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一章「出会いと別れ」

一章です。

 古賀研二は、九州のとある田舎町に生まれ、六歳年上の兄と両親の、四人家族で育った。母方の祖父母は山口で健在だが、父方の祖父は研二の生まれる前に、祖母は研二が六歳の時に亡くなった。研二にとって身近な人の死は、それが最初で、今のところは最後だ。

 四月の下旬、中学校にも慣れ、見知った仲間ばかりの野球部に体験入部も済ませてもうすぐ正式に練習にも参加、という時期である。

 昭和四〇年代に建てた木造一軒家をリフォームした古賀家での、夕食の席。

 工場勤務の父は早番だったので、今日は夕飯を家族全員でとっている。

 兄の雄一は、この春からの進学に伴い、京都の私立大学近くに下宿をしているので父、母、研二の三人で全員だ。

「急な話だが、引越しだ」

 父が唐突に言った。本当に急だったので驚いた。母の表情をうかがうと、驚きながらも少し納得した顔をしていたので、多分、話は前からあったのだろうと推測する。

「人員の都合でな。連休明けに引っ越す。住むところも全部、会社が用意してくれるから、心配ない」

 無口な父が断定口調で話す。

 行き先は、研二が知らない地名だったが、あとで調べてみたら中部地方の街だった。

「引越しかぁ……。なんか、ちょっとショックだな」

 研二のひとりごとに、母が答える。

「ごめんねえ、研二。でも、ずっと戻ってこれん、いうわけやないけん」

「え、そうなん?」

 父が食後のお茶を飲みながら答える。

「ああ。多分、三年か、四年くらいで戻る予定だ。だから、この家もこのまま残す」

 いずれ戻る、と聞いて研二はいくらか安心した。何しろ田舎町育ち、小さい頃からの友達も多いし、特に研二は少年野球をずっとやっていたので年上も年下も付き合いのある者が多いのだ。

「ねえ父さん」

「何だ」

「その……引越し先で通う中学に、野球部がなかったら……硬式チーム入ってもよか?」

 父は高校までずっと野球一筋だった人で、その持論が、中学までは軟式、である。

 肩や肘を傷めるリスクや、球が当たった時の怪我の事を考えて、体の出来上がっていないうちは硬式は禁止なのだそうだ。

「……なかったらな。あったら、学校の部活にしろ」

「うん」

 学校の部活動で行われる野球は、中学までは軟式球、というゴムのボールを使う。高校からは硬式、というプロ野球でも使うような革の硬い球を使うようになるわけだ。

 しかし部活ではないクラブチームにおいては、年齢に関係なく硬式球を使う。

 一般的に、硬式チームはレベルが高く、本気で野球をやりたい、という者はそちらへ行くことが多い。研二はそこまで上昇志向が強いわけではないが、高校でも野球を続ける、ということを考えた場合には先に硬式デビューしておいた方が有利なのでは、という思いがあったのだ。

 結果、研二が新たに通う事になる『市立 常南中学校』には野球部があり、部員は少ないながらも、まともに活動していたのだが、それがこれからの彼の人生を大きく変えることになる。

