【PV10,000突破記念 特別話1】
*この物語は【PV数10,000突破】を記念して執筆された特別編です。
**この物語はソロ篇、アルス篇を御読み頂いた後に御読み下さい。
***特別篇は本編とは【一切関係ありません】! 一部キャラクターの崩壊があり得ます。
その招待状が届いたのは、ある町で宿泊していた時の早朝だった。
ノックの音と共に、宿の女性が挨拶と共に顔を覗かせると、白い寝間着姿のままのソロは、1封の手紙を受け取った。
「誰からだろう。ステラ・トランウォランス?」
封蝋された赤茶色の手紙の裏に金色で書かれていた、その名前を聞くと、鼾をかいていた小鳥はバネに弾かれたように大きく跳び起きる。
「ステラ・トランウォランスじゃと!?」
「はい、先生ご存じなのですか?」
「ステラ・トランウォランスといえば、世界屈指の超高級宿泊施設で、貴族はおろか、王族でも選ばれた者しか宿泊できないと云われるところじゃぞ!」
その言葉にソロは目を点にまるまで丸くさせ、突き放すように手紙を見つめ声を上げた。
「け、けど何でボ、ボ、ボクにそんな手紙が!?!?」
「良いから早よ中身を開けぃ!」
小鳥の言うままに、封蝋を慎重に開くと、上等な瀬戸物を扱うかのように、ソロはそーっと手紙を開いた。
その内容は、ステラ・トランウォランス直々の無料宿泊招待券であった。
質の良い招待券は2枚入っており、肌触りの良い手紙の宛名を何度も間違いではないかと少女は確認した。
そこには、間違いなく”ソロ”の二文字が書かれている。
「2枚あるのじゃから、わしも招待されているということじゃな! うっひょひょー、今夜はパーティじゃ、天国じゃー♪」
有頂天になる幼女に、ソロは苦笑をすると、「それじゃあ、入場時間は夕暮れらしいので、それまで暇をつぶしましょう。クエストもまだ受けてませんし」
流石は超高級ホテルといったところか。手紙に添えられていた転移石というものを使うと、一瞬でそのホテルの前に到着できた。
ソロと幼女は、息を呑んでそれを見上げた。
宮殿のような外観に、夕闇の中、淡い黄色やオレンジ色の光があちこちから溢れている。
左右には天使像をかたどった巨大な噴水が、壺から湧き出る飛沫の音を流麗に奏でており、見るその全てが豪勢で華やかなものであった。
入口の左右から滑らかな曲を描いた大階段を上がり、恐る恐る入口の前に来ると、ガラス張りの扉の前に立っていた、強面の男の一人がソロ達に駆け寄って来た。
髪からスーツまで全身真っ黒で、サングラスをつけているせいか、その威圧感はソロの背筋をピンと張らせた。
「お客様でいらっしゃいますか? 宜しければ、招待状を拝見させてください」
見た目通りの渋い声で訊ねられると、ソロは今朝方に届いた招待状を2枚見せた。
それを手に取り目を通すと、男は扉の前に立つもう一人の同じ姿の男に振り返り、頷いた。
「ソロ様、お待ちしておりました。フロントにてご案内がありますので、中のホールへお進み下さい」
先程の強面とは一変、にこやかな顔でホテルの中に勧められると、ソロと幼女は再び息を呑んだ。
ホールはただ広く、規則正しく並んだ大理石の床に、戦士や剣士をかたどった立派な彫刻。そして、中央には入口にあったものと同じような大きさの噴水が盛大に水の飛沫をあげている。
壁は黒曜石ようにテカテカとした光を放ち、金色の柱と大理石は天井のシャンデリアの光を白く反射していた。
ホールに足を踏み入れれば、まるで王族のように迎えられ、荷物をタキシードのような衣装に身を包んだ男女に預けた。
キョロキョロとあちこちを挙動不審に見渡しつつ、フロントで手続きを済ませると、再び一等級の黒い衣装姿の男女が現われ、部屋に案内される。
高層階へ続くエレベーターに乗ると、それは天井から壁まで全てガラス張りであり、指定階到着まで、周りの景色を見下ろすことができた。
長方形や四角形の見たことのないような造りをした建物の輪郭が何重にも重なって見え、幾千もの光が夜の町に散りばめられたように光を放っていた。
天の空よりも明るく、まるで地上に広がる夜空の様なその光景に、ソロと幼女は口を開きながら、階到着のアナウンスが入るまで魅入っていた。
エレベーターの扉が開くと、金装飾の入ったノーブルレッドの絨毯が縦に伸びていた。
その一番奥の部屋、黒スーツと男が2人左右に立ち、扉が開かれ中に入ると、ソロと幼女はポカーンとした。
