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5月 ラブレターの理由

【5月 ラブレターの理由】



ラブレターの犯人が判明し、その相手とまさかのお友だちからスタート(七織としては恋愛を成就させる気は微塵もない)を切ることになったその日の昼休み。

毎日毎日、好きだと言ってきたラブレターの送り主、鳳はソワソワと七織を伺い見ていた。


(…普通に話し掛ければ良いのに…)

コミュ障気味の友だち初心者に呆れながら、

「鳳、昼一緒に食べる?」

というと、鳳は目を輝かせて頷いた。首もげるくらいの勢いで。

隣の席から椅子だけを移動し、「ありがとう。嬉しい」と、はにかみながら言う鳳。すっと、七織の隣に肩を寄せるようにピットインしてきた。

「ハハ…可愛いやつめ。……とでも言うと思ったか!!!近い近い!!」

肩を押し返すと「そうか」と言って、別段残念がる様子も、気分を害した様子もなく机の右側に移動した。

「お前、距離感近いよな」

「そう、なのか?……じいはこれくらいの距離感で接してきていたから、この程度のものかと…」

ブツブツと思案する鳳。

今「じい」とか聞こえた気がする。

(鳳って、もしかして本当に貴族…?金持ちのお坊ちゃん…??)

なら、この常識からの豪快なまでの脱線状態も頷ける、かも知れない。

今度聞いてみよう。友だちになったばかりの相手に「なぁ、お前、金持ちなの?」って聞くのもどうかと思うから、今度。

かわりに七織は朝聞きそびれた事を聞いてみた。


「あ、そうだ。なんでラブレターなんて送ったんだよ。今時だし。それに、内容も途中からストーカーからの恐怖文だったし、どうしたかったんだよ、あれ」

ラブレターのイメージといえば、相手に好きですと伝えて、例えば放課後呼び出したり、若しくは名前を書いておいて付き合って下さいと書いたりするものだったので、ただ毎回、七織についての事と好きですという自分の気持ちしか書いていない差出人不明の手紙の意図がわからなかった。


「それは」

と区切ると鞄からおもむろに一冊の本を取り出した。

「私の教本だ」

鳳の手には、B6サイズ程の、ごく一般的なサイズの単行本。作品も作者も知らなかったが、その出版社は知っているし、有名な少女マンガ雑誌のロゴがついていた。

イラストの感じや色の塗りからして、自分の母親世代、いや寧ろもっと上の世代の作品じゃないかと思われた。

教本と称されたそれは、その名に相応しく、何度もページを捲ったであろう、くたびれかたをしていた。そしてなにより目を引く物凄い量の付箋。

漫画家が資料として自分描いた過去の漫画に付箋を貼ることがあるとは聞いたことがあるが、きっと恐らく、鳳の教本の付箋のおびただしさには敵うまい。


どや顔の鳳が教本を渡してきたので、恭しくご拝借させて頂く。パラパラとページを捲ってみると、内容としては、まぁ典型的な少女マンガだった。

内気なヒロインが校内イチのモテ男の爽やかイケメンヒーローに一目惚れし、その思いをラブレターに乗せる。勇気がなくて名乗れないヒロイン。手紙の差出人の純水な気持ちに心惹かれていくヒーロー。青春の爽やかさ、初恋の甘酸っぱさやほろ苦さを感じるストーリー展開だ。多分。この教本、続き物だからオチわかんないけど。


「七織さんと出会ったときの胸のざわめきは、まさに、この教本に記してある「恋に落ちた瞬間」に価すると判断した」

「あーーー…確かにそうねー…状況似てるねー」

内気なぼっちヒロインが教室の空気に馴染めず俯いていたところにヒーロー登場。「おはよう (キラキラ)」「ヒーローくんは私にも優しい(トクン)」

言われると状況が似ている。大前提として性別違うけど。


「この気持ちをどう鎮めれば良いか、考えた結果、やはりここは、教え通りに事を進めることにした。このページの青い付箋。青い付箋は参考にすべき行動の箇所に貼ってあるのだが…ここ「伝えたい思いは全て手紙に乗せて…相手に届け!」これに倣い、伝えたい事を書いて送った」

「だから、一回お礼言われたのか…。いやいや!何でもかんでも思った事を書けば良いってもんじゃねーよ!あと服のアドバイスもありがとう。あのセーター似合うと好評です」

指摘されたページには確かに今、鳳が言ったことが書いてあった。



参考すべき行動の目印である青い付箋を辿ってみると、他には「気になる彼のこと目で追っちゃう」とか「ちゃんと読んでくれてるかなぁ…気になるから下駄箱で待ってみよう!」とかのシーンがあった。


あーー…心当たりがありすぎる…

因みに付箋はあと、赤と緑があった。ついでにこの付箋の意味を聞くと、

「赤が理解に及ばない描写故、今後研究する案件。緑が共感ポイントだ」


赤の付箋箇所「気持ちを聞くのが怖い」「私を見ないで恥ずかしい」「私だって気付かなくて良い」。


緑の付箋箇所「貴方がいたから救われた」「毎日貴方が好きになる」、


「もっと皆と喋りたい」「動けない自分が悔しい」「高校で変わるって決めたのに、私の意気地無し」「明日は上手く笑えるといいな」



七織は気軽に覗いてはいけない鳳の心の中を垣間見てしまった気がして緑の付箋は触れなかったことにした。

なので、そこはあえてスルーして次の話題に移る。


「今朝、別に隠れてるつもりはないって感じだったな。成程…赤の付箋…」

「うむ…どうしても理解出来ない。直接伝えられないもどかしさが強い。溢れる思いを伝えるにはラブレターだとあるから倣ってはみたが…」

「なら、最初から自分が出したって名乗ってくれれば良かったじゃん。俺、本気で後半怖かったぞ?!」

「言おうとしたが、七織さん、教室に走って行ってしまった」

…えええ…。そんなことあっただろうか?

「いつ?」

「一番はじめ」

一番はじめ。そう言われて先週の記憶を掘り起こす。

はじめてラブレターを貰った日、鳳が後ろにいて、なにか言いたげに七織の右側を指して…


「あああああ!!!あの時か…!!!ああああああ!!!そうか!!鳳自分の下駄箱じゃなくて、俺が持ってた手紙を指してたのか!!!」

こくん、と頷く鳳。

そうか、どうやら、鳳の犯行だと気付く一番のチャンスを自分の早合点で潰していたらしい。そして拗れさせたらしい。これは所謂…

「自業自得じゃねぇか…」

七織はぐったりと机に突っ伏したのだった。




七織が机と仲良くなっていると、頭上から楽しげな声が落ちてきた。

「これから宜しく。七織さん」

「はいはい。宜しく」

見ると、鳳が緑の付箋を教本に貼っていた。


新しく更新されたページには「はじめての友だち出来て嬉しい。明日からの学校が楽しみ」というセリフ。そこに真新しい緑の付箋が追加されていた。





「って言っても明後日からまた連休だけどな」

「七織さん、ではこれを」

「なにこれ、スマホ??」

「NAS○で開発された発信器だ。地球上ならどこにいても、今いる居場所の情報を知ることが出来る。更に同時に音声を拾い会話を聴くことも可能」

「おまわりさーーん!!!!!」




これで、序章完結です。

あとは、ゆるく!楽しく!高校生活を描きます!!やったね!気が楽だよ!

今回、ちょっと古い少女マンガを出して、「母親世代」と書きましたが、今の高校生の母親世代って、若いと32歳くらいなんですね。書いてる本人が一番戦慄しました。

気づけば(年齢的に)遠くに来たもんだ……

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