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6月 追い込め試験勉強

【6月 追い込め試験勉強】



様々なタイプの人間がいる。



毎日勉強して、良い成績を残すタイプ。


毎日勉強しなくても、良い成績を残すタイプ。


毎日勉強しても、良い成績が残せないタイプ。




そもそも勉強しないから、良い成績を残せないタイプ。




七織は完璧に『そもそも勉強しないから、良い成績を残せないタイプ』の人間である。



6月も最終週となり、学校内は7月頭から始まる一学期期末考査に向け、空気が試験モードに移行していた。

部活動も、この期間は休止となり、生徒は早々帰宅するか図書室で自習したりしている。


試験前だからと言って、帰宅してすぐに勉強に取りかかる者は少なく、殆どはこの機会に遊び回るのだが、


今回の七織は、そうはいかなかった。




「国民の三大義務は……、食事、睡眠、運動…………」

「三権分立の三権とは……、東京、埼玉、千葉…………」



放課後の教室に、沈黙が訪れる。

夕方、梅雨の晴れ間の夕焼けが差し込む教室。

遠くから小学生だろうか?子供の楽しそうな笑い声が風に運ばれて耳に届いた。


「………七織さん………」

その静寂を破ったのは、鳳だった。

夕日に照らされた鳳は、どこか儚げで、ただ、確実に沈痛な面持ちをしていた。

どう言えば良いか、言葉を探している様子だ。


「七織、よくお前、入学できたな」


目の前の諒から容赦のない言葉が降ってきた。


「オレも大概バカだけど、七織のバカレベルには勝てねーわーー。てか、マジか、コレ」


容赦ない追撃。



撃沈する、七織。




「あ、いや…七織さん……。あの…。常識レベルの問題に躓く七織さんも、私は好きだ」

「オーサマそれ傷抉ってるー」

「そんなつもりはない!!七織さん!!安心してくれ。私は知能指数が低くても人間それだけではないと…」


「あーーーーー!!!もうやめろおおおおお!!!わかってんだよ!俺はバカだって!!わかってんだよおおおおおお!!!」


何かが限界突破した七織の叫び声は、一年の教室フロア一体に響き渡った。





自販機でいちご牛乳を買ってきて与えると、ようやく自暴自棄になった七織は何とか落ち着きを取り戻した。

「では、落ち着いたところで…先程の問題だが、」

「食う、寝る、遊ぶ」

「うむ。それはとある車のキャッチコピーだな」

「それより、何なん??この東京、埼玉、千葉って。意味わかんねー」

「サンケンブンリツとは、関東の三つの県が仲が悪くて対立している事でアル……」

「他の四県どうしたし。つーか勝手に仲悪くすんなし。東京は県じゃねーし。いや、そもそも、そのケンじゃねーし」

諒のツッコミが痛い。七織は何か言われる度に「ぐぅ…」とか「ううう」とか言葉にならない呻き声を上げている。


普段は七織から容赦のないツッコミを受けている諒としては、この立場逆転状態は気分が良い。興が乗ってきた。


「七織これ、まじでヤベェわぁw中学生レベルっしょ?どうすんのー?一学期の期末でこれってヤバくねwヤバイっしょw」

アハハハーと笑っていたら鳳に腕を小突かれた。

「斉賀さん、これ以上は七織さんがもたない。やめてくれ」

え?と七織を見ると、

机に突っ伏し、見るからに萎れている。

「おーい?七織ー?どしたー?いつもみたくツッコミかませー?」


………………


返事がないただの屍のようだ



「って、おーーい!!生き返れ!!勇者七織よ!!!オーサマ!いちご牛乳追加ー!!!」



結局、七織復活までに、二本目のいちご牛乳と、追加のチョコレートドリンクを流し込むことになった。







「成績は中の中なんだよ。ただ、ちょーーーっと文系が苦手なだけで」

「ちょっとのレベル越えてるべ」

「七織さん、昨日は数学の方程式を解きながら理系は苦手と言ってなかったか?」

「………すんません。勉強が苦手なんです」

なんだ、この、尋問は……

これが面接だったら確実に家に帰ってから泣いて立ち直れない。


「しかし、これは付け焼き刃でどうにかなる話ではない。そこで、」

一旦言葉を区切ると、鳳はいそいそと鞄から何冊かのノートを取り出した。


表紙には『七織さん専用』と書いてある。どうやら自分にあてたものらしいと思った七織は一冊手に取るとパラパラと中身を確認した。



「これは…!!」

「そもそも根底からやり直さなければ手に負えないレベルだが、今回は時間がない。そこで、テスト範囲内の、出題が予想される箇所を重点的に学習して貰えるよう纏めておいた。このノートの内容を詰め込めば、平均点はクリア出来る」


そうだ。鳳桂一の肩書は文武両道ハイスペックイケメンだった。決して偏愛天然コミュ障イケメンではなかったのだ。


「鳳ぃぃ」

ただただ、友情に感謝だ。


さらっと酷い事(事実)を言われていた気がするが、そこは聞き流そう。

自分から傷を抉りに行く必要はない。


諒が、ズリィ!!チート!!と喚いているが、構っていられない。そう、七織には時間がないのだ。


心機一転。

絶望から立ち直った七織は意気揚々と英語の対策ノートを開いた 。






「……………すまん、鳳。この、be動詞ってなんだ。beいなくね?」





鳳は、その晩、七織専用対策ノートの見直しを余儀なくされた。




迫り来る7月を前に、

七織と鳳、と、ついでに諒の暑い夏が始まろうとしていた。

七織への超短期スパルタ補習と言う名の暑い夏が。

「諒は良いのか?試験勉強」

「…」

「諒…」

「ホラ、あれだよ。追い込まれてる奴見てっと、冷静になれるというか、まぁ、そっすね。七織ほどじゃねぇけど、ヤベッス」

「友よ、やはりこちら側の人間だったか。歓迎するぞ共に修羅の道へ赴かん」

(七織さんと同じ道……羨ましいな)


今回、本作のツッコミが機能しておりません。放し飼い状態です。




私は社会と国語と生物に成績極振りでした。

数学で全問答えて平均点は自信あったのに、17点と採点された過去、忘れない。

次から7月編です!

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