二章「入部と初練習」
さあ、惰性とその場の思いつきで展開し始めた二章です。
このあと、どうなって行くんでしょうか?
……誰か、教えてください。
「さあ、入れ入れ。もう全員着替え終わってっから、期待してもダメだぞ?」
……ああ、やっぱりか。野球部員は全員が女子だった。
「じゃあ、紹介するぞ。ユーカとはもう挨拶が済んでるな。コガケンと同じ一年だ」
終わりかよ、と言いたくなるくらい情報の少ない紹介だった。
さっき鈍器を振り回して研二の命を脅かしていた女生徒。身長は研二と同じくらい、サラリとした黒髪は男の子みたいなショートカット。横目でにらみつけるような視線を送り、
「……早乙女、優華。一年C組。 ……よろしく」
不承不承、といった調子で口を尖らせて言う。
「次は……もうひとりの一年だな。コトリ?」
山田が促したのは、優華の隣に座る小柄な少女。
一目見た印象は、漫画に出てくる貴族とか華族とかのお嬢様キャラ。
ユニフォームは上下きちんと着ているが、帽子はかぶっていない。やや西洋人的に整った目鼻立ち、きれいな金髪のロングヘアはくるくるとカールして背中に流れている。
「こ……る、小鳥ですわ」
前半早口の小声でごにょごにょと、聞き取れないように言う。
なんだ、放送禁止用語なのか?
「え……と、小鳥さん?」
「ちょっと!」
金髪美少女は勢いよく立ち上がり、細い腰に両手をあてて険しい表情を浮かべた。身長は低く、まだ女性としての成長はこれから、という体つき。
「この野良犬! 気安く名前で呼ぶとは、思い上がりもいいところですわ!」
「え……だって苗字わかんねえし」
もっともな返答に、小鳥は赤くなった顔をそむけ、
「だから、こ……るですわ」
「は?」
まったく聞き取れない。面倒になった山田が口を挟む。
「コトリィ。次がつまってるからさ、もういいじゃん。アタシが言うぞ?
……コンゴーマル、だよ」
「は?」
金剛丸小鳥、という名前だった。
……なるほど。外見とのギャップがありすぎだ。研二は納得して口を閉ざした。
「じゃあ、次な。あとのふたりが二年だ。こっちがピッチャーのまりんだ。桜井まりん。アタシとバッテリー組んでる」
うって変わって地味な印象の女生徒が静かに立ち上がる。セミロングくらいの長さの髪を無造作に黒いゴムでくくっている。
「……よろしく。桜井です」
軽く頭を下げる。礼儀はあるが、愛想はない。
「最後は琴音だな。ショートが本職でピッチャーもやる」
最後のひとり、長身の女性が立ち上がる。
きちんとユニフォームの上下を着た身体は細身ながら女性らしいラインを持ち、栗色のロングヘアはまっすぐに背中へ流れている。小づくりな顔は整っていて、上品。どちらかというと和風美人と言える。
「お姉さま! こんな馬の骨のために立つ必要など……もったいないですわ!」
小鳥が横から言う。なるほどテンプレな先輩後輩の関係性だな、と研二は考察する。
「早川琴音、二年A組よ。よろしくね、古賀くん」
なんとも上品な声と表情、美しい立ち姿で言う。野球のユニフォームが似合わないのは小鳥といい勝負である。
「ええと……これだけですか?」
新入部員の研二を入れても六人しかいない。
「ああ。あとは試合のたびにサポートメンバーが入んだよ」
その時。
「グッモーニン!!!」
ばあん、と部室のドアが開いた。
研二だけビクッとして振り返るが、他の五人は無視である。
大きく開かれたドアはストッパーに当たって跳ね返り、閉まった。
ばたん。
「…………え?」
「もっかーーーい!」
再び勢いよく開くドア。その人物は、跳ね返って閉まってきたところを手で押さえ、もう一方の手は自分の顔半分を隠すようにして、なんか謎なポーズをとった。
「しょくーーん。グッイーーブニン!!」
あ、言い直した。
「お疲れ様です、あの……」
早川琴音が、にこりと笑って頭を下げた。
「おいーっす」
言いながら入ってきたその人物は、腰の下までまっすぐに流れる深緑のロングヘア、エメラルドグリーンのジャージ上下。
「おお、キミか。期待の新人は!」
研二の前で立ち止まり、下から見上げながら口調は上から言う。
中学生にしては背が低い。多分120センチくらいではないだろうか。
小学生……?
「あ、あの、君は?」
野球部の関係者なのか?
「ああ、古賀くん……」
琴音が口を開くが、遮るように幼女が鋭く言葉を放つ。
「やれやれだな! 君もかね、新人くん! 人を見た目で判断してはいけないと教わらなかったかい? ……さあ、目を閉じてゆっくりと心の目でわたしを見て御覧」
「はあ……」
全くわけがわからないながらも、素直に目を閉じる研二。
ごそごそと物音がする。キュポンと、キャップを外す音か?
研二が薄目を開けてみると、幼女が背伸びをして油性マジックを彼の顔に向けていた。
「わあっ! 何してんの!」
「チッ。気づかれたか」
「顔に落書きしようとしてただろ!」
しかも、油性で!
「ああ。額に邪眼でも書いてやろうかとな。ちょっとは真実が見えるようになるだろうさ!」
「何言ってんだ! ……ちょっと先輩方、なんなんですかこの子」
周りで傍観を決め込む女子たちに助けを求める。
「あー……、顧問だ」
山田が言う。
……コモン? 顧問って……この人、先生なの?
