十三話
レベンの屋敷
レジンの屋敷に戻った愛理は服を着替え武器を腰に装着する、これからエメラルドドラゴンを討ちに向かうのだ。
「愛理、エメラルドドラゴンの討伐はこの国の昔からの仕来りで一人で向かわなければならん、君にその覚悟はあるか?」
レジンが王室でエメラルドドラゴンと聞きピクリと反応したのはこれが原因だ。
「あります」
一人でのドラゴンの討伐恐らく困難しか待っていないだろう、しかし愛理は一人で倒してこの屋敷に戻って来るつもりだ、黄道十二門の本を手に入れ自身の勇者の力の覚醒に近付く為に。
「分かった、気を付けてな・・・」
愛理の覚悟を決めた瞳を見たレジンは愛理の肩を叩く、愛理はレジンに頷いてから、仲間達を見る。
「みんな、それじゃ行って来る、必ず帰って来るから」
必ず帰って来る、愛理は仲間達にそう伝えてから背を向け部屋を出て行く、仲間達は愛理の小さいが大きく見える背中を見て信じる、愛理は必ず帰って来ると。
「信じています、愛理」
「あぁ、私もだ」
エルソン高原
レジンは言ったエメラルドドラゴンはエルソン高原の中心地に居ると、王都を出てから馬を走らせ続けていた愛理は、高原の中心地に見える巨大な姿を見て馬を止めて、馬を精霊界に帰す、そして岩の陰に隠れて戦闘の前に周囲の様子を確認する。
「水はある、遮蔽物は無し、地形の高低差は・・・ある、それを利用したらブレスは躱せるかもしれない」
周囲の様子を見て愛理は作戦を考える。
「ブレスを放たれたらとにかくちょっと低くなっている場所に飛び込んでブレスを躱そう、そして飛ばれたらアクエリアスの水で叩き落とす、そして地面に叩きつけられて怯んでいる所をロキと一緒に一気に叩く!」
作戦を決めた愛理は剣を抜き、ドラゴンに近付いていく、一歩近付く毎にもしかしたら死ぬかもしれないと言う考えがよぎり足が震え身が竦む、それを抑えながら愛理はドラゴンに向けて歩を進める。
「・・・」
エメラルドドラゴンは愛理の気配を感じ起き上がる、そして己に近付いた愚かな少女を高みから見下ろした。
「グォォォォ!」
エメラルドドラゴンは叫ぶ、お前のような小物が己に近付くなと、引けば許してやると、しかし叫びに怯まず己の瞳をしっかりと見て来る少女を見た彼は、少女を蹂躙し跡形も無く消し去る事に決めた。
愛理を消し去る事に決めたエメラルドドラゴンは、愛理に向けて前足を振り下ろした、大きな足を振り下ろす事で吹き荒れる風圧に愛理は押し潰されそうになりつつも、前足を躱した。
(なんて重圧!、でも・・・勝つ!)
前足を躱した愛理はドラゴンの前足に近付き、ホーリーソードを発動させ、前足に剣を叩き付ける、しかしその一撃は強靭な鱗を少し亀裂を入れただけで、大したダメージにはなってはいない。
「グルァァァァ!」
しかしその一撃だけでもエメラルドドラゴンの怒りに触れた、愚かな少女如きが、己の鱗に傷を入れたのだ、彼はそれが許せない、エメラルドドラゴンは愛理を一撃で消し去ろうとブレスを放つ。
「くっ!」
目前に迫るブレス、愛理は背を向け、少し地面が低くなっている場所に飛び込むと、身を屈めシールドを張る、シールドを張ったその瞬間真上を灼熱のブレスが通って行き、愛理を捉える事の無かったブレスは空を切る。
ブレスを躱した愛理は隠れた場所から飛び出し、得意ではない縮地を駆使し加速しつつ、ドラゴンの真下に入り込んだ。
「ハッ!」
ドラゴンの真下に入り込んだ愛理は鱗に覆われていない腹を剣で斬りつけた、するとドラゴンの腹の皮膚か裂け大量の血が流れ落ちる。
(お腹の防御力は高くない?なら・・・)
エメラルドドラゴンの鱗はその名の通り美しい緑色をしており、腹以外の部分を完全に覆っている、その為愛理は真下に回り込み柔らかそうな腹を斬りつけてみたのだが攻撃が通じた、攻撃が通じたのをみた愛理は思う、腹を重点的に狙えば勝てるかもしれないと。
「ガァ!」
愛理は次の斬撃を放とうとする、しかしエメラルドドラゴンはその攻撃を許すつもりはない、彼は真下にいる愛理を押し潰そうとのしかかり攻撃を仕掛けた。
「ッ!ッ!ッ!」
上から迫るドラゴンの腹、愛理は慌ててドシュンと音が鳴る程強く縮地を発動させると、ドラゴンの真下から抜け出した。
「危なかった・・・、さっきのがチャンスだったのに、もう狙わせてくれないかな?」
先程の攻撃で自身の弱点が愛理に知られたエメラルドドラゴンはもう簡単に愛理を真下に回らせてくれないだろう、その為どうにかして彼に腹を晒させる必要がある。
「イフリート!」
振り下ろさせる足や尻尾を躱しながら愛理はイフリートを召喚する、イフリートの馬鹿力を知る愛理は彼にドラゴンを引っくり返させるつもりなのだ。
「分かってるよね!イフリート!やっちゃえ!」
愛理の言葉にガッツポーズしたイフリートは、迫る足を掴んで受け止めた、足を受け止められたドラゴンは押し込もうとするが、イフリートは力を振り絞り対抗する。
愛理はイフリートが押している間にドラゴンの腹に近付き何度も何度も斬り付ける、その痛みに気が散ったエメラルドドラゴンの力が緩む、それを感じたイフリートは絶好のチャンスだと、更に力を振り絞りドラゴンを押し飛ばした。
「やったぁ!イフリート!」
イフリートに押し飛ばされたエメラルドドラゴンの体は一回転しようとしている、彼が地面を背中に付け倒れた瞬間愛理は腹に飛び乗り渾身の一撃で一気にトドメを刺すつもりだが・・・。
「そんな・・・」
エメラルドドラゴンは羽を広げ引っくり返る前に体勢を戻した、そして空中からブレスを放つ。
「くぅぅ!?」
エメラルドドラゴンが浮かぶ角度的に隠れてもブレスに当たってしまうと判断した愛理は、シールドを張り防御しようとする。
「イフリート!?」
イフリートが愛理の前に入り込み愛理を庇った。
「シールドで防げるかもしれないのに!駄目だよ!イフリート!下がって!」
愛理は必死になってイフリートに下がるように言うしかしイフリートは下がらず、ブレスから愛理を守りきった、そしてイフリートは光となって消える。
「・・・ありがとう、イフリート」
愛理は自分を守ってくれたイフリートに感謝しつつ、空に浮かぶエメラルドドラゴンを見据える、そして・・・。
「来て!アクエリアス!」
アクエリアスを召喚した。
「見ていたよ愛理、あんたの戦いも、イフリートもね!さぁ!やろうか!」
「うん」
愛理はアクエリアスと手を合わせ、エメラルドドラゴンに立ち向かう。




