十五話
エルソン高原
星空の下、愛理の声が響いた。
「・・・そうね」
愛理の質問を聞いた少女は愛理に近付くと、愛理の腹に人差し指を愛理の頬に当てる。
「幼い頃、妖狐だけど術で人間に化けていてたまに日本に遊びに来ていた少女の友達って言えば分かるかしら、簡単に言えばあなたと私は幼い頃友達だったのよ、それがあなた日本に来なくなるじゃない、そして久し振りに会ったと思ったら思い出しやしない、それでムカついて殺してやるって言っちゃったのよ、まぁ最初にちょっとふざけて初めましてって言った私も悪いんだけどね」
「えっ?えっ?ちょっ?えっ?」
少女のマシンガントークを聞いた愛理は、幼い頃自分と友達だったと言う少女の顔を改めて見る、しかし・・・。
「えーと?やっぱりどちら様?」
思い出せなかった。
「・・・」
愛理にどちら様と言われた少女は無言で愛理の頬を引っ張る、グイグイ引っ張って来るので正直かなり痛い。
「イフャイ!イフャイ!ほんふぉにおもひだふぇないんだふぉお!」
頬を引っ張られて涙目な愛理は必死に思い出せないと少女に伝える。
「・・・はぁ、仕方ないわね、私の名は潜木麗蘭、勇者連合と呼ばれるその時代の勇者を見守り、監視する組織の一員よ」
少女、潜木麗蘭はあくまで自分の事を思い出せない愛理に、仕方なさそうにため息を吐いてから、自分の名前を言った、愛理の頬を引っ張りつつ。
「潜木麗蘭?麗蘭、れいら・・・、うーん・・・」
麗蘭の名を聞いた愛理は考える、幼い頃にそんな子と会った事があったかと、そして暫く考え込んだ後思い出した。
「思い出した!麗ちゃんだ!、わー!久し振り!」
愛理は思い出す、幼い頃、日本で開かれるパーティに久城家全員が招待され、家族で行った時に麗蘭と会ったのを、愛理は大人達が何かを喋っているパーティがつまらなくて同い歳くらいに見える麗蘭を誘い一緒に遊んだのだ、そしてその後に開かれるパーティの度に一緒に遊んだが、両親がパーティに行かなくなった為、飛空船で会うまで麗蘭と会う事がなかったのだ。
「そうよ、私は麗ちゃん、久し振りね愛ちゃん、もう・・・、あれだけ楽しく遊んだのに忘れるなんて、サイテーよ?」
「あはは、ごめんごめん」
今度はグリグリと頬を指で押して来つつ、サイテーと言ってくる麗蘭に愛理は、あははと笑いつつごめんと謝る。
「まぁ、思い出してくれたのなら良いわ・・・、さて、あなたの様子を見るに私のこの世界での目的は知ってるわよね?」
「うん、私と同じだよね?」
「そう、あの本を捕まえて燃やすのが私の目的、でもあいつ厄介でねー、追い付いても追い付いても逃げられるのよ、あんたなんか捕まえ方、知らない?」
「知らない、私達も一回捕まえて逃げられたし・・・」
「そう・・・」
麗蘭も闇の者が眠る本に逃げられ続けていたらしい、それは愛理達も同じ、折角一度は捕らえたのに逃げられている。
「まっ良いわ、復活するまでは多分まだ時間がありそうだし、いつか捕まえてやる」
麗蘭はそう言うと立ち上がる。
「ねっ、麗ちゃん、私と一緒に来ない?」
愛理は立ち上がり背を向ける麗蘭に仲間にならないかと誘いをかける。
「ふふふ、良いわよ?でもいつでも一緒にいるわけではないわ、私は能力的にも一人で動いた方がやりやすいしね、あなたが呼んだらいつでも私が行くって感じでどうかしら?」
麗蘭はそう言うと一枚の札を渡してくる、その札を受け取った愛理は白花に同じ物を見せて貰った事があるので用途を理解する、この札に魔力を注ぐと元の持ち主は呼び出されている事と呼び出した者の居場所を感じる事が出来る、麗蘭は感じた場所に転移しいつでも駆け付ける事が出来るようになると言う訳だ。
「良いよ、でも私も麗ちゃんが困ってる時に助ける方法が欲しいなぁ、これと同じ物持ってないの?」
「あるわよ?はい」
愛理に同じ物が欲しいと言われた麗蘭は同じ札を取り出すと愛理に渡す、愛理は札に自分の魔力を注ぐと麗蘭に渡す、これで麗蘭も困った時に愛理を呼び出せるようになった。
「ふふふ、これでいつでも会えるね?」
「ふふ、そうね」
金髪の少女と黒髪の少女は笑い合い握手する、そして二人してクスクスと笑い合った。
翌朝
傷をセラピーに治してもらい、愛理は焚き火を炊いて麗蘭と話しながら朝まで休んでいた、日が上がったので愛理は立ち上がる、街に帰るのだ。
「良し行こう、麗ちゃんも来る?」
愛理は馬を召喚すると乗り、自分の後ろをポンポンと叩き一緒に馬に乗り、一緒にエルフィン王都に来るか聞いた。
「うーん、やめておくわ、この島の色々な街を調べてみたいし」
黒尽くめの忍者少女は愛理の誘いを断った、調べたい事とはこの島にある色々な本棚を巡り、闇の者がいないか探す事だろう。
「なら、私も協力しよっか?」
「それも良いわね、でも後にしなさい、先に仲間の元に帰ってからね?」
「うーん、そうだね、帰らなきゃみんなに心配かけるし、それじゃまた後でね!」
「ええ、また、やる事が終わったら札に魔力を注ぎなさい、魔力を感じたら私が札に魔力を注ぎ返してあなたに居場所を教えるわ」
