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~オリエンテーション~

「帰るわ」

「なんでですかー!!!???」


 私は開口一番にそういった。いや、いきなりあんなことを言われたら誰だってそうだろうけど……


「いやはや、申し訳ありません。しかしワタシはあなたの名前を知らなくてですね」

「……名前も知らない人を誘うってどうなの」


 私はつい、この胡散臭そうな男性を半眼で睨んでしまった。…そう、男性だ。この男性何か普通と違う。服装はスーツを着てはいるが背中にはマント、片目の部分にはダイヤの形のモノクル(だっけ?)をかけている。それにぱっと見で最も目立つのが、髪。


「その髪色、染めてるの?」

「いいえ?ワタシ、地毛ですので……染めたことなど一度もございません。」


 なんというか、ピンクとか橙とか紫とか…いろんな色が混ざってる?いや、見る感じによって微妙に色が違って見える。焔光色……オーロラみたいな感じ。


「まぁ、ワタシの事とかいろいろ話すこともあるので……とりあえず席にお座りください」


 彼が指で指し示す先にはイスと机が置いてあった。なんていうか、それなりに広い教室なのに置いてあるのがこれだけって…しかも窓際だから日光強いし。


「ねぇ、移動させていい?」

「ダメです☆言ったでしょう?ワタシはあなたの人生を豊かにする為に教えるのです」


 ?窓際の席一つで人生豊かになるの?


「いえいえ、まさか。ですが一つの手段と思ってください」


 ふーん……ていうか自然と心読んでない?何その能力、テレパシー使えちゃう系なの私。


「あの、そういうのも全部話すのでとりあえず座ってもらえません?」


 まぁ、そういうことなら。そこで私はあきらめてその席に座った。真昼間の日光が私の肌にささり、そして……


「風……?」

「そうなんです。この教室って日当たりがいいんですけど、それと同じくらい風の通りもいいんですよ」


 そういって胸を張る奇術師みたいな男性。なんというか癪に障るが…まあ、確かに悪くはない。


「気に入ってくれたようでなによりです。それではオリエンテーションと参りましょう!」


 そう言うと、後ろの奥の準備室の扉が開き、どことなく見知った感じの男の人がホワイトボードをもって現れる。


「……あ、私にここの紙を渡してくれた人」

「おや、お気づきですか。そうです、彼はワタシの従僕『ドッペルゲンガー』君です。ん?君かな、さんだったかな……?」


 どっぺるげんがー?それって確か……


「なんだっけ……いろんなモノに変わるやつだっけ?」

「そうですそうです!ご存知でしたか。ならば説明は早い」


感心したように、両手を合わせて笑う男性は笑う。彼がそう言ってる間にドッペルさんはホワイトボードのセッティングを終えていた。男性は「お疲れ様」と声をかけ、指をパチンと鳴らした。


―ボフンッ


 そんな音を立ててドッペルさんは跡形もなく消えた。唖然としていると、鳴らした主の男性は私の反応を楽しむようにクスクス笑う。


「安心してください。亡くなったわけではありません。彼らは『擬態』しているとき以外は、真っ黒な微粒子の状態で暮らしているのです」


 そ、そうなんだ。ちょっとびっくりした……あ、確かによく見てみると消えた辺りがちょっと黒く見える、かも。


「ふふっ、安心しましたよ。人が消えるところを見てびっくりしてくれるような人で」

「……あんた、私の事を変わった人だと思ってない?結構普通だよ、私はさ」


 なんていうか、そこまで変人みたいに見られてたのなら、怒りよりもがっかり感の方が先に来るよね。……あ、そういえば。


「そういやさ、私はあんたの事をなんて呼べばいいの?名前とか聞いてないよね」

「そうですね。それではお話をいたしましょう」


 そういって彼はさっき準備してもらってたホワイトボードにでっかく幻想学、と書く。マジックで書いてるとはいえ、結構字がきれいだな。


「ふふっ、ありがとうございます」


 だから読むなよ。


「えと……まず、ワタシの名前からですね。ワタシはファンタジア。ジア、とお呼びください。この幻想学を教えている教師です」


 ファンタジア……偽名にしか聞こえないけど、まぁいいか。てか先生だったんだ。どう見てもサーカス団の一人にしか見えない。


「そして、次はあなたの番ですよ。さぁ、マドモアゼル。あなたのお名前は?」

「アスカ、孤城こじょう 明日香あすかだよ。よろしく」


 頬杖を突きながらめんどくさそうに自己紹介する。普通に見れば礼儀にかなった行為とか言えないけど、相手は普通とは程遠い教師モドキ。これくらいの対応でも問題ないでしょ。しかし、そんなことを気にした様子はなくファンタジアことジアは口の中で何度も「アスカ、アスカ……」と反芻する。


