5月 球技大会
昨日七織誕の為、7月に飛びましたが、再び本編5月に戻ります。
【5月 球技大会】
新生活早々大騒ぎさせられたラブレター事件がとりあえずの解決を迎え、5月も半ば。五月病全盛期のこのタイミングで、高校生活最初のイベントがやってきた。
球技大会。
学年関係なく競い合い球技No.1を決めるガチンコ青春バトル。
そのイベントを前に、
「えーオレ応援でー。チア希望ー」
「まじか、一人一種目とか…時間調整すれば3いけるだろ…」
七織と諒のモチベーションは両極にいた。
因みに前者が諒で後者が七織。
「七織さん、運動好きなのか。そんな…七織さん…好き…」
これは、鳳。
「意外だよな!七織って見るからにインドア系じゃん?球技大会とかダリィってタイプかと思ったー。つーかオーサマそんなキャラだったん?」
補足するとオーサマとは鳳のことである。
完全無欠の孤高の貴族と評される鳳の陰の呼び名だ。鳳様→オートリサマ→オーサマという変革を遂げているらしい。なお、主に男子がやっかみを含めて呼称することが多いが、それを本人に堂々と言う諒は鋼の神経をしていると七織は思ったし、諒の目の前で通常運転をする鳳も鋼の神経だし、そもそも普通に友人として溶け込んでいる諒と鳳の精神構造は鋼通り越してレアメタルか何かだと思う。
「それで、七織さんはどの競技に出るんだ?」
「んーサッカー…いや、バレーも良いな…」
「オレ的には女子と一緒に体育館使うバスケ、バレー、卓球がアツい」
「サッカーかバレーか。わかった」
「可哀想になるから諒の事も少しは拾ってやれよ。鳳はどうすんの?」
「テニスだ。テニス部は強制エントリーだと聞いた」
(……こいつ、テニス部だったのか…)
勝手なイメージだが、乗馬とかフェンシングとかクレー射撃してそうなイメージだった。そもそも乗馬部もフェンシング部もクレー射撃部もないが。
結局、七織と諒はサッカー、鳳はテニスにエントリーすることになり、球技大会当日。
七織は鮮やかなドリブルからの強烈なシュートをお見舞いし、そのボールは見事ゴールネットを揺らしていた。
(最高だ…)
七織は心の中で感動で咽び泣いていた。
耳に届くのは女子の声援。「え!佐藤くん凄くない?」「サッカー部?」「えー違うのに、あんな上手いのー?」「佐藤くんって身長高いし、スポーツ得意なんだね!」
(いいぞ!!もっとチヤホヤしろ!!)
「七織ー、顔、デレデレしてっぞー」
諒が飽きれ気味に忠告してくれた。いけない、気を引き締めねば…
諒にはすでに言ってあるのだが、七織の球技大会好きの理由は、この瞬間が最高に気持ち良いからだ。
運動部じゃない、クラスにいる地味系男子が実はスポーツ万能だったという意外性。突然のスター襲来に沸く女子。「え?佐藤くん、こんなカッコよかったんだ。ドキッ」ってなる女子。
(見たか運動部の連中よ…!!!漫研部員の地味男が脚光を浴びている!この!瞬間を!!見えているか!!漫研部員に負ける!己の!!無力さが!!!!)
「七織ー、顔、めっちゃゲスいぞー」
諒は内心で、だいぶ拗らせて屈折してしまっている友人を心配していた。
ゲーム終了。1年1組は見事勝利し次の試合に駒を進めることになった。
七織の思惑通り、クラスの連中からは「凄いじゃん」と持て囃されて最高に気分が良い。
すると、七織の目の前に、すっと白いタオルが差し出された。
(これは…!!男子憧れの「タオルよかったら使ってください」シチュエーションきたか!!)
ふわふわの見るからに上質そうなそれを、少し恥ずかしそうに差し出す、
「七織さん…よかったら使ってくれ…カッコよかった」
頬を赤らめる鳳桂一。
「お前か!!!!!まぁ、そうだろうなって思ったよ!!!!そう思った自分が悲しいよ!!!!!しかもすっげぇもふもふだな!!」
「今日の為に用意した、世界に一つだけの特注品だ」
「重い!!」
タオルに罪はないので、有り難く使わせて貰うけど!と七織が魅惑のもふもふタオルに顔を埋めていると、
どっと衝撃が来た。胸の辺りに温もりを感じて恐る恐る伺い見ると、これもまぁ予想通り、鳳が胸に縋っていた。
「七織さんの運動神経の良さは常に体育の時間に目で追っていたから知っていたが、まさかサッカー部レギュラーの二年生までをも凌駕するとは思っていなかった。ボールを操るとは正にこの事。七織さんのボール捌きには無駄がなく流麗で、まるでボールが意思を持って動いているようだ。何より七織さんの場を読む力が素晴らしい。後半30分、相手に生まれた一瞬の隙をつき、ボールを奪いドリブルで3人抜いてからのミドルシュートには、興奮を禁じ得なかった。あの瞬間、私はこの人を好きな自分が最高に誇らしいと思った!私は七織さんが好きだ!」
こいつ、息継ぎどこでしてるんだ…と思うくらいの饒舌さで捲したてる鳳。かなり興奮のご様子だ。
しかし、七織としても、あの、クールキャラの鳳様が目をキラキラさせ、自分の活躍を褒めるという状況には悪い気はしない。
なので、七織は、リアクションを間違っていることに気付かなかったのだ。
お馴染みの言葉だったから、いつもの要領でスルーをしてしまったのも間違いだった。
「あはは、そうかそうかー」なんて言って笑ってる場合じゃないのに…という諒の心の声は、残念ながら、浮かれ気分最高潮の七織には届かなかったのである。
次の試合が始まる頃には、
「鳳桂一と佐藤七織はデキてる」
という事実無根のレッテルがデカデカと貼られていた。
勿論、試合相手、引いてた。
女子からの喚声が、なくなった。
変わりに「鳳くん、よかったね」「鳳くんの彼氏凄いね」って言葉が聞こえた。
クラスの奴ら、「まぁ、いいんじゃないじゃないか…?お、応援してるぞ…?」って腫れ物扱うみたいに接してきた。お前ら何で俺から距離取る。
この誤解は、後に解かれるわけだが(めっちゃ必死に、違う自分はノーマルだ、と叫んだし、なんならちょっと泣いた)、無論、七織の「球技大会で活躍して女子にモテる計画」は木っ端微塵に粉砕された。
「ところで、鳳、俺が返したタオル、どうした」
「…………………クリーニング中だ」
「おいなんだ今の間は。なんでこっち見ないんだ、おい」
今回、球技大会を扱ったわけですが、私の球技大会の記憶、何年生だかで卓球やって、さっさと敗退してアイスココア飲みながらマンガ読んでた記憶しかありませんでした。
次回から6月編です!!
宜しくお願い致します!!