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戦場のソロ1

 その依頼が来たのは、王都に入って間もなくだった。

 ソロがクエストの案内所に行く前に、数人の屈強そうながたいの兵士たちが、宿のソロの部屋にずかずかと入って来た。

 ちょうど出かける支度(したく)をしていたソロに、格の高そうな兵士が文書をつき付けて傲慢な口調で言った。


「其方がソロであるな。国王陛下がご指名である。我々と共にすぐに参上されよとのお達しだ」



 兵士たちに連れられ、城壁に囲まれた町の中央にある立派な王宮まで行くと、そのまま玉座の間まで案内された。

 豪奢(ごうしゃ)な建物に相応しい内装で、どれもこれもが、絵本のお城に出てきそうなほど美しいものばかりだった。

 しかしながら、自分自身の画が悪い。

 数人の兵に囲まれながら、神妙な面持ちで歩く自分の姿を想像すると、ボソッとソロは言った。


「これじゃあ、まるで、ボクが何か悪い事した人みたいじゃないか……」


 両側に甲冑の置物のように立った兵士がいる、大きな扉が開くと、目の前には赤い絨毯が広がった。

 とても広い部屋であり、段差の上の一際(ひときわ)豪華な椅子に座している男を見ると、ソロはそこが玉座の間であることを知った。

 周りにはこの国の紋章が記された鎧を身に付けた兵士たちが並んでおり、王の傍には、大臣らしき男と騎士の鎧を身に付け腕組をしている、赤い髪の少女が立っている。

 刻まれた深い皺だが、まだ色のついた髭と髪を持ち、厳格な雰囲気を帯びている。

 兵士たちが連れて来たソロに気が付くと、鼻元の髭を弄んでいた王は、姿勢を正すと嬉しそうに声をあげた。


「その蒼い髪、小柄な体格、銀色の剣、間違いないだろう。噂は兼ねてより聞いておるぞ、()()()()()


 久々に聞いた、あまり好きではない呼び名にソロは眉をひそめるも、いつものように落ち着いた声で答えた。


「はい。ボクがソロです、陛下」


 ソロが答えると、王は話を進めた。


「其方の事について訊きたい事は星の数であるが、今は一刻の時間もない。早速本題に入るが、其方に頼みたいことがある。大臣、あれを渡せ」


 王の言葉に、そばにいた大臣は返事をすると、ソロに封蝋の入った依頼書を手渡した。


「内容はそこに記してある通りだ。開けてみよ」


 王に言われるままに封を開けると、ソロの手の甲に受注の刻印が現われる。

 色は赤い。それも血のように真っ赤なものであった。

 ソロは、王直筆の依頼内容を確認すると、目を丸くした。


"我が軍の一隊の一員となり、隣国との(いくさ)に加担せよ"


 依頼書には、力強い文字と王の朱印が記されていた。


「其方に頼むのは殺しは殺しでも魔物殺しではない。戦場に立ち、我が気高きイルヴェンタールの一兵として(ひと)働きしてもらいたい」


「陛下は、ボクに人を殺せと、そう(おっしゃ)るのですか?」


 ソロが、少し重みを帯びた口調で言うと、王は静かに頷き、話し始めた。


「今や世界の秩序は乱れている。これは何も、突如として現れた魔界の扉のせいだけではない。長い歴史の中、人々は絶えず争い、血塗られた戦を繰り返してきた。それはなぜだと思う?」


 王が訊ねると、ソロはすぐに答えた。


「戦争についてはあまり詳しくありませんが、資源を巡る対立や思想の違いでしょうか?」


 ソロが訊くように答えると、王は微笑み言った。


「如何にも。流石、世界を巡る冒険者だけあるな。そして、それらの事らは世界を一つの国で統一することによって払拭することができる。資源を国家という一つの世界が所有し、(みな)が思想を等しく同じものとすれば、無用な争いこそ避けられる」


「そこで我が王は思われたのです。この国、イルヴェンタール国こそが世界を一つにまとめ上げ、この世界を正していくべきであると」


 大臣が王の話のバトンを取ると、ソロは「なるほど」と頷いた。


「その為には、各国々をイルヴェンタール国として迎える必要がある。しかしながら、全ての国がそれを受け入れるわけではない。相反する思想を持ち、外交では解決できないものもある。そういう国には」


「力を持って制す」


 ソロが王の話の先を読む様に言うと、王は微笑み頷いた。


「その通りだ。強き者が弱き者を導く、それこそが我の想いであり、この国家の根幹たる思想であり、世界普遍の理だ。この国はやがてその版図を世界の果てまで広げる事になるだろう。その手助けを其方にしてもらいたい」


「…………」


「隣国を制圧すれば、我が国の版図は広がり、理想にまた一歩近づくことができる。其方も世界平和に貢献した者として名誉を得る事ができる。どうだ、我に手を貸してくれぬか?」


「残念ですが、お断りさせて頂きます」


 返事は、王の言葉の直後に重なるようにすぐに出た。

 迷いなく返事する少女に、間にいた兵士たちと大臣は息を呑んだ。


「強き者が弱き者を導く。素晴らしいお考えだと思います。しかし、その理想を実現する為に、ボクには関係ない人を殺める戦争に加勢することはできません。ボクは自分の身に危険が迫っている時や誰かを護る時のような、必要な時以外には、人を殺めることはしないようにしているんです。身勝手な理由ですが、どうか御許しください」


 ソロがそう言うと、赤髪の騎士の少女が怒りを滲ませた声を上げた。


「貴様! 正義たる我らが王の願いも受け入れぬつもりか!」


 少女が剣を抜こうとするのを、王は(いさ)めると、ソロに向き直り静かに言った。


「必要なこと以外には、か……」


 王が手の甲の刻印を見せると、ソロはハッとした。


「ならば今は必要な時であるはずだ。この刻印を今解除する者は我か()()()() くらいだからな」


 依頼主と結ばれた刻印は、依頼主でなければ解除する事ができない。

 その他に残される方法は、依頼を成し遂げるか受注者が死亡するのみだ。

 王がこの事を見据えて最初にソロに依頼書を開けさせたのだと気づくと、ソロは歯を食いしばり、王を睨み付けた。


「これでも足りぬのであれば、我が国の反乱分子たる幽閉者から犠牲を出しても良い。お前が頷くまでの礎として、一人ずつ処刑する手もある。さぁ、事は決まった。今夜は我が城で過ごすが良い。明日の其方の活躍を期待しておるぞ」


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