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おしゃれなソロ2

「こ、こんなのボクに似合わないよ……」


 鏡に写る自分を見て、ソロは恥ずかしそうな声で言った。


「そんな事ございませんわ。とっても可憐でお美しく、まさに春に咲く華そのものです」


「華って……、そうかなぁ……」


 ウェストについた細いリボンを結びながら、ドレスアップ担当の女性が言うと、ソロは照れ臭そうに疑い混じりの目で、鏡に写る自分をじぃーっと見つめた。

 鏡に写る少女は、いつもの見慣れた地味な旅人衣装姿ではなく、桜色のワンピースのようなドレスに身を包んでいた。

 レースがあしらわれ、頭には服の雰囲気に合ったコサージュをつけている。

 ふんわりとした可愛らしさというよりは、クールな大人らしさを帯びた可愛らしさだった。

 周囲から見れば、誰もが納得するような可憐さであったが、ソロは受け入れられない眼差しを向けている。

 部屋からソロが出て来ると、控室で待っていたグランダは声をあげた。


「こいつは驚いた。やっぱり、お前、凄い可愛かったんだな!」


 グランデがそう言うと、ボッと湯立つようにソロは赤面した。


「可愛くなんて……ないよ」


 目を逸らし、はにかんだ様な消えそうな声でソロは言った。


「いや、お前クラスの奴なら入賞も夢じゃないぞ!」


「そ、そうかな……」


 満更でもない気持ちにソロが言うと、うんうん、とグランデは頷いた。


「たまには悪くない……かな。こういうの着るのも」


 ソロがそう言うと、スーツ姿の男の人が遠くからソロの名前を呼んだ。

 

「ソロさん、そろそろお時間なので宜しくお願いします!」


 男がそう言うと、ソロは急に慌てふためきグランデを見た。


「え、待って! もう時間なの!?」


「あぁ、エントリーナンバー3番だから、もうそろそろだろう」


 あれ、言ってなかったっけ? という顔つきで、グランデが斜めを見て言うと、ソロは顔面蒼白で叫んだ。


「聞いてないっ! まだ心の準備もできてないのに!!」


 焦燥するソロに、担当の男たちが駆け寄ると、にこやかに微笑んで、ソロの体を押した。


「さあさあ、会場の皆さんもお待ちかねです」


「華のようなお美しさを見せつけてあげましょうぞ」


 男たちに連れられるソロが、助けを求めるかのようにグランデに叫ぶも、グランデは「いってらっしゃーい」と手を振り微笑むだけだった。



 その後の事は何も覚えていない。

 気が付けば控室に戻っていた。

 頭の回路がショートしたように、だらけた姿で椅子にもたれている。

 部屋の扉が開くと、グランダと預けていた小鳥が入って来た。


「やぁ、おつかれさ……」


 グランダが言葉を言い切る前に、ソロはまるでモンスターを狩る時のような素早さでグランダの胸ぐらを小さな両手で掴み、揺さぶり言った。


「もう、何なんだよ、あれ!! 滅茶苦茶恥ずかしかったじゃないか!!」


「い、いやぁ、良いじゃないか。中々魅惑的だったぜ」


 グランダがそう言うと、ソロは涙目で「バカバカバカ!!」と何度も揺さぶった。

 ソロが控室を後にした時の話。

 男たちに連れられ、ステージ端の暗幕まで来ると、もうソロは覚悟を決めた。

 名前が高々に呼ばれると、ステージに踊り出たが、今までに浴びたことのない歓声と視線の数に圧倒され、自己紹介の時の言葉はロボットのようにがちがちになる。

 それからだ。司会のマイクから、ダンス披露が促されると、ソロは耳を疑った。

 思わず司会に訊き返すと、司会は笑顔で頷いた。

 ステージ暗幕から見ているグランデに助けを求めるような視線を再び送るも、グランデは親指を立て、まるで「やったれ!」というような合図だった。

 

(後でめっためたにしてやる……)


 以前、どこかの町で舞踏会に出る羽目になったことがあり、その時に身に付けたダンスを披露する事でその場を凌いだ。

 思いのほか、会場からの評判は(すこぶ)る良かった。

 

「さて、最後はソロさんのお友達の方に、ソロさんの最大の魅力をアピールして頂きましょう!」


 司会の言葉に、ソロは再び耳を疑う。

 お友達なんて大そうなものは持ったことはない。

 思ってくれている人もいないだろう。

 けど、まさか本当に――

 しかし、ステージ暗幕から照れ臭そうにグランダが出て来ると、ソロはこけそうになった。

 グランダは、ソロが旅をしている事や凄腕の冒険者のこと、以前強敵モンスターのレアドロップを依頼して病気を患った妹を助ける事などを、話した。

 内容は少し脚色したものではあったが、グランダがそう思っていたなんて、とソロは恥ずかしさで頬を赤く染めるも嬉しかった。


「しかし、なんといっても、こいつの一番の魅力はナイスポーズですね」


「……え」


 ソロは思わず声を漏らし、グランダに振り返った。


「いやぁ、皆さん見ての通り、胸なんて亀の甲羅程度のふくらみで、こいつはまだまだ子どもですが、この歳にか出せない魅力ってのがあるんですよ。こいつのナイスポーズを見れば、会場の皆さんも釘付けになること間違いなしですわ」


「ちょっ」


 ソロが慌てふためくと、司会はグランダの話題に拍車をかけた。


「では、最後にソロさんに、ソロさんの最大の魅力、ナイスポーズをやっていただきましょう! それでは、どうぞ!」


 その後の事は本当に覚えていない。

 集まる会場の視線に、自分がどんな解釈をし、どんなナイスポーズをしたかは覚えてすらいない。

 ソロが恥ずかしさに怒りを滲ませた目でグランダを見ると、グランダはそれをなだめる様に言った。


「ま、まぁ結果オーライじゃないか。準優勝だぜ準優勝! クエストライセンスの欄にも書けるじゃねェか」


 小鳥がクスクスと笑う中、建物からはポカンと叩く音と共に「バカアアアアアアアア!!!!」という少女の声が鳴り響いた。



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