「うん」
そして愛理と麗蘭は暫しの別れを告げた、愛理はエルフィン王都、麗蘭は近くの町に向かう。
エルフィン王都、レベンの家
「愛理!」
レベンの屋敷に戻るとラフォリアが飛び付いてきた、その目尻には涙が溜まっており、愛理は相当心配をかけてしまったのだなと思う。
「大丈夫か?怪我はないか?」
「うん、セラピーに治してもらったから」
「そうか、なら安心だ」
レベンに怪我の心配をされた愛理は、彼が心配してくれた事が嬉しくて微笑み大丈夫だと答える、愛理の返答を聞いたレベンはホッと安心する。
「にしても、帰って来たって事はドラゴンをたおしたんだよな!?どうやったんだ?」
「うーん、精霊のみんなと一緒に頑張っただけだよー」
ドラゴンを倒した方法をケーニに聞かれた愛理はありのままの事を話す。
「そうじゃなくてな、細かくだな」
「細かく?分かった」
ケーニに細かくドラゴン戦について話してくれと言われた愛理は、事細かにドラゴン戦について話して聞かせた。
王城
「予想外だ!まさか本当に倒して来るとはな!良いぞ、本でもなんでも持って行け!」
レジンと共に王城に再びやって来た愛理はエメラルドドラゴンの討伐の印、緑色の鱗をみせると国王はドラゴン討伐を認めた、報酬として好きな本も持って行って良いらしい。
「ありがとうございます」
報酬を得た愛理は嬉しそうに頭を下げる、それを見た王は上機嫌で部屋から出て行った、愛理とレジンも王がいなくなった後部屋から出て、王城の図書館に向かう。
レベンの屋敷
「それが?」
「うん、牡牛座のタウロスの書だよ、見ててね」
牡牛座のタウロスの書を手に入れた愛理は書を開き、召喚準備をする、タウロスとの契約条件はなんでも良い強敵に勝利する事、愛理は既に条件を満たしているので、タウロスを召喚した。
「モー!タウロスでゴワス!愛理殿!お主がドラゴンを倒す所は見ていたでゴワス!契約するでゴワス!」
愛理とドラゴンの戦いを見ていたタウロスは早速契約を持ちかけて来た、愛理は頷きタウロスの胸の辺りに手を合わせる、タウロスも愛理の胸の辺りに手を合わせた、そして二人は魔力を注ぎ混み合い、契約を完了させる。
「モー!これからはいつでも呼ぶと良いでゴワス!いつでもお役に立つでゴワス!」
「うんよろしくね、ゴワス!」
愛理と契約を果たしたタウロスは精霊界に帰って行った、契約を終えた後、愛理は疲労を感じフラリと倒れる。
それを明日奈が受け止める、愛理を受け止めた明日奈は愛理の髪を撫でながら何かを考えていた、仲間達は何かを考える明日奈を静かに見守っていた。
夜
「うーん」
よく寝たらしい愛理が目を覚ます、そして身を起こすとベッドに明日奈が座っていた。
「おはよう、愛理」
「うん、おはよ、お婆ちゃん」
明日奈と愛理はおはようの挨拶を交わし合う。
「愛理、一つあなたに伝える事があるわ」
「なぁに?」
明日奈が自分に伝えなければならない事があると聞いた愛理は首を傾げる。
「私があなたから離れるって事、あなたは仲間を得て、そして身も心も強くなった、だからね?私は思うの、あなたはもう一人でも大丈夫だって、愛理・・・?、これからは私に頼らず、彼等と共に道を切り開いて行きなさい、そしてまた会う時にもっと大きくなったあなたを私に見せて・・・」
明日奈が愛理に聞かせた話、それは別れの話、強くなり、そして仲間を得た愛理にはもう自分は必要ないと判断した明日奈が悩み、導き出した答えである。
「・・・、嫌だ、お婆ちゃんともっと一緒にいたいよ!」
明日奈の話を聞いた愛理は目尻に涙を溜めつつ、離れるのは嫌だ、もっと一緒にいたいと伝える。
「駄目よ、いつまでも私が一緒にいたらあなたはこれ以上強くなれない、私が離れる事、それはあなたの為でもあるの」
「それでも・・・私は・・・」
「大丈夫、私がこの世界からいなくなる訳じゃない、わたしもこの世界にいる、だから会おうと思ったらすぐに会えるわ、だから・・・ね?」
遂に涙を流し始めた愛理を明日奈は柔らかい金髪を撫でながら優しく論す。
「分かった、私これからはお婆ちゃんなしで強くなる」
暫く祖母の胸の中で愛理は泣いていた、しかし涙を止めて明日奈の顔を見ると、明日奈が離れる事を認めた。
「うん」
愛理の言葉を聞いた明日奈は愛理を抱き締める、そして離れる。
「ホワイトローズを置いていくわ、上手く使いなさい、それじゃまた会いましょうね?愛理」
愛理から離れた明日奈はさよならは言わず、手をヒラヒラと振ると部屋から出て行った。
「・・・」
バタンと閉まるドア、愛理はそのドアを見つめながら、明日奈との、大好きなお婆ちゃんとの思い出を思い出していた、そして・・・。
「楽しみにしていてね?お婆ちゃん、次会った時にもっともぉーと強くなった私を見せてあげるから!」
涙を流しながら、祖母に向けて強くなると誓うのだった。
「・・・」
ドアにもたれかかり、愛理の誓いを聞いていた明日奈は、涙を拭き愛理の更なる成長を楽しみにしつつ、屋敷を後にした。
 