 ……いや、人格を、かもしれない。


 五月の連休明け、土曜日。研二たち古賀一家は地元駅の前で、友人や同僚たちに見送られながら、列車の発車時刻を待っていた。

「じゃあなケンジ。高校では、一緒にやろうな?」

「おう、もちろん。必ず戻ってくるけん、待っちょってくれよ?」

「もう、戻ってこんでよかぞ! 俺らで強かチーム作っちゃるけん」

「そんなん無理ごたるけん、戻ってくるばい!」

「しゃーしか!」


 ……など、ローカル色豊かな別れの挨拶を経て、研二は列車に乗り込む。

 ちなみに、これは『列車』である。電車ではない、ディーゼル駆動の列車だ。

 ワンマン運行の二両編成。研二たち三人の他には二人しか乗客がいない。平日は通学・通勤の需要があるとはいえ、こんな事で経営は大丈夫か、と心配してしまうレベル。

 列車はのどかな田園地帯を抜け、博多へ。そこから新幹線、在来線と乗り継ぎ、古賀一家は目的地近くのターミナル駅に着いた。

「へえ……。割とひらけとうね」

「そうだな。今までより、便利になるんじゃないか」

 ターミナル駅の周辺は、中央資本のチェーン店も多く、企業も集まって、なかなかの繁栄ぶり。

 少なくとも、今まで暮らしていた九州の田舎よりは都会、である。

 ここから電車でふた駅、常南じょうなんという街が目的地だ。

 ごく、ありふれた町である。それなりに商店や住宅もあり、田畑もある。

 駅から徒歩約三分、研二たちがこれから暮らすアパートはあった。

「へえ。割と良かとこやね」

 素直な感想が研二の口から漏れる。

 うん、と両親は満足そうに頷く。子供がいいと言うなら、それで良いのだ、親というものは。

 まだ引越し会社のトラックは到着していない。あと一時間くらいかかる、と連絡があった。

「そしたら、その辺散歩してきても良か?」

 研二は、早速近所の探索に出ることにした。

 迷子にならんようにね、という母親の言葉に見送られながら。

「子供じゃないっつーの」

 適当に、歩き出す。母親の言葉を真に受けたわけではないが、本当に迷ったらシャレにならないので、途中途中で目印を決め、記憶しておく。

 そして、公園を見つけた。

 『常南北公園』というひねくれた名前が入口の横の石に刻まれている。

 砂場、ブランコがあって、あとはただの広場。さして広くもないそのフリースペースで、バットを持って素振りをしている人がいた。

 野球少年としては当然、気になるところである。

 黒の半袖Tシャツに黒のジャージ。

 そのスイングは、あまり上手とは言えないものだった。芯がブレている。バットが波打ち、あれではミートできない。

 まだまだ、下半身が弱いですなあ。走り込みが足りんとやなか?

 心中、えらそうにつぶやいていると、その人はこちらに気づいたのか、手を止め、研二の方を見た。

 目が合った。

「…………!」

 ショートカットの、女の子だった。

 大きな二重の、ややつり気味の目。

 数メートルの距離で目が合った研二は、思わず無言で逃げ出した。

 別に悪いことをしてたわけじゃないのに。

「えーと、目印……中華屋があって、ポストがあって……」

 今日から暮らすアパートへ、逃げるように帰る。

 明日は、中学校に初登校だ。


「……で、我が校の生徒は、文化系、運動系、どちらでも構わないが、何か一つは部活動に参加しなければならないんだが……古賀君は、部活はどうだね」

 翌朝、常南中学校職員室にて。

 担任の浜田先生が聞く。

「僕は、ずっと野球をやってきましたので、野球部に入ろうと思います」

 当たり前のように研二が答えると、先生は、えっ、と一言もらし、なんとも妙な表情をした。

「あ……ああ、野球か。うん、いいな。そうか、じゃあ、放課後にでも見学に行ってみなさい。月曜日は確か、練習日のはずだ」

 明らかに不自然なリアクション。研二は訝しんだ。

 ……なんか、あるのか?

「あの、せんせ……」

 言いかける研二を、

「おお、もうこんな時間だ。行こうか、古賀君……じゃあ、お母さんはお気をつけてお帰りください」

 転校の手続きの書類やら何やらのために一緒に来ていた母親は帰っていく。

 胸の中に引っかかるものを感じつつ、研二は初めての教室で、初めて会うクラスメイトに自己紹介をし、授業を受けて放課後になった。

「古賀君、もう帰るのか?」

 クラスメイトのひとりが聞いてきた。名前は確か、中村といったはずだ。

「中村くん、野球部って、どこで練習するか、知っとう?」

 研二の言葉に、中村は表情を凍りつかせた。

「な……き、君、野球部に入るのか?」

「う……うん。そのつもりだけど……なんか、あるの? ここの野球部。不良の集まりとか」

 そんなマンガ、あったよな。

「いや、そういうんじゃない。あの人たちはあれで、かなり真面目に野球やってると思うぞ、うん」

「そう……? なら、いいけど。とりあえず、見学に行ってみようかと思うんやけど」

「ああ、なるほど。ほら、あそこに見えるコンクリの建物、あれが運動部の部活棟。行ってみな」

 そしたらわかるよ、と彼は聞こえないくらいの小声で付け足した。

「ありがと。じゃあ、行ってみるわ」


 研二は意気揚々と、教室を出て行った。

 校庭を横切り、教えられた部室棟へ。

「えーと、野球部……ああ、あった」

 スチールのドアの上にプレートがかかっていた。

 何気なくドアノブをひねってみると、鍵があいている。無用心だな、と思いながらドアを引き、中をのぞき込む。

 着替え中の女子と目が合った。

「…………!!!」

 バタン、とドアを閉める。

 な、なんだ今の。ここ、野球部の部室だよな? なんで女子が着替えてんだよ?

