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十章「試合終了と解散」

練習試合でネタを使いすぎかも知れぬ。

公式戦どないしょ。

 四回表、マウンドには引き続き早川琴音が立った。

 さて次はどんな手で来るんだ? さすがにもうネタ切れか? などと皆が期待半分に思う中、九番バッターに代打が出された。

 一球目、甘く入ったボールをきれいに打ち返されてあっさりとセンター前ヒットにされてしまった。本当にネタ切れかも知れない。

 ノーアウトランナー一塁でバッターは一番に戻る。初球ボールに続いて二球目を三遊間を破るヒットにされた。レフトの柔道少女はちゃんと打球を捕ってくれたのでランナーは二塁でストップ。

 ノーアウトのまま、ランナーは一二塁。

 二番バッターはバントの構え。琴音はそれを外すように明らかなボール球を投げる。バッターはバットを引いた。腰をあげて捕球した薫子が素早く動く。ファーストへの鋭い牽制球を受けてすぐに、桜井は塁に戻ろうとするランナーの手にタッチ。

「アウトぉ!」

 一塁審の手が上がる。

 これでワンナウト二塁。バッターはヒッティングに切り替える。外角低めの難しいボールをうまくライトへ運んだ。打球に勢いがなかったのでセンターの滝澤がフォローに入り、バッターは二塁までしか進めなかったが、二塁にいたランナーはホームイン、点差は四点に開いた。

 再びワンナウト二塁で迎えるバッターは三番。クイックで投げた琴音の球をバントされた。ピッチャー前に転がる球を、二塁ランナーを気にして投げられず一塁もセーフにしてしまった。

 ワンナウト一二塁で四番バッター、もっとも注意しなければならない打者が登場。

 左バッターボックスに入り、バットを高く掲げるように構える。

 一球牽制球を入れて間をとるバッテリー。

 一球目、外へボール球。悠々と見逃される。

 二球目、もう一度外へ。コースはボールかストライクか、微妙なところだ。金属バットが鋭く白球を弾く。

 ミートポイントのやや外側であったが、ややアッパー気味のスイングはボールを常南中の校庭に設置したフェンスの向こうへ運んだ。スリーランホームランで点差は七点となった。

 ここで再び桜井がピッチャーに戻る。ショートとファーストも交代して最初の守備位置に戻った。

 五番、六番バッターをエース桜井が踏ん張って打ち取り、チェンジ。

 四回表、甘中のマウンドはセンターに入っていた一年生選手が立った。

 投球練習を見ている限り、監督に戻った柏田とは雲泥の差がある。

 なんとか打ち崩して……と思う常南ベンチであったが、バッターは六番・早乙女優華。気合だけが空回りしたスイングで三振に終わる。続く二人のサポートメンバーも三振して、チェンジ。

 四回裏の甘中の攻撃をなんとか無得点に抑えて、五回表常南中の攻撃。現在点差は七点あり、ここで点を取れなければコールド負けが決まる。

 先頭は九番の石川。ここまで徹底的に何も行動していない華道部員だ。

 当然これでワンナウト、と思っていたのは甘かった。

 石川が敬遠されたのである。

「そう来たか。やられたな」

 ベンチで研二は悔しそうに言い、バットを手にして立ち上がる。

「ちょ、どういう事よ」

 解説を求めて引き止めるユーカ。

「華道部のあの子が一塁に居たら、小鳥はどうやってもそれ以上進めない。いや、もっと徹底的にやるなら……まあ、見てみようぜ」

 ネクストバッターズサークルで見守る。周りに言われていやいやながら、という表情で一塁ベースに行く石川。いいからここに居なさいと言われてベースの真ん中に直立している。

 左打席に立つ小鳥に対して投げられたのは、ど真ん中への棒球。どうぞ打ってくださいと言わんばかりの絶好球である。

「馬鹿にするんじゃないですわ!」

 鋭い打球がライト方向へ飛ぶ。勢いのあるそれはワンバウンドで右翼手のグローブに収まり、すぐに一塁へと送球される。並の選手ならライトゴロでアウト、という場面だが金剛丸小鳥の瞬足はそれでもセーフになるほどの規格外だ。

 しかし。

「ちょっと! そこをどきなさい青びょうたん。あんたはさっさと二塁へ走るのですわ!」

 言われた石川は青白い顔のまま微動だにせず、

「……ここに居なさい、と言われた。ていうかもう動きたくない」

「この馬鹿! 邪魔だからおどきなさいと言ってるんですの! さっさとあんたはアウトになるが良いですわ!」

「ごめん、悪いけど君がアウトだよ」

 甘中の一塁手が申し訳なさそうに言う。すでに彼のミットにはボールが収まっており、一塁に足が付いているのでバッターランナーの小鳥はアウト。そして、ゆっくりと二塁へボールが投げられてランナーの石川もフォースアウト。ダブルプレーである。

