき、返す。


「食事の後から姿が見えないと思ったら、そんなところにいたんですね」


 幼女は顔を膨らませプイッと横を向いた。



 まるで森の中にいる時のような静けさだった。

 窓からは月光が蒼い世界を照らしている。

 中々寝付くことができず、床に持っている愛用の武器を並べ、手入れをしていると、ベッドからもぞもぞと幼女は顔をのぞかせた。


「……本当に行くのか」


 幼女が訊ねると、ソロは頷き、当たり前のように答える。


「契約ですからね。気は進みませんが、この国に一生縛られ続けるのはもっと嫌です」


 いつも使う銀色の剣に、自動拳銃が2丁。2本の短剣(ダガー)には魔物から採取した即死級の猛毒を塗ってある。

 一つ一つを指差し、「よし」と確認し終えるソロに、幼女は言った。


「明日は久々にとっても嫌な日になりそうじゃ」


 それはとても嫌そうな言い方だった。

 同じ事をソロも思っていたせいか、その言葉は心を揺さぶった。


「……ボクも嫌です、人を殺すのは。願わくば、この刻印を今はずせるなら、一刻も早く消して、この国を出て行きたいくらいです」


 ソロはそう言うと、少し悲しそうな笑みを浮かべて、幼女に言った。


「先生は、明日ここにいて下さい。万が一があるといけないので」


 先生と呼ばれた幼女は、鼻を突きあげ答える。


「フン、バカたれが。ワシより若いのを一人危険に曝すわけにはいくまい。いつも通り、お前の心臓の懐で大人しくしておるわい」


 先生の言葉に、ソロは穏やかな笑みを浮かべると、幼女のいるベッドの中に入り、眠りについた。



 まだ朝靄が町を覆っている早い時間に、ソロは目を覚ますと、支度(したく)を始めた。

 荷物から戦闘用の黒いジャケットとサバイバルズボンを取り出すと、昨日の凶器を装備した。

 この黒い衣装(コスチューム)に身を包むたびに、ソロは自分が死神のように思えた。

 この服を着る時は、暗殺やスパイ、貴族の護衛や国の傭兵を務めるといった、対人戦が関わる依頼の時だった。


「ソロさん、お時間です」


 扉のノックの後に部屋に入って来た兵士がそう告げると、ソロは頷き、兵士と共に戦場へ向かった。

 国を出て、馬でしばらく走ると、砂煙の舞う荒野の中に城壁のような壁が見えて来る。

 あれほど晴れていた空は、まるで雨が降るかのように黒い雲が覆っていた。

 その雲が自然のものではないことは、鼻がソロに教えた。

 硝煙と血の混じった土の臭い。

 戦場独特のとても嫌な臭いだ。

 門のような扉の前で、ソロは馬を降りると、兵士が敬礼をした。

 

「間もなく隊が到着致します。その隊と共にこの門の先へ赴きください」


 ソロは頷くと、隊の到着を待った。

 隊はすぐに到着した。

 数百人に及ぶ巨大な隊列がソロの前に並ぶと、隊長であろう男がソロに挨拶をした。

 門が開き、到着した騎士団や大砲を引きずる兵が駆けて灰色の煙の中に消えて行くと、白い髭を持つ年配の隊長の男はソロに声をかけた。


「この門の向こうは生と死の狭間です。どうかお気をつけて」


 ソロは頷くと、剣を引き抜き、門をくぐっていった。


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