「数学教師、富士川あずきだ。ちなみに、担任はまだない」
上体を反らせて、また変なポーズをとる。
何なのこのポーズ、などという疑問を抱くのは新入部員ただひとりで、残りのメンバーは既に慣れ、そして飽きていた。
現在、五月中旬。既に春の大会は終了し(一回戦負けだったらしい)、夏の大会に向けて練習に励んでいるべき時期である。
「さて、じゃあやるか! コガケンは体操服でいいから、着替えたら来いよ。グローブは……よしよし、ちゃんと持ってるんだな」
中学の入学祝いに買ってもらったグローブ。使う予定がなくても大抵、持ち歩いているのだ。
「初日からいきなり練習か……」
しかし一体、どんな部活なんだ? 女しかいないし、顧問は小学生みたいだし。研二はトレシューのベルクロをキツめに留め直してグラウンドへ。他の部員達は準備運動を行なっていた。
「しゃーす!(『お願いします』の意味)」
「集合―――!!」
見た目幼女の富士川先生が大声で言う。無理して出したので微妙に裏返っていた。
「さあ、新入部員を迎えたことだし、今日は紅白戦でもやるか!」
いやいや無理だろ絶対。
「……ふん。もちろん冗談だ。先生だってわかってる。野球は九人でやるもんだ、ってね。じゃあシートノックやるぞ!」
……え、出来んのこの先生? 研二が周りをうかがうと、さっきと同じリアクション。
「……もちろんわかってる。先生のノックの打率が一割切ってる、ってことも!」
いや普通、ノックに打率とかないから。
「あーもう。ああ言えばこう言う! 文句ばっかりじゃないか! お前らが決めろよもう!」
めんどくさくなったらしい。逆ギレしたちびっこ先生は木陰に移動し、のび太みたいに昼寝を始めてしまった。
「さて、軽くランニングしてアップ、そのあと二人ひとくみでキャッチボールな」
はーい!
……なんだ、普通じゃないか。
キャッチボールで研二はユーカと組になった。二年生バッテリー同士で組み、小鳥は、お姉様とでなければキャッチボールなど致しませんわ! と、背景に花を咲かせ始めたので残った二人がコンビになったわけだ。
「……じゃあ、やろっか」
まずは近くで軽く。だんだん距離をあけていく。
昨日の素振りで予想していたが、やはり彼女は未経験者だった。ちょっと距離があくと投球が届かなくなるし、グラブの扱いもなっていない。
「無理して距離あけずに、力まずに投げたほうがいいよ。フォームを意識して、手投げにならないように。捕球は身体の正面でするのを心がけて……」
あまり偉そうに言うとまた怒らせるかもしれないので、極力ソフトに助言した。彼の脳内イメージは某クワタさんである。
「お、いいね。腕振れてる。そんな感じで体に覚えさせていったら上手くなるよ」
ほめることも忘れずに。次第にユーカの表情が明るくなっていた。
「よーし、じゃあノック行くぞ! 守備位置につけ!」
山田薫子が迫力のある声で号令をかける。
ファーストにユーカ、セカンドに研二、ショートに琴音、サードに小鳥が入る。マウンドにはピッチャーの桜井が立ち、投げるふりをする。
それを合図に、薫子がバッターボックスから各守備位置へ向けてノックを打つのだ。
実に、普通である。人数が少ないので内野だけしかいないし、顧問はいつの間にかいなくなっていたが練習内容は非常にオーソドックスだ。
ユーカはいかにも素人の動きだが、琴音は華麗な身のこなしで打球をさばき、送球も素早く的確にこなす。小鳥はどれだけ強烈な打球でも簡単に捕球し、ファーストへも軽々とノーバウンドで鋭い送球を投げる。
おお、いい感じやなか? などと研二が思っていると、
「さあー、あったまってきた! そろそろ本気出すぞ!」
マウンドの桜井がホームベースへ駆ける。
「まずはサード!!」
ホーム横で膝立ちになった桜井がボールをトス、薫子はそれをフルスイングで打つ。
唸りをあげるライナーが一直線にサードを強襲。華麗なグラブさばきで小鳥は捕球し、ファーストへ送球。それが終わらないうちに、次の打球がサードへ飛ぶ。
金髪をふわりとなびかせた彼女はフォロースルーの体勢のまま、猛スピードで飛んでくる打球を背中で捕球した。バックハンドキャッチである。そのままボールは地面に落とす。
くるりと正面を向いた小鳥の目の前に次の打球が迫る。彼女の鼻先でグラブが乾いた音を立て、軟式球を受け止めた。更に次の打球。今度は右に逸れた。すかさずグラブが白球をつかみ捕る。
……なんだ、このノックは? 桜井は両手を使って次々とボールをトスし、薫子は何かに取り憑かれたかのように打球を放つ。まさに、息もつかせぬマシンガン・ノック。
「こ、これは……!」
アホや。
こんなに次から次へと打球が飛んでくる場面など、実際の試合であるわけがない。とっさの事態に対処する練習? ……いや、捕った球を投げる時間もない練習など、どんな意味があるんだ?
小鳥は次から次へと襲い来る打球を、涼しい顔でさばき続けている。とんでもない身体能力だ。
やがて球が尽きた。全員で拾って、ホームベース横のカゴに戻す。
「さあ次、ショート行くぞ!」
続いて遊撃手の琴音がマシンガンノックを受ける。こちらもサードと同様に……いや、それ以上の優雅さと余裕を持って、全ての打球を捕ってしまった。
ちょっと待て。じゃあ次は……!
「次、セカン行くぞ!」
研二は、次々と自分を襲う流星群のような白球の連打に、刻の涙を見た。
もちろん作者は、ガンダム世代です。
硬いと言われようが、宇宙世紀派です。




