十一話
エルフィン王都
レジンに黄道十二門の精霊の本が王城にあるかどうか確認してもらっている間に愛理は、アルバイト的な依頼をやっていた、今回の仕事は売り子である、ノリノリである、報酬は五万ゴールド。
「美味しいですよー!エルフィンパフェ!是非食べてみて下さいねー!」
エルフの王都なのに妖狐の少女が売り子をしていると言う変な状況だが、この王都の住民のエルフ達は妖狐が売り子をしていると言う状況の物珍しさに店に入って行き、観光客、主に男連中は愛理のメイド服姿にやられて恋人がいる場合は頬を抓られつつ、店に入って行く。
「ありがとねー、愛理ちゃん、その調子で頼むよ!」
思わぬ売り上げアップに喜ぶ店長は、愛理にその調子で頼むと言うと店の中に入って行く、それを聞いて更にノった愛理は、精霊を召喚したりしながら客引きをして行く。
「あの・・・、愛理ちゃんの方が宴会芸スキルに向いてそうなのですが・・・」
「あはは・・・、あの子私の神様の血流れてるから・・・、神様って宴会好きなのよ・・・」
働く愛理の様子を見ていた蒼狐が、笑いも取ったりしている愛理を見て自信を無くして落ち込む、そんな蒼狐の隣で頑張る孫の様子を微笑ましげに見守っていた明日奈は、まぁまぁと蒼狐を慰める。
冒険者ギルド
「ふぅ!楽しかった!さぁて次の仕事!」
売り子の仕事を非常に楽しんだ愛理は先程はノせられた結果給料の安い仕事を受けてしまったが、今度は高給な仕事をやるつもりだ。
「はぁ、織物機械が壊れちまった、誰か助けてくれないかねぇ」
「・・・」
愛理は高給な仕事をやるつもりだ。
「今日までに納品しないとうちの会社は終わりだよ、はぁ・・・」
「・・・」
落ち込んだ様子の男性をチラチラと見ながら愛理は仕事を探す。
「はぁ、誰か・・・」
「あぁ!もう!やってあげるよ!」
遂に我慢出来なくなった愛理は男性の前に仁王立ちし、男性に仕事をやってあげると言う。
「ほんとか!?ありがとう!でもどうやって?」
「私、精霊魔導士なの、だから精霊を使えば、あなたの手助けを出来ると思う」
「おお!それなら出来そうだ!給料は沢山出すからよろしくな!」
「うん」
そして愛理は男性と共に工場に向かって行った。
「ふふふ、困っている人がいたら放っておけない性格、愛理のそう言う所、大好きなのです」
「そうだな」
エルフィン王都、外壁
翌日、愛理は王都の外壁の上で話し相手のホワイトローズと共に働いていた、仕事内容は外壁の警備依頼、外壁近くにはキングカエールの他にトツゲキモーモと言う牛型の魔物がおり、トツゲキモーモは壁を見るとトツゲキしなくてはいられないと言う面倒な魔物なのだ。
彼等のトツゲキをやめさせる方法は愛理の真横や等間隔で並べられている鐘を鳴らすと言う物、外壁と街は少し距離があり盛大に鳴らしてもご近所トラブルにはならないので、冒険者達はストレス発散も兼ねてるのか盛大に鐘を鳴らしている。
「来たぞ!鳴らせー!」
「ヒャッハー!」
よっぽど冒険者達はストレスが溜まっているのだろうか、鳴らせーとの指令が飛ぶと、ヒャッハー!とか行くぜぇ!とかオラ!オラ!オラ!オラ!とか認めたくないものだな・・・、とか聞こえて来る、最後のは何か違う気がするが愛理も何か言った方が良いのでは?と思い、ホワイトローズと鐘を鳴らしながら、候補を相談してみる。
「何が良いかな?ホワイトローズ?」
「うーむ、愛理は妖狐ですし、コォーンとか、どうです?」
「コォーン!」
「その・・・もうちょっと考えましょうよ」
「ん?ワン!が良かった?」
「いやその、確かに愛理は犬人系の種族ですが、もうちょっと妖狐としてのプライドと言う物を・・・」
「んー?ならやっぱり、コォーン!」
ホワイトローズと愛理がそんなやりとりをやっていると、周囲が騒がしくなる。
「やべ!ボストツゲキモーモが来やがった!」
「奴には鐘は効かねぇ!ヤベェぞ!」
他の冒険者が指差す先そこには確かに大きなトツゲキモーモがいた、フンフンと鼻息荒く目は血走っており、今にもトツゲキして来そうだ。
「愛理?どうします?」
「うーん・・・」
周囲を見渡すと他の冒険者達は赤い旗を持って下に降りて言っている、恐らくあれで気を誘い、壁へのトツゲキをやめさせるつもりなのだろう、そして彼等が赤い旗を持って行ったと言う事はトツゲキモーモは赤い物にも反応するらしい。
「赤かぁ、うーん」
愛理は考える、自分が出せそうな赤い物を。
「あっ、あった」
「何をするつもりです?」
「それは後のお楽しみ〜」
何か思いついたらしい愛理はニヤけた笑みを浮かべつつ、下に降りて行った。
エルフィン王都外壁、近く
愛理が下に降りて来ると冒険者達がボストツゲキモーモに追い掛けられていた、赤い旗を持つ彼等は必死の形相で逃げており、もう限界!となると旗を放り投げ離脱する。
「イフリート!」
ボストツゲキモーモが赤い旗を踏み荒らしている間に後ろに忍び寄った愛理は、彼の真後ろでイフリートを召喚する、イフリートは赤くその巨体は壁のようだ、つまり・・・。
「モー!」
ボストツゲキモーモの絶好のトツゲキ相手だ。
「イフリート!頑張って!」
イフリートを見たボストツゲキモーモはイフリートに突進する、愛理の応援を受けたイフリートはガッツポーズしてからボストツゲキモーモの角を掴みトツゲキの勢いを止めた。
「投げちゃえ!」
愛理に投げちゃえと言われたイフリートはボストツゲキモーモを持ち上げ放り投げる、放り投げられたボストツゲキモーモは地面を転がる。
「も、モー!」
このように放り投げられた事がないのだろう、混乱したボストツゲキモーモは大慌てで逃げて行った。
「やったね!イフリート!」
ボストツゲキモーモを追い返した愛理はイフリートに拳を向ける、イフリートは愛理の小さな手に拳を合わせるが力が強過ぎた、愛理はイフリートに押し切られ宙で一回転してから地面を転がる。
「・・・暫く、お酒抜きね」
砂だらけになり怒った愛理は、イフリートに酒抜き宣言をする、イフリートはそんなぁと言った仕草を見せるが、愛理は問答無用で彼を精霊界に返した。
「お嬢ちゃん!凄いな!」
「おう!ボスを追い返しちまうなんてよ!」
「い、いやぁ」
イフリートを送り返すと他の冒険者が集まって来て愛理を褒める、褒められる愛理は頭を掻きながら照れる。
「・・・?、マスター?」
明日奈の気配を感じたホワイトローズは、気配を感じた場所、城壁の上を見る、しかしそこに明日奈はいなかった。
(・・・?)
ホワイトローズは確かに明日奈の気配だったと思いつつ、冒険者達と楽しそうに話す愛理を微笑ましげに見守る。




