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フォレシアと老竜7

「其方の国を思う気持ちは、我では計り知れぬ。だが、せめてこれが其方の死への恐怖の和らげるものにならんことを」


 老竜が言うと、エィクンは表情を和らげゆっくりと首を横に振った。


「其方に出会えることができて本当に良かった。

 不死は叶わぬものであったが、それよりも遥かに価値のあるものを私は受け取ったように思える」


 その言葉に劉炎は微笑むと、エィクンは、


「私はこれより国に帰り、私にできる限りの事を民の為に尽くそうと思う。

 劉炎よ、短い間ではあったが世話になった」


 エィクンが言うと、劉炎は首を横に振り、


「いや、我も其方のような人間と話をすることができて良かった。

 この森より蓮の国に戻るには難儀であろう。我が時空の扉を開き、其方らを明朝、祖国へ送ろう」


 エィクンと衛兵たちは驚き一瞬口を開くも、酷く喜んだ。

 頭を下げ、感謝を示す蓮の国の仕草をエィクン達が振る舞うと、劉炎は、


「エィクンよ、1つ頼まれてはもらえぬだろうか」




 白い老竜とエィクンたちの景色が遠退き、再び暗い空間が広がると、フォレシアに老竜と同じ声が話を続けた。


「その時、私はエィクンに、直に来るであろう大災厄の事を告げ、国々が協力し魔界の脅威に立ち向かうことを頼んだ。

 エィクンは私の願いを快く聞き入れ、尽力した。

 全ての人間達を協力させるには程遠かったが、彼らが力を合わせ、立ち向かったからこそ、あの時この世界は魔界の手に落ちることはなかった」


 声は遠い過去から戻る様に一旦呼吸を置くと、


「フォレシアよ。私は其方がこの森を訪れることを知っていた。其方が聖霊の宝珠を求めていることも私は知っている。

 そしてなぜ、あの日其方が私の前に時を越え現われたのか、その理由も大聖霊となった今ではよく分かる。

 尊きイルフェール・アルフの少女よ。再び大災厄が訪れようとしている今、私達自然に生きるもの達と人間達はいがみ合っている場合ではない。

 だが、それはもはや其方も知っている事であろう。

 そんな其方だからこそ、聖霊の宝珠を授ける前に、どうか見てほしかったのだ。自然と人間が、共に生きていくことのできる世界の可能性を」


 すると、フォレシアの目の前に光り輝くものが現われる。

 強い深緑の光は徐々に小さくなっていくと、小さな水晶のようなものが姿を現した。

 ふと両手をすくうように広げたフォレシアの手に、それはゆっくりと降り立つ。


「フォレシア、シルフ=ハント=ハイムの力を受け継ぐ者よ。其方の武運、そして其方に幸福が訪れんことを願う。

 そして、この世界に生きるものが、自然に生きるものたちと人間たちが、共に手を取り合い、生きていける世界に導かれんことを」


 その声が消えて行くように聞こえなくなると、暗闇の景色は霧のように白に覆われ始め――




「……う」


 瞼をゆっくりと開いた視界には、白い大木の連なる氷の景色が広がった。

 体を起こすと、深い眠りから覚めた様に頭がぼんやりとする。

 夢……だったのだろうか。

 空を見上げると、空は白みを帯び始めていた。

 そして、感じた感触にふと手のもとを見ると、夢の中で見た宝珠が、フォレシアの中で優しく緑に輝いていた。

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