「アスカ、ですね。よろしくお願いします!いい響きですね。ワタシは好きなタイプです!」


 なるほど。よくわかんないけど、彼の琴線に触れたらしい。


「ごめん、悪いけどアンタの名前はあんまり好きじゃない響きだね」

「そういうところもいいですね!!正直なのはいいことです」


 ウンウン、と何度も頷くジア。……なんかめんどくさそうだなぁ、この人。嫌いではないけど、なんか苦手かも。


「そこらへんはあきらめてください。ワタシへの好感度的な何かはこれからゆっくり上げていってください。それでは幻想学とは何かを説明していきましょう」


 だから心を読むことに対しては……って既になんか書き始めてるし。もういいや、後で聞こう。


「ところでさ、ワタシ以外にアンタの授業を聞く人はいないの?てか席も一つだけだったし」


 無駄に広い教室を見回して、アスカは言う。


「えぇ、今回はアナタだけです。この幻想学というものは私の指定した生徒だけが受けることが可能なのですよ」


 今回は、ってことはまた別の人に受けさせたりすることもあるのかな。


「えぇ。そういうことも考えています。……あ、もしかして嫉妬ですかね?専属とかじゃなくてちょっと悲しいとか思ってたり」


 かわいそう


「え?」


 こんな人に目を付けられるとか…気の毒すぎる。もう涙しか出てこない。


「ちょっと!ワタシがあなたの心を読めるからって声に出さなくていい訳じゃないですからね!って、無言で悲しそうな顔をしないでください!!」


 ちぇっ……あ、そうだ。


「あのさ、今更だけどなんで私の心っていうか思ってることを読めるの?普通に声に出さなくても応答するよね、アンタ。それについても教えてくれるんでしょ?」

「あぁ、そうですね。では本題の前に私の事について…ワタシは普通の人間、つまりあなた方とは種が違いましてね。幻想学の語源ともなってもいるのですが、『幻想種』という特殊な種族なのですよ」


 人じゃない、ってとこには普通に納得できる。今までの中でもそうだったし、さっきのドッペルさんの件もあってそんなに驚いてはいない。


「その幻想種?っていうのは人間とはどう違うの」

「質、次元が違います」

「……」

「……」


 え?待って待って。


「質?次元?ちょ、ちょっとよくわかんない……」

「そうですね、ワタシもわかりにくい説明だと思います。しかし、これ以上に端的にワタシ達を指し示す言葉はないのですよ」


 困ったように笑いながら、ジアは続ける。


「もう少し難しい話になってしまいますが、頑張ってついてきてください。……幻想種とは人間達が住む次元、世界の裏側に住む種族なのです。そもそも世界とは次元とは何か。それは幾重にも重なった板のようなものです。板の一枚一枚にこのあなた方が今過ごしているような様々な世界が映っているのです。この板、次元にはあなた方のような人間が暮らすモノですが……ここから三枚程次元を超えればそこにはワタシのようなモノが跋扈する世界となっているのです」


 ……ちょっと難しい話だけど、なんとなく理解はできた、と思う。私の難しげな顔に気づいて、ジアは「仕方ないですよ」と言いたげに笑う。


「幻想種、と一口に言ってもそれは様々なモノで成り立った種族なのです。カテゴリ分類の仕方で言えば、『人間』と一緒のようなものです。恐らく、あなたも一度くらいは幻想種の一部を目にしたことがあると思いますよ。いや、目にしたことはないかもしれませんが聞いたことはあるはずです」


 いや、あんたみたいなヤツなんて見たことも聞いたことも……


「聞いたことはありませんか?森に住むといわれた耳の長い彼らを。鉱石を掘り鍛冶を得意とした体躯の小さい彼らを」


 ん、それって


「もしかして……エルフとドワーフ?」

「大正解。素晴らしいですね!」


 ジアはパチパチパチ、とアスカの事を褒めたたえる。……まぁ、たまに読む小説とかに載ってるのを見たことあるからこれくらいはね。けど、これくらいで褒められるのはちょっと恥ずかしいかな。


