八話
宿、マナマナ荘
早朝、プルルと電話の着信音が聞こえる。
「何?」
その音を聞いて耳をピンを立て目を覚ました明日奈はワールドセイバーの端末を手に取り、電話に出る。
『姫様、申し訳ありませんが、紫龍機関の本部までいらしてくれませんか?』
「・・・分かった」
明日奈が電話に出ると明日奈がよく知るあの人物が相手だった、彼女から呼び出された明日奈は、分かったと答えると電話を切る。
「マスター?」
「ごめん、ホワイトローズ、呼び出されちゃった、帰って来るまで愛理を頼める?」
「Yes」
ホワイトローズに愛理を任せた明日奈は、鞄から刀を取り出すと腰に装着し、愛理の頭を撫でてから、地球に向けて転移した。
鳥の囀りが聞こえる、心地良い朝の陽気の中愛理は目を覚ました。
「んー、よく寝た・・・って?お婆ちゃんは?」
目を覚まし部屋を見渡した愛理は、明日奈がいない事に気付き、その事を声に出す。
「マスターはお仕事です、愛理」
そんな愛理の疑問にホワイトローズが答えた。
「ふーん、それって、ワールドセイバー?紫龍機関?」
明日奈が所属する二つの組織、その一つは世界を股にかけ、世界の平和を守る組織ワールドセイバー、もう一つは日本を本部を置き、ワールドセイバーが取りこぼした魔導犯罪者の確保や、魔法生物の捕獲を行う紫龍機関だ。
愛理は明日奈がその二つの組織に所属し、どちらの組織でも幹部級の地位を持っているのを知っている、その為旅の途中で明日奈が呼び出されるのは仕方ない事だと理解していた。
「紫龍機関です」
「あー、青葉おばちゃんの方か、いつも美味しいお茶と茶菓子を淹れてくれるんだよねー」
明日奈が向かった場所を紫龍機関と聞いた愛理は、紫龍機関の頭である青葉の顔を思い出す、青葉は愛理が紫龍機関にたまに遊びに行くと、美味しい茶菓子を出してくれるので、大好きな人物の一人なのである。
「それで?愛理、マスターは居ませんが今日はどうしますか?」
「うん、今日は一人で仕事をしようと思う」
この部屋で一人でボーとして居ても仕方がない、ならギルドに向かい、仕事をするのが一番だろう。
「分かりました、お伴します」
「うん」
ホワイトローズを彼女の定位置である、狐の耳の間に乗せた愛理は、部屋を出てギルドに向かう。
クーラの町冒険者ギルド
今日も今日とで騒がしい冒険者ギルドに愛理はやって来た、そして一直線にクエストボードに向かう。
「あら?またまた会いましたね?愛理」
クエストボード前にやって来ると、先にクエストボード前に居た、ラフォリアが声を掛けて来た。
「うん、おはよ、ラフォリア」
ラフォリアに声を掛けられた愛理は、彼女に笑いかけ、そして朝の挨拶をする。
「はい、おはようございます」
ラフォリアも笑顔を見せ、愛理に挨拶を返した。
「それにしても、今日はお姉さんが居ないのですね?」
明日奈が居ないことに気付いたラフォリアは、彼女の事を聞いて来る。
「お姉さん?・・・あーうん、ちょっと別の仕事が入っちゃってさ、後で来るかも」
愛理は一瞬お姉さんと聞き、自分に姉なんて居たっけ?と悩んだが、すぐに明日奈がラフォリアにそんな事を言っていたなと思い出し、言葉を返した。
「そうなんですか」
(残念です)
ラフォリアは内心明日奈が居ない事を残念に思ったが、言葉には出さなかった。
「ねっ?ラフォリア、今日も一人で仕事するんだよね?」
「はい、私にはパーティメンバーなどは居ませんので」
「なら、私と一緒に仕事しよ!」
「良いですよ」
「やった!」
ラフォリアの勧誘に成功した愛理は喜び尻尾を揺した。
「ふふふ、それでは早速仕事を選びましょう」
「うん」
愛理とラフォリアはこの日行う仕事を、二人仲良く選び始めた。
センプーの洞窟、地下一層
ここはセンプーの洞窟、この世界の初心者冒険者達の大半が初めて訪れるであろう洞窟だ、初心者冒険者に丁度良い魔物と階層を持つ洞窟で、キチンと準備を行ってから来れば、この洞窟で命を失う事は無いだろう。
「暗いねー」
「そうですね」
「寒いねー」
「そうですね」
今回の依頼、ジューシーキノコ十五個の採集依頼(報酬は7250ゴールド)を受けた、愛理とラフォリアは洞窟の中を歩いている。
愛理は歩きながらこの洞窟に対しての感想を言うが、ラフォリアがイマイチな反応しかしてくれないので、頬を膨らませて拗ねて黙る。