「あ。そうか、マネージャーか! 女子マネがいるのかここの野球部は。そーかそーか」

 謎は解けたとばかりに手をうつ研二。

 その背後で、部室のドアが勢いよく、開かれた。

 恐る恐る振り返ると、さっきの女子が鬼の形相でこちらを睨んでいた。

 野球帽、練習用の白いユニフォーム、アンダーはエンジ色。足元は黒のトレシュー。

 明らかに野球の、選手の服装である。

 ……あれ? この娘、どこかで……あ。昨日の公園の。

「あ、あの。ごめ……」

 言いかける研二の左頬に衝撃が走る。

 思いっきり、ビンタされた。

「い、いってえな……」

 言いかけると今度は右の頬に打撃。往復ビンタだ。

「このチカン! ヘンタイ! ノゾキ魔! 変質者! それからえーとえーと」

 ユニフォーム姿の女子はめちゃくちゃに殴ってくる。

「ちょ、ちょっと待てって!」

 攻撃の届かない距離まで素早く後退。あちこち痛いが、やはり両頬がジンジンする。 ……うわ、鼻血出てるし俺。

「勘違いすんなって! 俺は野球部に用があって来て、そしたらドアの鍵があいとったけん……」

「男子が野球部の部室に何の用よ! やっぱりチカンじゃない!」

「違うわ! 大体、幼児体型の着替えなんぞ見たくもなかったっつーの」

 つい、言ってしまった。

 物語はじめにお約束の、ラッキースケベの状況で、普通ここまでボコボコにされるか? とか、きゃー、とか女らしい悲鳴のひとつもあって良いんじゃないか? とか、彼にもいくつか不服があったわけである。

 野球少女はすうっと表情を消し、部室の中へ戻ってしまった。

 ……傷つけて、しまったのだろうか。

 中一男子には、女心は難しい……などと思う間もなく、再びドアが勢いよく開かれた。

 彼女の手には、鈍い輝きを放つ金属バットが握られていた。

 素振りですかあ? ボクも付き合いますよお? それよりまずは走り込みを……

「……殺す!」

 バットを大上段に構えた女子は、みなぎる殺気をほとばしらせて研二を襲う。

「うわっ!」

 かろうじて最初の攻撃をかわした。

 空振りしたバットが地面に叩きつけられ、砂ボコリが舞う。

 ……まじで、殺される! 

 研二は、全速力で逃げ出した。

「待てこのヘンタイ!!」

 女子はバットを振り上げたまま追ってくる。命の危険もそうだが、そんな事大声で叫ばれたら俺の明日からの学校生活に支障が……。

「うわっぷ!」

 後ろを気にしながら走っていたせいで、研二は誰かにぶつかった。

 校庭に尻餅をついてしまった。

「す、すみません。今ちょっと、命を狙われてまして……」

「ああん?」

 研二がぶつかった相手は、女子生徒だった。かなり大柄で、まっすぐな髪をサムライのチョンマゲみたいなポニーテールにしている。セーラー服のリボンの色で二年生であるとわかる。

「ナニ言ってんのあんた……ちょっとユーカ! 何やってんの!!」

 後半は、研二を追いかけて来た女子生徒に向けての言葉だった。

「山田先輩!」

 ユウカ、と呼ばれた女子はバットを持つ手を下ろした。

「何やってんのアンタ、危ないでしょうが!」

 実に、そのとおりである。そして、当たり前である。

 山田先輩、と呼ばれた女子生徒は、大きなスポーツバッグを肩にかけ、仁王立ちしてユウカをにらみつけていた。

「いや、だって……そいつがノゾキを」

「ああ?」

 すごい目ヂカラでにらみつけられた研二は、必死で言い訳を始める。

「いや、その……違うんです! それは完全に、偶然による必然のお約束ごとというか……」

 更に危険な空気が漂ってきた。

 まずい。そうだ、言い訳めいたことを言うからいけないんだ! もっとストレートに行けば……

「そう! 僕は一年の古賀研二といいまして、野球部の入部希望者なんです! それで」

 その言葉に、山田先輩は目を丸くし、次に目を細めた。

 にんまり、という擬音が浮かびそうな、笑顔になった。

「……経験は? コガケン」

 いきなり略称で呼んできた。

「ええと、小二からずっと、です」

「ポジションは」

「セカンドが多いですけど、内野は一応ひと通り……」

 その言葉で、決まったようだった。

「よーしコガケン! 入部届けは職員室だったな」

 がしっと、力強く肩をつかまれた。

「え? ちょ、ちょっとあの……」

 ああ、と山田はふたたび笑顔になる。

「紹介が遅れたな。二年の山田薫子、野球部キャプテンだ」

 そのまま、研二は職員室へ拉致され、入部届けを提出した。

 ……いや、提出させられた。


実は昔書いた小説の焼き直しなんですが、この章くらいまでですね、元の小説と同じなのは。

二章以降、何せ息抜きのために書いている小説なので、テキトーにむちゃくちゃになっていきます。

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