「……よかった、やっと終わった」

 と言いながら歩く石川に急ぎなさいと主審が注意するが、まったく変わらない足取りのままベンチに戻り、疲労困憊、といった体で座り込む。

 離れた位置に憤懣やるかたない小鳥も腰をおろした。

「まったく、やってくれますわ! よりによってこのわたくしを一塁でアウトにするなんて」

 こりゃ詰んだかな、と内心弱気なことを思いながら打席に向かう研二。

「……いや、勝ち負けじゃあなか」

 桜井まりんの言葉を思い出す。練習試合はあくまで練習。最後まで全力でやらなくちゃ練習にならない。そうだ、これはピンチの時でも諦めない練習、相手に行ってしまっている流れを引き戻す練習だ。

 グッと、バットを握り打席に立つ。

 相手は自分と同じ一年生、それも多分ピッチャーの経験はあまりない。変化球もないし、打てない球じゃない。

 内角に来た初球を思い切りたたく。白球は甲高い音とともに飛び、左方向へ大きくファール。

「……っっしゃ!」

 研二には珍しい長打である。俺だってやればできる、と彼は強気になる。

 ここで甘中のピッチャーが交代。今までベンチに居た選手がマウンドへ向かう。

「あいつか」

 研二はピッチャーの背中を見て言う。背番号がついていない練習用ユニフォームだが、もしこのチームのエースナンバーを付けるとしたらこの選手だろう。投球練習をしているのを見て、気になっていたのだ。オーバースローだが、かなり腰を落として低い位置から鋭く投げ込んでくるフォーム。ボールが空を切る音が他の一年生投手とは違う。

 ミットに収まる音も低く、重いように聞こえる。

 一球目、低めにストレート、ボール球。研二は見逃す。

 二球目、スライダー。変化球はストライクゾーンに収まり、ツーストライク。

 三球目、真ん中にストレート、今までよりもスピードが遅い棒球、失投だ! 研二は迷わずフルスイング。しかし、バットは空を切り、勢い余って尻餅をついた。

「フォ、フォークかよ……」

 バッターとしては初めて見た。こんなにキレ良く落ちる球、絶対打てねーわ。

「ゲームセット! 両チーム、集合!」

互いに脱帽して礼。まだ時間は早いが、甘中が遠方から来ていることもあり、常南は控え選手もいない小所帯なので二試合するのは厳しい。一人は確実に倒れそうなのが居る。

「あっした!」

再び整列して甘中のバスを見送る。

 そうして久しぶりの、研二にとっては初めての常南中野球部の試合は終了した。結果としては五回コールド、完敗である。

「みんな、ご苦労! 結果は残念だったが、次があるからな! ネバーギブアップだ。あきらめずに何度でもちょーせんすることが大事だ! いいか、どっかの国の偉い人が昔言ってたような気がするが」

「みんなどうだ? 今日の試合で何かつかんだか?」

 無駄に長いあずきの話を無視して薫子が話し始める。

 琴音、小鳥、桜井の三人はそれぞれ、頷いている。

「ユーカはどうだ、このチームが勝つために自分に何ができると思う?」

 指名された彼女ははいっ、と立ち上がって、

「あたし、くやしいです! もっともっと上手くならなきゃ……せめて先輩たちに迷惑かけないくらいに」

 うん、と薫子はうなずいて

「そうだな。アンタはもう少し基本を練習したほうがいい。 ……コガケンは、どうだ」

 研二はうーん、とうなった後、

「わかりません。今のポジションで自分に求められるのはみんなのサポート的な感じだから、バッティングなら確実にゴロを打つ技術とか、バントとか。あとは地道に守備力をあげるとか、ですかね」

 よし、と頷いた薫子は

「じゃあ、これで解散。公式戦の一週間前まではそれぞれが自分に足りないものを練習するように。ユーカとコガケンは、アタシの指示に従うこと。以上!」

 なんとバラバラで特訓だという。どうなるんだ一体、と研二は不安になった。

 何やらされるんだろう?

「……というような故事? だっけ、まあそんな感じの昔話があってだな。つまりソンシだかいうじいさんはこう言いたいわけだ」

 あずきのどうでもいい話に付き合わされるサポートメンバーの三人。青い顔の石川が「体調が悪いので帰っていいですか」と手をあげた。






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