「でもさ、あれってあくまでも創作の中の話でしょ?あんたも相当なソレ系の奴だけど……」


 アスカの問いにジアは「確かに」と頷く。


「あなたの言う通り、あれらは創作の中のモノです。……いえ、あくまでも今この世界に限っては、ですね」


 意味深に笑うジア。なんだろう、この笑い方はあんまり好きじゃない……もったいぶらずに教えてくれてもいいのに。


「もちろん勿体ぶるようなことはしません。結論から申しますと、それらは存在します。こちらの世界ではなく、あちらの世界にですが」

「その……なんだっけ、三枚下の板の世界ってこと?」

「そうなります。ですが、大昔にこの次元を通り抜けてこちらへとやってきた人間がいたのです」


 なるほど。なんとなく、話が見えてきたかもしれない。創作の中のエルフとかは本来、幻想種が住むという三枚下の世界にしかいないからこっちの世界では確認されない筈だった。けれど、なんらかの方法で私たち人間の誰かが次元っていうのを通り抜けて向こうの世界の幻想種とコンタクトした。


「……ってこと?」


 いつの間にかついていた頬杖もなくして、彼女は考えの答え合わせをジアに問う生徒となっていた。ジアは微笑み、ゆっくり頷いた。


「大正解です。その人間によってこちらにワタシ達の一部が伝わったのです」


 ふーん……ずいぶんと思い切ったことをしでかした人もいたものね。アスカはつい感心してしまった。


「幻想種、というものをまとめると創作物の中に出てくるような超常的なモノの集まりとなりますね」

「……幻想種についてはわかった。つまりそれについて調べるのが幻想学ってやつなの?」

「微妙に違います。」


 違うんかい。どう考えてもそういう話の流れだったじゃん……


「あくまでもそれは最終的な目標に至る為の手段と考えて下さい。」


 手段……そういうことなら、


「目標ってなんなの?」

「……あなたには、幻想種を見て、聴いて、触れてもらいその経験を通して、あなたのこれからの人生に役立ててほしいのです」


 ずいぶん壮大なものになったなぁ……


「だから人生を豊かにするとかなんとか言ってたのね。まさか、本当にそれが目標だとは思わなかったよ。」

「ワタシは基本的に嘘は言いません。すべて本気です。本気と書いてマジと読むのですよ」


 あぁ、うん……そうだね。


「冷たいですね。先生は泣きそうです」


 ちょっと冷たかったかな。私はさめざめと泣く先生に向けて、話しかける。


「あの、それで具体的な話に移ってもらってもいい?」

「まさかの無視を決め込むスタイル!?今の流れは慰める感じでしょう!!」


 いや、そういうのいいから。


「冷たいですねぇ……まぁそういうところもわかってはいましたが、直接やられるとつらいですね」


 ドヨーンという効果音を鳴らしそうな動きで、ホワイトボードにまたもや書き込んでいく。


「では、この先ですが……このように進んでいきたいと思います」


 そこにはまたもや綺麗な文字で、一時限目、二時限目、三時限目、四時限目と書いた横に見慣れない地名が並んでいる。そしてそれぞれに時間が割り振られている。それを見ていると……ん?


「あのさ、時間を見てみるとこれからの時間に見えるんだけど……」

「えぇ、そうですよ」


 いやそうですよ、じゃねえよ。


「言葉遣いは気にしたほうがいいですよ」


 ジアはクフフと笑う。先生か!……先生だったわ。


「書いてある通り、これからこのまま授業ですよ。ちょっと変わったマジックをワタシは得意としてましてね。詳しくは省きますが、それで時間の概念をごまかします」


 ごめん、日本語で。


「魔法で時止めます。」


 あ、すごいわかりやすーい…………訳あるか。


「魔法とか……ついにファンタジー感出てきたね」

「まぁ、名前がファンタジアですし」


 ……それもそうだし、幻想学の説明思い出せば今更な感じがしてきた。


「理解してくれてなによりです。それでは、参りましょうか」

「いやいやいや、ちょっと待って?」


 アスカの待った宣言に、ジアは疑問顔で答える。


「え?どうしました?」

「え?じゃないから……は?いや速くない?主に展開が」


 私の慌てぶりを見てジアは笑う。なんだろうむかつく。


「ハハッ、ぬかしおる」

「表出ろ」


 やっぱむかつく。


「冗談はなしにして、一時間後に出発としましょう。それまで準備をしておいてください。具体的にはお手洗いとか心の準備です。水分とかは問題ないので気にしないでください」


 そう言い残してジアはホワイトボードを持ってきた部屋の奥へと入っていく。迅速に行動するジアに対し、アスカはまだジアへのイライラ感と急展開すぎるこの状況に戸惑っていた。


 結局、彼女は状況を整理するのに一時間を要したのだった。

次の投稿日は6/7を予定しています。


6/17更新:遅くなってますが、執筆は進行中です。前編・後編に分けて6/21に投稿します!

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