「見付けました、コレですね」
「・・・」
プーと頬を膨らませる愛理に気付かない、ラフォリアはジューシーキノコを見付けたので、掴み取り鞄に入れる。
「あら?頬をそんなに膨らませてどうしたのですか?愛理」
キノコ採集を終えたラフォリアは振り返り、そこでようやく愛理が頬を膨らませているのに気付いた。
「な、なんでもない」
頬を膨らませているのを見られ、自身の子供っぽい行動が恥ずかしくなった愛理は、すぐに頬を赤く染め、頬を膨らませるのをやめる。
「?」
ラフォリアはそんな愛理を見て首を傾げる。
「い、行こ!」
愛理は赤くした顔を見られないようにそっぽを向きつつ、ラフォリアの手を掴み、洞窟の奥にへと進んで行く。
(ふふふ、微笑ましいものです)
三十分、洞窟内部を歩いた愛理とラフォリアはジューシーキノコを十個集めていた、このジューシーキノコ、その名の通り焼くとジューシーな肉感で美味しいらしい。
「んっ?」
狐の耳を済ませ、洞窟内部の音を聞いていた愛理は洞窟の深部に続く右側から悲鳴が聞こえた気がしたのでそちらを向く。
「どうしたのですか?」
洞窟の奥の方を見る愛理にラフォリアはどうしたのか聞く。
「悲鳴が聞こえた気が・・・」
「悲鳴?」
愛理から悲鳴が聞こえたと聞いた愛理は、彼女の狐の耳を見て、確かにこの耳なら細かい音まで聞こえそうだと思った、そして愛理が見る洞窟の奥の方に自分も視線を向ける。
「キャァァァァ!」
「うわぁぁぁぁ!」
暫く愛理とラフォリアが様子を伺っていると悲鳴が確かな音で聞こえ始め、その悲鳴は徐々に大きくなって来る、悲鳴を上げる者達はこちらに近付いて来ているようだ。
「確かに聞こえて来ます、それも徐々に大きく・・・」
「でしょ?武器を抜いておこう」
少しでも危険が迫っているかもしれないと感じたのなら武器を抜いておけと、明日奈から教わっている愛理は剣を抜く、愛理の言葉を聞いたラフォリアも武器を抜く、彼女の得物は鉄製の槍だ。
「うわぁぁぁぁ!」
「あ、貴女達!逃げなさい!」
大慌てで声を張り上げながら、逃げて来た初心者冒険者達は、スタコラサッサと洞窟の入り口の方向にへと走って行った、一体彼等は何に追われて居たのだろうか?。
そんな不味い存在が来るのであればと、愛理とラフォリアも彼等の後に続き、洞窟の入り口の方向に走ろうとしたが・・・。
「っ!」
愛理は迫る黒い影に気付き、迫る影に向けて剣を振るった、黒い影は愛理の剣を躱し、後ろに飛び下がり距離を取る。
(気付かなかった・・・)
黒い影に気付かなかったラフォリアは驚いた表情を見せる、愛理は黒い影の正体、大きな蜘蛛の姿を見て、剣を更に強く握る、彼から発せられる殺気を感じて戦うしかないと判断したのだ。
「ラフォリア、多分、私達の足じゃこいつから逃げれない、だから戦うしかない、貴女にその覚悟ある?」
愛理はラフォリアに聞く、あの蜘蛛と戦う覚悟はあるかと。
「勿論です」
ラフォリアは覚悟していた、冒険者ならばいつかはこのような戦いが訪れると、だから覚悟はあるかと問う愛理に勿論だと答えた。
「良し!なら一緒に戦おう!」
「はい!」
視線を交わし合った愛理とラフォリアは、巨大な蜘蛛に向けて駆ける。
「はぁぁ!」
まず先陣を切ったのは愛理だ、巨大な蜘蛛の顔に向けて突きを放ったが、彼は横に飛んでそれを躱す。
「ハッ!」
蜘蛛の動きを予測し、彼が飛んだ位置に先回りしていたラフォリアはそこから蜘蛛に向けて槍を振るうが、彼は脚でそれを防ぎ、先が研ぎ澄まされた刃のようになっている脚でラフォリアを押し込もうとする。
「セェヤァ!」
愛理は蜘蛛の脚を下から斬り上げ、押し込み攻撃を止める、脚を下から斬り上げられた蜘蛛の体は一瞬浮いた。
「足に身体強化っと!行っけぇ!」
足のパワーを上げた愛理はまだ宙に浮いている蜘蛛を蹴り飛ばした、愛理に蹴り飛ばされた彼は洞窟の壁に激突する。
「やりましたか?」
「ううん、まだだよ」
ガラガラと瓦礫を掻き分け愛理の予測通り、蜘蛛が這い出して来た、愛理に蹴られた部分が凹んでいるが、まだまだ元気なようだ。
「長引きそうですね」
「だね」
愛理とラフォリアは這い出て来た蜘蛛を見て気を引き締める。
「キシャァァァァ!」
蜘蛛は前足を振り上げ、雄叫びを上げた。