ただっ広い大理石の床が広がり、バーカウンター、高級ソファのリビング、お姫様のようなベッド、そして隣の部屋に繋がる扉を開けてみれば、満天の夜空と地上を一望できる露天風呂のような大浴場が広がっていた。
全身の力が抜けたソロは、夢から覚めた様に我に返ると、顔面蒼白で、男の一人に訊ねた。
「こ、こ、これって本当に無料何ですか!?」
「はい、無料でございます」
「浴場もソファの使用も全部ですか!?」
「はい、心ゆくまで寛がれてください」
「じゃ、じゃ、じゃあバーカウンターのお酒は別料金とかは!?」
「ソロ、心配のし過ぎじゃ」
男達から一通りの説明を受け、部屋を去って行くと、ようやくソロはソファに全身の力を抜いて吸い込まれるように座した。
「あー、緊張したぁ……」
ソロが言うと、幼女はもう抑えきれない満悦の笑みを溢しながら、バーカウンターの酒瓶の一つ一つを手に取り眺めた。
「おお!? ドンペリ・グランシャオーレ・プレミアム(:高級酒ドンペリアの1種)があるではないか!! まさかこのような高級酒にお目にかかる機会があるとは、ありがたやありがたや」
酒瓶にプルンとした頬をこすりつける幼女の声に、ソロはやはり別料金なのでは……、と少し顔を曇らせた。
「それにしても――」
こんな広い部屋、とても2人じゃ使いきれない。
そもそも本当に2人用の宿泊部屋なのだろうか。
ソロは、机の上に上げられていた部屋の案内を見ると、目を丸くした。
「ステラ・トランウォランス VIPルーム 10人部屋……じゅ、10人!?」
ソロが声を上げたその時だった。
部屋の扉のノックの音が聞こえると、黒スーツの男が一礼をする。
「2名のお客様がご到着されました」
「え?」
「お客様、中へどうぞ」
男に勧められるまま、中に入って来た2人の顔を見ると、ソロは思い切りに目を見開き、驚きの声のままに、その2人の名前を叫んだ。
「あ、アルス!?!? それにミーニャも!?!?」
名前を呼ばれた青い短髪の青年と白い法衣に身を包んだ女性が、ソロを見ると、2人も同じような表情でソロの名前を叫んだ。
「おいおい、ソロ!? ソロじゃねェか! 何でこんな所に?!」
「まさかこんな所でお会いすることになるなんて……!」
ミーニャとアルスが駆け寄りソロに言うと、ソロも、
「アルス達こそ、どうしてここに?!」
「いやぁ、無料招待状がこのホテルから2枚分届いてな。誰が行くか散々譲り合いで揉めたんだが、くじ引きで決まって来ちまった」
「そ、そうなんだ……」
ソロが苦笑をすると、再び部屋の扉が開き、先程の男が同じパターンで一言一句間違いなくソロ達に伝えた。
今度は誰だ、と部屋に入って来る人影をまじまじと見つめると、ソロの表情は一瞬で顔面蒼白と化した。
深紅の赤髪に、翡翠の瞳。凛としたその顔立ちは忘れもしない。
「り、り、リダイア?!」
名前を呼ばれた女性騎士が、ん? とソロに気が付くと、ソロは慌てて逃げるようにソファの後ろに隠れ「殺される―!!」と間抜けな声を上げた。
リダイアはそれに呆れたような顔をし、
「バカモノ。今日は貴様を捕まえに来たのではない。何やら祝い事があると聞いて、遥々から駆けつけたのだ」
いつも身に付けている鎧を取り、ブラウスの様な正装着姿のリダイアの後ろには、息を切らしている、分厚い鎧姿の巨漢の姿があった。
「ま、まさかお前ら、転移石使わずに来たのか?!」
アルスが訊くと、リダイアは腰に手を付け、
「当たり前だ。このような便利グッズはすぐに人間をダメにしてしまうからな」
その言葉に、アルス、ミーニャ、ソロのハートにぐさりと何かが刺さった。
「うーむ、中々良い宿場ではないか」
内装を見渡すリダイアに、思い出したようにアルスは声をかけた。
「そういえば、祝い事って何の祝い事なんだ?」
「ん? 私もよく分からぬが、何かが10,000に達したらしいぞ」
「ま、ま、まさか先生の今飲んでる酒代が……!」
ソロが再び真っ青に言うと、幼女はぽかりとソロの頭を叩いた。
「まぁ、兎に角何かめでたい事であれば、争い事はなしにしましょう。私もアルスさんとソロさんについては一切口出しをしませんので」
ミーニャがそう言うと、幼女は「なら、今夜はパーティじゃな。お互い楽しく行こうではないか」とミーニャに酒を勧めた。
しかし、ソロは何やら嫌な予感がしていた。この夢の様な一宵が、制約されたあらゆる人間の限界を突破させ、ハチャメチャかつ支離滅裂な世界へ自分たちを導いてくれるものに違いないと……。
*御読み下さりありがとうございました!後日第2部を更新します!お楽しみに!